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誰も語らなかったアジアの見えないリスク
痛い目に遭う前に読む本

定価(税込)  1,728円

編著
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サイズ 四六判
ページ数 320頁
ISBNコード 978-4-526-06945-1
コード C3034
発行月 2012年09月
ジャンル ビジネス

内容

中国・アセアン地域を中心に蔓延る不健全な実態やビジネス・リスクに無防備な日本企業の実情を明かし、対応策を提案する。マクロ経済の動向に伴うリスクや法務など業種共通のリスクを取り上げ、リスクの洗い出しによる管理手法を解説。好評を博した日刊工業新聞連載企画の書籍化。

越 純一郎  著者プロフィール

(こし じゅんいちろう)
(株)せおん代表取締役、(株)カンドゥージャパン代表取締役
1978年東京大学法学部卒業、日本興業銀行入行。日米で不動産インベストメント・バンキング、証券化、M&A等に従事。2000年より現場型経営者として企業再生に当たりつつ、タイの政府銀行であるバンクタイのシニア・アドバイザーを、その民営化(2008年)まで務めた。その間、教育関係、製薬、不動産などの幾多の企業の役員・顧問、法務省・日弁連による外国弁護士制度研究会委員、国際不動産情報交流協会理事、東洋大学大学院客員教授などを歴任。社長塾を主宰し、経営セミナーや役員研修など(JR東日本、東京高検ほか)を多数手がけるなど経営者・実務家の育成に注力。児童教育関係を中心にNPO支援や社会貢献活動にも熱心。2012年3~5月に日刊工業新聞紙上で「アジアの見えないリスク」(全9回)を連載。主な著作に「事業再生要諦」(商事法務)、「プライベート・エクイティ」(日本経済新聞)。
e-mail:koshi@kandukafe.jp

杉田浩一  著者プロフィール

(すぎた こういち)
(株)アジア戦略アドバイザリー代表取締役
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカルサイエンス(LSE)経済学修士。米系投資銀行のフーリハン・ローキー在日副代表、UBS証券投資銀行本部エグゼクティブディレクター等、長年にわたり、外資系投資銀行において海外進出に関するアドバイザリー業務に従事。その後独立し、日系企業のアジア戦略立案サポートを行う株式会社アジア戦略アドバイザリーを創業。東南アジアへの企業進出においてさまざまな企業に対する高品質な戦略アドバイスの提供を目指している。
e-mail:ksugita@j-asa.com HP:http://www.j-asa.com/index.html

高木純孝  著者プロフィール

(たかぎ すみたか)
ビジネスアドバイザー、セミナー講師、事業再生実務家協会正会員、INSOL会員。
早稲田大学卒、ノンバンク会社国際部勤務・米国・欧州・東南アジアで駐在・現法経営(通算17年)。海上コンテナ・航空機リース・Cross-border案件取り組みのほか地場ファイナンス事業に従事。インドネシアリース事業協会(ALI)副会長として同国のリース事業振興に尽くす。帰国後、西日本担当審査室長を経て、米系ファンド傘下のサービサーに入社し回収部長。その後、民間企業取締役会長を経て現在に至る。専門分野は、海外ビジネス・海外要員育成・英語力養成・与信と回収。「世界で通用するグローバルビジネスマンを一人でも多く育成すること」並びに、「額に汗した債権は、返済能力のある債務者からは法律にのっとり必ず回収する社会的公平性の実現」を目指している。
e-mail:sumitak@mb.infoweb.ne.jp

福谷尚久  著者プロフィール

(ふくたに なおひさ)
GCAサヴィアン マネージングディレクター
国際基督教大学(ICU)卒業、コロンビア大学MBA、筑波大学法学修士、オハイオ州立大学政治学修士。さくら銀行、三井住友銀行(NY)、大和証券SMBC(シンガポール)、GCAサヴィアンを通じ、一貫してM&Aアドバイザリー業務に従事。日米欧亜の数多くのクロスボーダー案件の成約実績がある。著作は「中小企業M&A白書」(中小企業経営研究会)、「M&A敵対的買収防衛 完全マニュアル」(中央経済社)など。
e-mail:nfukutani@gcakk.com HP:http://www.gcasavvian.com

