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ASICAれ!
―ホスピタリティがビジネス・広告・会社を変える―

定価(税込)  1,620円

著者
サイズ 四六判
ページ数 256頁
ISBNコード 978-4-526-06893-5
コード C3034
発行月 2012年05月
ジャンル ビジネス

内容

社会構造が変化した今、新たなマーケティング戦略が求められている。企業間あるいは企業内の「ホスピタリティ」(相手に喜んでもらう)の向上が不可欠で、その購買モデルとして「ASICA(アシカ)モデル」を提唱。実践で使えるマーケティング手法を、多くの事例を引き合いに提示する。

河内英司  著者プロフィール

(かわち えいじ)
1949年、京都市生まれ。京都教育大学特修美術科卒業。大学ではグラフィックデザインを学び、卒業後電気機器メーカーにて一貫して広報宣伝業務に従事。その間、製品デザイン・新商品企画・マーケティング業務も兼務。広報室長、コーポレートコミュニケーション室長を勤め、現在、一般社団法人日本BtoB広告協会副会長。当広告協会ではBMC委員長を務め、BMC広告マスター資格認定制度主幹。BtoBコミュニケーション大学副学長。女子美術大学非常勤講師。BtoB広告機関誌「BtoB Communications」において永年の実践から編みだした独自の広告・マーケティング理論多数を発表。
「神経質な数字志向が人の感性を鈍化させる」が持論。クリエイティブに限らずあらゆる分野での数字至上主義がもたらす文化の退廃に警笛を鳴らしている。

目次

はじめに 

第1章 新BtoB社会の到来とASICAモデル時代 
BtoCとBtoBの区別が曖昧になってきた 
BtoC社会の崩壊と、新BtoB社会の到来 
新BtoB社会では従来マーケティングの手法が通じない 
購買モデルの起点が「欲」から「課題」に変わっている 
ホスピタリタィの効用が見直される 
AIDMA理論の限界。「注目」の時代は終わった 
ASICAモデルの提唱。「課題」を引き金とする時代へ 
「課題」を探索して顧客の代弁者を目指す 
「ニーズ」「ウオンツ」そしていま「アサインメント」 
「顧客企業のコンサルタンシー」になりきる 
ホスピタリティが試される「ソリューション」段階 
「検証」段階で重要なことは情報の公開 
「同意・承認」へ向けてどんなサポートが可能か 
誰が決裁権を持つのかを把握する 
「購買」段階は次の課題探索につなげていく段階 
なぜヒット商品が生まれないのか 
新興国は富裕層とそれ以外の消費パターンが混在する 

第2章 群衆としての企業と組織人としての個人 
情報氾濫による思考の鈍化が「課題」を生む 
決裁者とカネの出所が同じとは限らない 
組織人としての個人は、厄介な存在である 
人それぞれの意識が作り出す企業風土 
企業は群衆である。集団精神に支配される個人のあり方 
企業に人格を作り変えられた相手とどう付き合うか 

第3章 ホスピタリティの真髄を身につけよう 
ホスピタリティの原点を古きに学ぶ 
自分を喜ばせるよりは、人に喜ばれる 
「先読みマーケティング」と「御用聞きマーケティング」 
日本企業のホスピタリティを壊したグローバリズム 
日本にベンチャーが育たない理由 
ホスピタリティの敵、数字至上主義 
「無駄」が先行投資だった時代もあった 
高気圧型ホスピタリティの企業だけが生き残る 

第4章 展示会マーケティングでASICAモデルを実践する 
展示会はスーパーメディアである 
展示会の原点は「市」にあった 
バーチャルマーケットが経済を発展させた 
商業展か、業界展か 
「欲」の衰退が「価値交換型パラダイム」に変えた 
「価値の伝達」にこだわる展示会は時代遅れ 
インターネットに取って代わられたカタログ収集の場 
付加価値を競って迎えた展示会絶頂期 
負のスパイラルにはまって凋落 
展示会の客は誰が集めるのか 
見込み客データベースを活用する 
見込み客には個人の名前で仕掛ける 

第5章 「接触メディア」の展示会がビジネスを変える 
非言語能力で決まるコミュニケーション力 
展示会は「ソリューション営業の場」 
展示会はボディランゲージで語り合う「接触メディア」 
ホスピタリティ・マーケティングの最高の舞台 
顧客との接触度を高めるための手段 
出展企業の何が来場者の記憶に残ったか 
展示会の投資効率向上は「説明員」にかかっている 
効果は「広告媒体」「営業の場」「価値創造」で測る 
目から鱗の米国流ブースの作り方 
米国流の採用が展示プロセスの劇的改革につながった 
再利用可能ブースシステムで環境問題にも対応 

