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化石燃料革命
「枯渇」なき時代の新戦略

定価(税込)  1,512円

著者
サイズ 四六判
ページ数 216頁
ISBNコード 978-4-526-06977-2
コード C3034
発行月 2012年11月
ジャンル ビジネス 環境

内容

技術革新により「非在来型」と呼ばれる新たな化石燃料が次々と発見されている。一方で、そうした化石燃料の大量消費は新たな環境破壊を引き起こす。まだ知られていない新種の化石燃料を紹介するとともに、それによって変わる社会状況や日本の今後の選択肢を示唆する。

石川憲二  著者プロフィール

(いしかわ けんじ)
科学技術ジャーナリスト、作家、編集者
1958年東京生まれ。東京理科大学理学部卒業。週刊誌記者を経てフリーランスのライターおよび編集者に。書籍や雑誌記事の制作および小説の執筆を行っているほか、30年近くにわたって企業や研究機関を取材し、技術やビジネスに関する原稿を書き続けている。扱ってきた科学技術領域は電気・電子、機械、自動車、航空・宇宙、船舶、材料、化学、コンピュータ、通信、デバイス、システム、ロボット、エネルギー・資源、生産技術、知的財産など。主な著書に『自然エネルギーの可能性と限界』『電気とエネルギーの未来は』『海底資源』『「未来マシン」はどこまで実現したか?』(オーム社)、『メモリ技術が一番わかる』(技術評論社)などがある。

目次

序章 化石燃料は「無限」に使えるのか?

第一章 シェールガス革命からシェールオイル革命へ
      ・ シェールオイルは地中のどこにあるのか?
      ・シェール層の開発レースはアメリカの独走
     ・すべてはオイルショックから始まった
     ・地中を水平に掘り水圧で亀裂をつくれ!
     ・全米の天然ガスの半分がシェールガスに
 〔コラム〕タイトガスはタイトサンドガスなのか、タイトフォーメーションガスなのか
     ・世界中に広がるシェールガス田
     ・シェールガスより歓迎されるシェールオイル
     ・シェール層の開発が地下水汚染を引き起こす?
     ・日本のシェールガスとシェールオイル

第二章 カナダとベネズエラを石油大国にしたオイルサンド
     ・カナダで始まった本格的なオイルサンド開発
     ・日本でも利用されたベネズエラのオリノコタール
     ・「石油のできそこない」オイルシェールも有望資源に

第三章 石炭を掘らずに利用するコールベッドメタン
     ・メタンは石炭の表面に吸着され、包蔵される
     ・二酸化炭素によってメタンを追い出す増進回収法
     ・CBMには回収しやすい石炭層がある。
     ・石炭はあとどのくらいもつのか?
 〔コラム〕天然ガスや石炭から「石油」をつくる技術

第四章 海底に眠るメタンハイドレートと超深海油ガス
     ・海底の下にもうひとつの「海底」がある?           
     ・資源量については推測ではなく予想レベル           
 〔コラム〕日本にもあるエネルギー資源、水溶性天然ガス
     ・メタンハイドレートを採掘する技術は開発中
     ・世界中で進む超深海油田・ガス田の開発
     ・深海開発大国となったブラジル
 〔コラム〕メタンハイドレートに続く新しい非在来型燃料の候補たち

第五章 化石燃料革命を加速させるもの、減速させるもの
     ・原油価格はどの水準で推移していくか?
     ・革命の反抗勢力になる中東産油国の本音
     ・1バレル100ドルでも世の中が回るわけ
     ・「石油を買える経済力」が世界を二分する
     ・原油価格上昇の動きを鈍らせる天然ガスと石炭
     ・地球温暖化問題と化石燃料革命の行方
     ・「経済」が「環境」に優先してしまう現実
 〔コラム〕化石燃料革命が進行しても CO2排出を抑える方法
     ・地球温暖化問題もエネルギー問題も人口問題である
 〔コラム〕自然エネルギーの限界

第六章 化石燃料革命はどんな未来をもたらすのか?
     ・新たな資源国の誕生によるエネルギー供給の多極化
     ・資源ナショナリズムと開発企業の力関係が変わる
     ・アメリカによる「新供給国」の囲い込み
 〔コラム〕石油の動きを実感する

最終章 エネルギー新時代における日本の戦略とは?

はじめに

化石燃料は「無限」に使えるのか?