楠本隆志  著者プロフィール

(くすもと たかし)
サイアム・シティー弁護士事務所、アイラ証券投資銀行部門、コーポレイトディレクション、イースターン・ポリマー・グループ(いずれもタイ)の各顧問
1978年、大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)卒業後、商社勤務。サウジアラビア現地企業出向などを経て米国勤務。ニューヨーク現地法人副社長、シアトル現地法人社長を歴任。2002年にタイ国政府系商業銀行バンクタイ入行。2004年、同行の執行副頭取に就任。タイ企業初の日本企業買収など多くのM&A、JVを手がける。タイ在住。1993年、ワシントン大学 大学院 経営管理プログラム修了。
e-mail:kusumoto.t@gmail.com

東 聡司  著者プロフィール

(あずま さとし)
山田ビジネスコンサルティング(株)専務取締役シンガポール支店長
山田ビジネスコンサルティング(株)創業以来、日本国内の中堅中小企業の再生支援業務に携わる。2012年1~2月に中国進出日系企業の経営状況を調査。2012年4月のシンガポール支店長就任後はタイ・インドネシア・ベトナムなどASEAN各国に進出している日系企業の経営状況を調査。経営の観点から日本企業のアジア進出をサポートする。
e-mail:azumas@y-bc.co.jp

大水眞己  著者プロフィール

(おおみず まき)
米国ニューヨーク州弁護士、米国ペンシルバニア大学ロースクール法学修士(LL.M)コース卒業。
日本の大手電機メーカーの法務部門に20年以上勤務し、現在は法務渉外部長を務める。これまでM&A、商事・知的財産権契約交渉・訴訟、独禁法対応、海外現地法人の法務問題対応などの経験を有する。

目次

はじめに―本書は「入門書」ではない

序章 景気減速で高まる事業リスク なぜ今、リスク面からアジアを語るのか 

第一部 マクロ経済からとらえたアジア・ビジネスの局面
第一章 人口ボーナスの光と影 
 第一節 人口ボーナスの定義と内容
 第二節 人口ボーナス期の意味
 第三節 いつ終わる?アジア諸国の人口ボーナス期
 第四節 チャイナ・ショックの予感

第二章 金融政策リスクとどう向き合うか 
 第一節 円高の原因と現状
 第二節 金融政策リスクの今後―日銀法改正問題とアジア・ビジネス

第二部 痛い目に遭わないための実務上の注意点
第一章 アジアにおける日系企業の法務リスクを考える 
第二章 アジアにはびこる悪質日本人コンサルタント 
第三章 アジア諸国における不動産投資のリスク 
第四章 真のローカル・エキスパティーズ 
第五章 アセアン投資ファンドへの期待 
Column
アジアにおけるリーガルリスクのマネジメント
 牛島総合法律事務所 山中力介
ウクライナでも詐欺のターゲットは日本企業
 ウクライナ商工会議所駐日代表部 杉田道春
ここにもいた日本人詐欺師
 越純一郎
日本と事情が異なるオフィス賃貸契約条件
 シービーアールイー(株) 藤本隆博
海外投資家による不動産取得状況
 東急リバブル(株) 牧野高樹
日系企業の投資先としてのスリランカ
 (株)アジア戦略アドバイザリー 杉田浩一/(インタビュー協力 ニハル ジィ ペレラ)
成功が見込まれるプロジェクトからいかに声がかかるかが勝負
 (株)インダストリアル・ディシジョンズ 井上博文

第三部 エキスパートが語る 罠を見抜く知識と戦法
第一章 アジアのクレジット・ビジネスとリスク対策
          ビジネスアドバイザー 高木純孝 
 定石1 世界の現状とアジア進出の必然
 定石2 無限の市場で現地企業となる覚悟
 定石3 自ら情報を確認すること
 定石4 外国人とのコミュニケーションの重要性
 定石5 偏狭なナショナリズムで冷静さを失うな
 定石6 外国では、日本および日本人の存在はわれわれが思うほど日本は外国に知られていない
 実践1 現地に飛ぼう
 実践2 形式と実行
 実践3 交渉相手はアジアでは「個」、日本では「会社」
 実践4 交渉には必ずカウンターの武器を持て
 実践5 「協調・融和型」の日本企業、「対立」をいとわない海外企業
 実践6 利益の帰属
 実践7 中国人と華人
 実践8 個人の関係とビジネス取引の峻別
 実践9 アジアにおける信用とは
 実践10 法律~その前提としての法治国家を知る
 実践11 どのように現地法人を経営したか