はじめに

古くからわが国の社会はホスピタリティで維持されていた。ここでいうホスピタリティは、サービス業の着飾ったそれと違って、単に相手に喜んでもらうという極めてシンプルなコンセプトであった。そのことが人に迷惑をかけない、困った人がいたら助けることは当たり前という、特別な文化を形成していた。先の大震災で、欧米諸国からわが国の人々の持つ道徳観が絶賛されたことにも、それは表れている。

一方でここ十数年来、各企業が導入した米国式の組織管理システムによる数値化や可視化の大号令を、あらゆる分野で耳にする。しかし道徳観ややる気といった目に見えないものは、所詮見えないのであって、それを無理やり数値に置き換えて管理する手法は、あちらこちらでほころびを見せ始めている。

その傾向は企業においてはなはだしく、実態はどうあれ、自社の財務的な数字さえよければすべてよし、という風潮がはびこっている。このことが社員の心や業界間、企業間の関係性から、徐々にホスピタリティの意識を奪い取る現象を招いている。

マーケティングや広告分野でも効果測定やメディアの価値評価として数値管理が徹底されているが、ここでは甘っちょろいホスピタリティなど入る余地はない。だがこのことが、広告が効かない、モノが売れないといった最近の特異な動きの病巣であることに気づく人は多くない。

本書ではBtoB(組織対組織)購買プロセスモデルとして「ASICAモデル」を提唱しているが、その骨格をなしているのはホスピタリティである。「ASICAモデル」はマーケティングや広告のみならず商品開発の現場でも、さらには日常の営業活動や通常の人間関係を維持するのにも有効な理論であるが、ホスピタリティの概念が備わっていないと、このプロセスモデルはまったく役に立たない。言い換えれば欧米式のホスピタリティではなく、わが国独自のそれが、これからの組織運営や企業活動の大きな武器になるということだ。

最近はどこもかしこもグローバリズムの大合唱だが、これは欧米式のプロトコルに従うことではないはずだ。欧米諸国から絶賛されるわが国の優れたホスピタリティや道徳観念をグローバルスタンダードに置き換えることによって、世界を大きく変革できる可能性が秘められている。数字至上主義の間違ったグローバリズムから、相手に喜んでもらうという世界共通のごく自然な気持ちの大切さを、わが国が先頭に立ってメッセージするべきだろう。

  マーケティングにおいてホスピタリティが最大限発揮できるメディアとして、本書では「展示会」をあげた。それは単に広告メディアや営業の場という捉え方でなく、唯一無二の「接触メディア」という位置づけである。健全なコミュニケーションには文字や言葉以外の非言語能力が大きく影響するが、ネット社会の成熟とは裏腹に、この貴重な能力の劣化が最近目につく。非言語コミュニケーションを構築し直すことで、現実のビジネスに成果をもたらすだけでなく、業界を、さらにはマーケット全体を活性化させることができる「展示会」の機能をもう一度再認識したい、という思いがある。

マーケティング分野から数値管理を取り除けば身も蓋もないと思われるであろうが、わが国がもっとも生き生きと輝き成長していた時代には、小難しいマーケティング理論など眼中になかった。それよりも見えない心の重要性を誰もが肌で感じていた。

一方、近ごろネットやCGM(一般人が自ら発信するメディア)の普及によって、それにさらされた一般の個人までもが無意識のうちに特定の集団に帰属する現象が見え隠れする。「個」をかなぐり捨てて集団の価値観に酔いしれる現象から、もはや社会はBtoC(組織対個人)から新しい形のBtoB(組織対組織)へと変革し始めたといってもよい。そうなればBtoBはもちろん従来のBtoC分野でも、集団に属する個人の意識や行動がどのように変化するのかを見極めた上で、マーケティング活動を行なう必要性が生まれる。

繰り返すが組織や集団の維持にはホスピタリティが欠かせない。つまり健全なBtoB社会を維持していくのにホスピタリティは絶対不可欠な要因だ。ただ厄介なことにホスピタリティは目に見えない心情的な成分である。この新しいBtoB社会でそれをマーケティングに活かすには、数字が踊る今までのマーケティング理論とはまったく異なった視点が必要になってくる。コンピュータという装置で情報処理されたデータや数字に含まれない「心」をどのようにして読み解いていくのかが、これからのマーケティングのみならず、日常のビジネスにおいても、あるいはわれわれ自身の人間関係においてもゆるがせにできないテーマなのである。

終戦後、物不足の余韻があったとはいえ、なぜわが国が世界でもまれに見る急速な経済成長を成し遂げたのか。そのころの社会情勢や企業活動は、それらにかかわる人々の意識は、どうだったのか。過去に遡ってそれを検証してみると、そこにこれからのマーケティングに対する大きなヒントを見つけることができる。

昔返りは否定されがちであるが、文明は一直線に進化するのではなく、螺旋状に何度も過去に立ち返りながら緩やかに前進し、成熟していくものだ。
マーケティングの分野でも、われわれ自身の日常生活においてもルネサンスが近づいていることを、本書から読み取っていただければ幸いである。

二〇一二年五月
河内英司

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