 石油40年
 天然ガス60年
 石炭100年

 化石燃料が貴重な資源だと説明されるときに、よく使われてきた数字だ。
 文面通りに受けとってしまうと石油はあと40年ほどで枯渇し、私たちは自動車にも飛行機にも乗れなくなってしまう。そして100年後に人類は利用できるエネルギーの大半を失い、寒冷地には住めなくなる可能性さえある……。
 そんな心配をした人も多いのではないだろうか。

 これらの数字は可採年数を意味し、次のような式で算出される。

 可採年数 = 確認埋蔵量 ÷ 年間生産量
 (R/P = reserves  / production)

 要するに、現在、存在がわかっている油田、ガス田、炭田において経済的および技術的に採掘が可能な埋蔵量(通常は確認埋蔵量)を求め、それが年間生産量(≒消費量)の何倍あるかを示す数値だ。したがって、今後、エネルギー需要が拡大して生産量が急激に上がれば可採年数は減るし、新たな資源が大量に発見されれば増えていく。

 現実にはどうなっているかというと、もっとも重要な石油についていえば、可採年数は半世紀ほど前からあまり変わっていない。この間、人類は世界各地で新しい油田の開発を続け、確認埋蔵量には常に追加分が足されているのだが、それでも需要のほうが旺盛なので横ばいのまま、30~40年あたりで推移している。

 つまり「石油はあと40年しかもたない」という脅しは決してオオカミ少年の戯れ言ではなく、厳然たる事実なのだ。化石燃料の在庫は、いつも底をつきかけてきた。

 だからこそ私たちは、これら限りある資源を大切に使うように心がけている。現在、日本で供給されている全エネルギー(一次エネルギー)の4分の3は石油、天然ガス、石炭が占め、しかもそのほとんどを輸入に頼っているのだから、化石燃料の可採年数に敏感になるのは当然だ。

 ところが…………。
 最近になってこの数字が大きく動き始めてきた。正確なところは、まだ確定していないものの、多くの専門家の話を合わせると、こんな感じになる。

 石油60年以上
 天然ガス250年以上
 石炭100年以上

 石炭についてはあまり変わらないが、石油は確実に増えている。さらに天然ガスに至っては250年というのはかなり控えめな数字で、400年以上だと主張する人もいれば、「事実上、無限にあると思っていい」といった声さえ聞こえてくるほどだ。しかもこれらの数字は、まだまだ「のびしろ」があるという。

 そうだとすると、開発される資源を上手にやりくりすれば、最短でもあと200年くらいはエネルギー枯渇の心配をしないでいいわけで、おそらくその時代には核融合発電や宇宙太陽光発電などの画期的な技術が実用化されているだろうから、人類はこの先、エネルギー不足に悩まなくて済むことになる。

 大変めでたいのだが、なんだか狐につままれたような気分だ。

 化石燃料の可採年数が大きく延びた理由は、タイトガス(タイトサンドガス)、CBM(コールベッドメタン)、オイルサンド、シェールガス、シェールオイルといった新しいタイプの化石燃料が技術的および経済的に採掘可能になったからだ。これらは従来の「在来型(conventional)」油田やガス田とは別のところに賦存(資源が理論的に存在するといった意味)するため「非在来型(unconventional)」の化石燃料と呼ばれる。

 日本ではあまり大きく報道されていないが、アメリカでは、ここ数年、非在来型化石燃料の開発と利用が急激に進み、ゴールドラッシュならぬエネルギーラッシュと呼べるような活況が続いている。もっとも大きなトピックスは2000年代後半からのシェールガス・ビジネスの急成長だ。シェールガスは在来型のガス田より深い地層に含まれる天然ガスで、大量に賦存することはわかっていたものの有効な採掘方法がなかなかみつからなかった。ところが革新的な新技術の登場とアメリカ政府の強力な後押しによって一気に開発が進み、生産量が急増する。その結果、アメリカでは天然ガスについては完全自給の目処が立ち、近い将来には輸出に転じる可能性さえ出てきた。

 それにしても「国内の化石燃料はおおかたとり尽くし、枯渇する日も近い」と思われてきたアメリカで、突如、新しいエネルギー資源が大量に産出され始めたのだから、これはもう歴史に残る大事件だ。そのためマスコミはこぞってシェールガス革命(The Shale Gas Revolution)という言葉を使った。近代以降のエネルギー史において「革命」と名が付くのは18世紀から19世紀にかけての産業革命と、20世紀半ばの石炭から石油へのエネルギー革命しかなかったのだから、アメリカ社会が受けた衝撃の大きさがわかる。