第二章 M&Aの現場から見えてくるアジア―リスクへの心構えとアプローチ方法
           GCAサヴィアン(株) 福谷尚久 
 リスク編1 “常識を疑う”ことが大事:中国での「政府の許認可」の例
 リスク編2 本当にあった怖い話:インドネシアの「ビザ」
 リスク編3 微笑みの裏側?:華人をも自家薬籠中のものとするタイ人の凄み
 リスク編4 牙をむく“温厚な紳士”:マレーシア・ブミプトラ政策のもたらす光と影
 アプローチ編 大中華圏内のキャッチボール:現代エリート華僑たちの生態
 要点 アジアで活躍するための日本人の要件

第三章 苦渋12事例に学ぶタイ・ビジネス
           サイアム・シティ法律事務所顧問/元バンクタイ副頭取 楠本隆志 
 教訓1 タコ壺駐在員
 教訓2 「ちょっと知り合いになった」というのが最も危ない
 教訓3 日本人を安易に信用するな、日本人にこそ注意しろ
 教訓4 わからない契約書にはサインするな。そして日本人には注意しろ。
 教訓5 日本の大手電機・自動車メーカーの下請けいじめはタイでも同じ
 教訓6 オーナー経営者の一人相撲経営によるシロウト実務
 教訓7 うかつに信用した仲間が…
 教訓8 能力も経験もないドラ息子にやらせたら、ただ騙されただけ
 教訓9 タイでは労働者は厚く保護されている
 教訓10 高潔で有能な社長でも、「想定外」の事態に直面することがある
 教訓11 管理体制の不備
 教訓12 詐欺、不正、ぼったくり。悪質日本人コンサルタントにご注意を

第四章 進出準備段階における検討事項~日本でできないことはアジアでもできない
            山田ビジネスコンサルティング(株) 東 聡司 
 第一節 何のためのアジア進出か
 第二節 アジア進出に際しての事業計画の必要性
 第三節 現地法人経営のあり方

第五章 企業法務組織論の観点からリスクを探る
            富士通(株) 大水眞己 
 第一節 法務機能の目指す姿
 第二節 法務リスク管理とは
 第三節 法務リスク管理に関する本社と現地法人との関係
 第四節 法務リスク管理体制をどうやって構築するか?
 第五節 これからどうする?実務的なステップ
 第六節 法務リスク管理へのアプローチ

第四部 勝利の方程式を求めて
第一章 勝利の方程式の構成要素 
第二章 「勝利の方程式」のケース・スタディ(1)
 独自の強みがあるからタイでも勝てる~STグループ 
第三章 「勝利の方程式」のケース・スタディ(2)
 日系中小企業のインドネシアにおける「現地化」例 ~アスナ・グループ
 ―バリ島でリゾート型企業グループを創造したアスナ・グループの軌跡
            (株)アジア戦略アドバイザリー 杉田浩一 

あとがき―きちんとやれば「勝ちやすい時代」を生きる

はじめに

はじめに ――― 本書は「入門書」ではない

 
 本書は、読みやすいが、入門書ではない。
 入門書は、初心者に読ませるために書かれる。本来は、入門書でも実務書でも最高レベルのプロフェッショナルが執筆することが望ましいだろう。しかし、入門書であれば、(最高のプロでなくとも)「初心者より少しマシな人」であれば書けてしまうことがあり得る。そのため、世の中には入門書があふれやすい。
 ところが、入門書の著者に十分な実務経験、情報、調査能力などがない場合には、その執筆内容は一面的であったり、不完全・不正確であったり、場合によっては誤りが含まれることともなる。そうした刊行物などの特徴の一つは、執筆者の経験に引っ張られているため、「私の場合はこうだった」という経験談や経験値が軸になっていることである。そのこと自体は必ずしも非議すべきものではなく、一つの情報として貴重である場合もある。しかし、問題は読者の側がそうしたものを的確・適正に理解・評価できるか否かである。場合によっては、読者にとって有害である。
 この点から見ると、アセアン各国について本当に推薦できる入門書はどれくらいあるだろうか。私には、なかなか思いつくものがない。今後、良質な入門書が増えていくことは望ましい1。