 しかし「革命」はこれだけでは終わらなかった。続いてシェールガスの石油版であるシェールオイルまでもが採掘可能になると、アメリカ国内はさらにヒートアップしていく。

 石油は天然ガスとは比べものにならないほど商品価値が高い資源だ。それだけに大量生産が始まったときの影響はシェールガスの比ではない。しかもその余波は世界中に及ぶ。

 いうまでもなくアメリカは世界最大の石油輸入国であり、国際市場で流通する石油の約4分の1を買い占めている。そんな国でシェールオイルの供給が増え、石油の自給率が高まっていったら市場の勢力図は大きく変わる。具体的にいえば、エネルギーにおける中東依存の構図が崩れ、新たなパワーゲームが始まるだろう。

 そしてこれからは革命の余波が広がるだけでなく、革命そのものがアメリカ国外に輸出されていく。

 北米大陸でシェールガスやシェールオイルが産出されたということは、当然、同じような地質条件の場所が他のエリアにもあるわけで、多くの国で生産が可能なはずだ。となれば、新たなビジネスを始め、収益を得たいと誰もが考える。その結果、開発の気運は世界中に広まっていく。

 しかも非在来型の資源量は在来型の化石燃料を大きく上回るというのが大方の予測だ。

 天然ガスでいえば、タイトガス、CBM、シェールガスを合わせた原始埋蔵量は在来型天然ガスの4倍近くはあるという。非在来型石油についてはまとまった統計数字がないものの、生成に至るメカニズムが天然ガスと同じであることから、理論的に考えれば在来型石油の何倍もの資源量が期待できる。

 もちろん技術やコストの問題から、すべてが採掘・利用できるわけではないが、それでも20世紀には重要視されていなかった新しい化石燃料の登場によって可採年数は確実に上昇していく。そのゴールがどのあたりなのか、専門家でも、まだわからない。

 しかも非在来型化石燃料は資源量が多いだけでなく、「中東の石油」のように特定のエリアに偏在しないのも大きな特徴だ。さまざまなタイプの油やガスがさまざまな地層に賦存するので、極端にいえば世界中のどこでも発見できる可能性がある。したがって開発が進めば意外なところに有望な資源国が生まれ、経済関係において下克上のような逆転現象が起きるかもしれない。そんな例が実際にあった。

 やはり2000年代になってから本格的な採掘が始まった非在来型化石燃料にオイルサンド(タールサンド)がある。石油を含む砂岩であるオイルサンドは、比較的、浅い地層に大量に賦存していることがわかっていたものの、そこから油分を取り出したり精製するのが難しく、長いあいだ本格的に利用されることはなかった。このため有望なエネルギー資源としては扱われず、原油埋蔵量にも加えられていない。

 ところが技術進歩によって採掘・利用が商業的に可能になると「原油の一種」として公式に認められ、確定した埋蔵量が在来型石油の数字に加えられるようになった。その結果、大規模に開発を進めていたカナダは原油埋蔵量ランキングのベストテン圏外から一気に第3位に、ベネズエラに至っては、あのサウジアラビアを抜いて世界最大の石油資源国になってしまったのである(詳細は第2章)。長く石油市場を支配してきた中東産油国の盟主をトップから引きずり下ろしてしまったのだから、これもエネルギー史に残る大事件に違いない。

 日本列島の周辺海域に大量に存在するといわれるメタンハイドレートも非在来型化石燃料の一種だ。採掘が非常に困難であることから商業化にはまだ時間がかかりそうだが、それでもエネルギー資源に恵まれないとみなされてきた日本が、いきなり世界有数の資源国に昇進するかもしれないのだから、やはり革命的なできごとだろう。

 長いあいだ「化石燃料は枯渇寸前の限られた資源だ」といわれ続けた世代にとって、これらの変化は感覚的には受け入れにくい。食糧不足で配給制の食堂しかないところに、ある日突然、バイキング式のレストランがオープンしたようなもので、今までの常識は180度変わる。

 新しい化石燃料の登場は、資源供給という面だけをみれば朗報だと思う。これまでのようにエネルギー不足の心配をしないでよくなるからだ。しかし、連日、食べ放題のレストランに通い詰めていたら欲望に負けて激太りし、成人病で早死にしてしまう可能性があるように、あふれるエネルギー資源を上手にコントロールできずに大量消費を続ければ、人間社会はいつか大きなしっぺ返しを食らうだろう。

 誰でも思いつくのは、地球温暖化問題がますます深刻になるのではないかという心配だ。しかし、それ以外にも新たな自然破壊が進行する恐れは大きい。現にシェールガスの開発が行われたエリアでは地下水の汚染とも考えられる事象がいくつか報告されている。