本書の執筆動機と刊行の背景
 本書は最初から実務書であることを自認している。入門書でも、初心者マニュアルでもない。誤解のないように申し上げておきたいが、入門書をないがしろにするわけではなく、むしろ良質の入門書が刊行されていくことを願っている。また、入門書こそ本来は尊き存在であり得ることも認識している。だが、同時に、本書のような実務書も尊きものであることは強調しておきたい。
 さて、何が本書の執筆動機なのか。簡単に申し述べると、本書の執筆に直接・間接に携わった十数名の実務家は、アジア全域に蔓延している不健全な実態やビジネス・リスクに関して「無防備な日本企業・日本人」の実情を憂い、ある程度それを白日の下にさらし、世に知らしめ、本人たちにも理解させ、啓蒙・教育するとともに、実務的な対応策を提案・実施していくことが、オール・ジャパンの問題として看過し得ない重要性を持つに至っているとの認識を大なり小なり共有しているのである。
 そうした背景をもって、日刊工業新聞社の依頼により「アジアの見えないリスク」を9週間にわたって紙面連載したのは、2012年の3月から5月にかけてであった。9週間で扱ったテーマは表に示した通り多岐にわたっているが、これだけの広範囲のテーマをそれぞれに深掘りできたのは、言うまでもなく私一人の力量ではできないことであった。つまり、この連載の段階で、実は私には約10人の協力者がいた。
 連載が終了した日に日刊工業新聞社から「連載をまとめて一冊の本にしてほしい」との要請があったが、私は自分だけではなく、私よりも素晴らしい数々の識者・実務家の協力を得て、これまでにはないハイ・レベルな単行本にするという野心的な企図を抱いた。その後、さらに執筆協力者が増えることとなったが、それに比例して内容も充実したと自負している。
 だから、本書は入門書ではない。確かに、初心者でも十分に読みこなすことはできるが、高度な実務家、現実に立ち向かう実務家が知っておくべき内容を満載した専門書、啓蒙書となることをめざしたものである。

失敗例や恥は隠される
 読者諸氏には、「アジア・ビジネスの失敗事例集」などといった本や記事を読んだことのある方は、ほとんどいないであろう。このことについて、説明しておきたい。
 これまでにも、数限りない失敗事例があるのだ!!! 単に数が多いということだけでなく、内容的にも金額的にも目を覆いたくなるようなトンデモナイ大規模な失敗例がたくさんあるし、あるいは大企業としてあるまじき、表ざたになっただけでもコンプライアンス上の問題となるようなヒドイ事案は、実は最近でもたくさん生じているのだ。それらは隠されていて、公表されない。
 アジアのビジネスに携わっていて常に痛感するのは、「表に出てくることは、良い話ばかり」だということである。つまり、成功事例や自慢話は表面に出てきやすいのだ。しかし、失敗例を語る人は少ない。企業であれば、わざわざ自社の失敗を語ることは通常はあり得ないことで、失敗例は隠される(!)のである。だから、常に「1つの成功例が語られている背後には、幾多の失敗例が隠されている」と思うべきである。このことは事実であるし、多くの実務家の実感と合致するはずである。
 また、まだ失敗していないものの、「事実上の失敗予備軍」は多い。潜在的なリスクを心の底では懸念していても、毎日の現実、毎日の実務の中で、それを何とすることもできない企業は多い。こうした「失敗予備軍」も、もちろん語られることは少ない。また、ローテーション人事制度の中におけるサラリーマンの立場からは、在職中の大過なき日々だけを願うことは自然なことである。だから、リスクや潜在的リスクが語られることは、実は非常に少ないのだと知っておくべきである。
 あるジェトロ(独立行政法人日本貿易振興機構)の親しい方が話してくれたところによると、ジェトロでも、過去には失敗事例集を刊行する企画が内部で議論されることはあったそうだが、いざ取材となると、企業の方が口をつぐむのだそうである。要するに、いつでも、表にはいい話、自慢話しか出てこない。

リスクの本当の実態を語れない理由
 一方で、アジア・ビジネスのリスク面、失敗例などを語ることについては、非常に大きな困難が伴う。これについて、主な論点を説明しておきたい。
①相手国からの妨害や法規制
 アジアのいくつかの国は、独裁体制あるいは類似した政治体制を有している。そのため、そうした国に関する専門家は、機微に触れる発言や出版をする際には、名を隠し、絶対に自分だとはわからないようにする。そうでないと取材拒否にも遭うし、入国拒否の危険性もある。それどころか、当該国滞在中の逮捕・監禁の危険性さえある。
 そうした危険性があるにもかかわらず、いくつかの国の専門家が本書の執筆に協力してくださった。そうした方々の御名前を出すわけにはいかないが、心より感謝するとともに、読者には眼光紙背に徹して参考にしていただきたいと願うものである。
 世間では、こうした状況の下で本当のリスクの実態については書けない。そのため、同じパターンの失敗事例が繰り返されることにもなってきたのである。
 アジアだけでなく、世界の多くの国では「当国の悪口を言う者の入国を拒否できる」という法制を持っている。当該国の空港に到着してから入国を拒否されることがあるそうである。こうしたことは、通常の日本人が抱いている生活感覚と、根本的に異なっている。お人好しで騙されやすいのが日本人であるが、とにかく「表に出る話は、氷山の一角。水面下には、幾多の汚い、あるまじき事例が堆積している」という基本認識を持つべきである。
②企業の隠ぺい体質と、蓄積されない学習効果
 このことは前述したとおりであるが、問題の根は深い。まず、大多数の企業では、「学習効果の蓄積」はなされない。単に隠ぺいするだけであって、教訓は引き継がれない。だから、状況が一向に改善されないケースは珍しくない。法務体制もその一例である。
 その結果、一回失敗した企業が目覚めて素晴らしい体制(リスク管理、法務体制、その他)で生まれ変わるかと言うと、必ずしもそうではない。「痛い目に遭っても変わらない。隠ぺいしただけで、リスク管理体制はそれほど進化しない。」という企業は決して珍しくない。
③表立っては書きにくい諸事項
 ◇アジア諸国の半数以上は「賄賂社会」である。賄賂なしには話が進まないという実情を抱えた国がアジアには多いことは、今さら論じる必要もない明白な事実である。しかし、そうしたことは、一般の著作にも論文にも詳しく書くことはできない。
 ◇アジア諸国には、「身分制度(カースト制、王制、貴族制など)」が現実に存在し、無視できない影響力を持っている。しかし、そうした制度を当該国では、「前近代的なものだから、外国人には知られたくない」「恥ずかしい」と思っている。こうした身分制度も、著作物の刊行に際してはなかなか触れることができない。
 ◇「政治情勢」も、書くに書けないものの一つである。権力者の年齢やファミリーやそのビジネス、「人権問題」、「クーデターの可能性」、そうしたことは、表立って書いてある刊行物を目にすることは少ない。
 ◇「大統領の私兵(シークレット・サービス等)」、「軍部」などが日系企業のビジネスに登場し、決定的な役割を果たすことは、実際にある。しかし、そうしたことも、活字にして読者に供することは困難である。(本書の執筆者たちの中には、そうした経験を有する方々が複数いる)

 これらを見ていただいてもご理解いただけるであろうが、本書のように「リスク面からアジア・ビジネスを検証する」ことを目的とする場合に、大きな制約となるのである。そのため、本当のリスクの所在、輪郭、マグニチュードを記述することは実に難しい。
 以上が、「本書は入門書ではない」ことに伴う補足説明である。本書の野心的な姿勢、ならびにその限界の両面を、ここであらかじめ御理解いただければ幸いである。


1 アジア・アセアン関係の刊行物の中には、宣伝目的で書かれたものもある。「××××国における不動産投資 完全マニュアル」などと銘打ってあるような類である。これらには、有害な記述も含まれている。アジア・アセアンに関しては、刊行物がそもそも多くはない中で、一部では宣伝目的の刊行物やウェブサイトがいくつかある。それらの特徴は、「いい話ばかりが書かれている」という点にある。これも、読者の側の能力次第では誤解やトラブルが生じかねないであろう。

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