 加えて政治や経済の構造が急激に変わり、私たちの生活基盤そのものが脅かされる事態も考えられる。これは産業革命のときにも石油へのエネルギー革命のときにも起きたことだが、急激な社会変化は極端な富の偏在を生み、不公平感から世の中は荒れていく。

 また新たに富を得た国がその勢いに乗って権益拡大のための戦争や紛争を始めることも歴史上よくあるので、エネルギーが大量に使えるからといってすべての人が幸せになるとは限らない。

 そんな激動の時代に向けて、私たちはどう対処していけばいいのか。

 その答を導き出すのは難しい。なぜなら、今もなお、革命的な状況が続き、世の中が変化している最中だからだ。できることといえば、多くの情報を集め、関連する事象と結びつけながら多角的に分析するぐらい。そうやって少しずつ道を探していくしかない。そのような考えから、本書では非在来型化石燃料のプロフィール的な紹介をするだけでなく、政治や経済、社会との関わりについてもできるだけ言及するように努めた。

 本論に入る前に用語の説明をしておきたい。
 非在来型化石燃料の新たな供給に伴うエネルギー市場や社会の変化をなんと呼ぶべきか迷ったが、検討の結果、「化石燃料革命」という言葉を使わせていただくことにした。最初はもっとおおげさに、産業革命および石炭から石油への転換に続く「第三のエネルギー革命」とでもしようかと思ったのだが、踏みとどまったのは、現在のところ革命的な状況が生じているのは開発や生産の分野だけで、利用……つまり私たちの生活の現場までには、直接、影響が及んでいないからだ。今後の動向によっては大きな変革に至るのかもしれないが、それをエネルギー革命と名付けるに値するかどうか判断するのは、あくまで後世の歴史家の仕事だと思う。

 今、目の前にあるのは、枯渇が迫っていると思われていた化石燃料のストックが予想以上に多く、しかも技術的な進歩によって利用できる領域が広がっているという事実だけだ。それによって過去100年ほど続いた常識が大きくひっくり返るという意味では革命的な出来事なのだが、といってまったく新しいエネルギーの利用形態が広まっていくわけではない。そう考えると、化石燃料革命といったちょっとレトロな名前がいちばん似合っているような気がするのである。その他、解説が必要な用語と、化石燃料の全体概要を示す「トライアングル」については以下を参照してほしい。

●埋蔵量、賦存量、資源量・・・
 エネルギー資源の話をするときに混乱しやすいのがこれらの言葉だ。用語の使い方は必ずしも統一されているわけではないので、ここではあくまでもその一例を示す。本書ではできるだけこの用例に従うが、ただし、参考引用した資料がどのような基準になっているのかわからないので、このあたりは、多少、誤差を含むものと思ってほしい。埋蔵量として発表される数値は多くが推定値だったり、何かしらの意図によって編纂された数字なので、大きな問題にはならないはずだ。
 石油でも天然ガスでも石炭、地球上に存在すると思われるすべての量を賦存量(原始資源量)と呼ぶ。そして発見され、技術的にも経済的にも採掘可能なうち、すでに生産した量を引いたのが可採埋蔵量で、通常、埋蔵量という場合はこれを指す。ただし可採埋蔵量もけっこう曖昧なところがあり、より確実性の高い順に確認埋蔵量、推定埋蔵量、予想埋蔵量と呼ばれるときがある。なお、可採埋蔵量は技術革新や原油価格などの高騰によって伸び、既発見資源量も探査技術の進歩によって伸びていく。
 もっとも面倒なのが科学・技術用語に含まれない資源量という文学的な言葉だ。広義には地球上に存在するであろうすべての量を示すが(A:一般的解釈)、未発見のものは資源に含まないという考え方や(B:経済学的解釈)、人類が利用できる可能性のあるものだけに限って資源と呼ぶ考え方もある(C:経営学的解釈)。本書では原則としてAの用法に準じているが、文章の流れによってはBまたはCの使い方をすることもあるので文脈から読みとってほしい。

●化石燃料のトライアングル
 多様な化石燃料の位置づけを説明するときに、このような三角形のイメージを使うことがよくある。下の階層にいくほど開発は難しくなるが、平均的な傾向として資源量は多くなっていく。技術革新によって利用できる資源領域は増えていくものの、エネルギーとしての商品価値と採掘コストとの関係で、どこまで開発対象になるかが決まってくる(技術的制約と経済的制約のバランス)。

*独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、国際エネルギー機関(IEA)、アメリカエネルギー情報局(EIA)などの資料を参考に著者作成。ただし開発難度や資源量については必ずしも正確に反映されているわけではない。

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