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待ったなし!
エネルギー&カーボンマネジメント

定価(税込)  2,160円

編著
サイズ A5判
ページ数 192頁
ISBNコード 978-4-526-06854-6
コード C3034
発行月 2012年03月
ジャンル 経営 環境

内容

今、企業は、規制リスクへの対応、効率的な生産コストの構築、新たなカーボン配慮製品の開発、カーボンの市場での売買など新たなビジネスチャンスを先手必勝でとる経営判断が求められる。本書は、このマネジメントの論点を整理、事例を通じて、企業戦略立案に具体的に役立つモノとしている。

藤井良広  著者プロフィール

(ふじい よしひろ)第1章、第5章
 上智大学大学院地球環境学研究科教授。1972年大阪市立大学経済学部卒。日本経済新聞社入社、ロンドン特派員、経済部編集委員を経て、2006年現職。環境省中央環境審議会臨時委員、地球温暖化対策中長期ロードマップ小委員会委員、JVETS評価委員、環境経済情報検討会座長等を兼務。主な編著書に『進化する金融機関の環境リスク戦略』(2011年、金融財政事情研究会)、『カーボン債務の理論と実務』(2009年、中央経済社)、『環境債務の実務』(2008年、同)、『金融で解く地球環境問題』(2005年、岩波書店)等。

沢味 健司(さわみ けんじ)第2章
 (株)新日本サステナビリティ研究所常務取締役。1989年慶應義塾大学卒。公認会計士として会計監査、株式公開支援に従事後、2001年に環境省へ入省し、環境金融・CSR環境報告・環境会計等、サステナビリティ経営関連政策を専門に担当する。新日本有限責任監査法人に復帰後、2008年より現職、2009年よりサステナビリティサービス担当パートナー兼務。日本公認会計士協会サステナビリティ保証専門部会副会長、温室効果ガス審査協会理事、カーボンオフセット認証制度監督委員等を務める。

足達 英一郎(あだち えいいちろう)第3章
 (株)日本総合研究所理事・ESGリサーチセンター長。1986年一橋大学卒。環境問題対策を中心とした企業社会責任の視点からの産業調査、企業評価を担当。金融機関に対し社会的責任投資や環境配慮融資のための企業情報を提供。2005年3月から2009年05月までISO26000作業部会日本エクスパート。主な共著書に「地球温暖化で伸びるビジネス」(2007年、東洋経済新報社)、「環境経営入門」(2009年、日本経済新聞出版社)等。

坂野 且典(ばんの かつのり)第4章
 イー・アール・エム日本(株)プリンシパルコンサルタント。1989年京都大学で原子核工学、1996年マサチューセッツ工科大学で土木環境工学修士号取得。大手建設会社で土壌汚染対策プロジェクトに従事した後、環境不動産関連の業務を手掛け、不動産投資に関するデュー・ディリジェンス及び土壌汚染地再開発(ブラウンフィールド)の市場開拓にかかわる。現在、クロスボーダーのM&Aにおける環境デュー・ディリジェンスに携わる。

西尾 チヅル(にしお ちづる)第6章
 筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授。1990年東海大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学)。筑波大学専任講師、助教授を経て、2005年より現職。研究テーマは、「マーケティング・コミュニケーションとブランド戦略」および「消費者の環境意識と企業の環境マーケティングの展開方法」。主な著書に『エコロジカル・マーケティングの構図:環境共生の戦略と実践』(2009年、有斐閣)、『マーケティングの基礎と潮流』(2007年、八千代出版)、『マーケティング・経営戦略の数理』(2009年、朝倉書店)等。

森澤 充世(もりさわ みちよ) 第7章
 カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)事務局ジャパンディレクター、国連責任投資原則(PRI)事務局ジャパンネットワークマネージャー兼務。2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、博士 (環境学)。シティバンク等で金融機関間決済リスク削減業務に従事した後、2003年より環境学の研究を開始する。CDPの2006年の世界的な対象企業拡大に伴い、日本担当としてCDPに参加する。主な共著に、「Sustainability」(2012年、COMMON GROUND PUBLISHING LLC)。

榎堀 都(えのきぼり みやこ) 第7章
 カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)事務局プロジェクトマネージャー。2008年東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程(環境学)修了。2006年よりCDPに関わり、現在は日本企業の回答促進や回答分析、CDPジャパンレポートの執筆等に携わる。現在、同研究科博士課程在学中。

竹ケ原 啓介(たけがはら けいすけ)第8章
 (株)日本政策投資銀行環境・CSR部長。1989年一橋大学法学部卒。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。主な共著に、「環境格付」(2011年、金融財政事情研究会)、「ドイツ環境都市モデルの教訓」(2011年、エネルギーフォーラム新書)等。

埀野 直樹(たるの なおき)第8章
 (株)日本政策投資銀行環境・CSR部副調査役。2008年九州大学経済学部卒。日本政策投資銀行入行。共著に「環境金融がよくわかる講座」(2010年、金融財政事情研究会)等。

岩間 研(いわま けん)第9章
 (株)東京海上日動火災保険経営企画部CSR室 課長。1993年立教大学社会学部卒。東京海上火災保険株式会社(現、東京海上日動)に入社。入社後、営業・広報・経営企画を担当。現在は同社及び東京海上グループにおけるCSR(社会的責任)及び環境マネジメント戦略の企画立案・推進役を務める。

目次

CONTENTS

第 1 章
CHAPTER 1
大転換するエネルギーとカーボンの両マネジメント
①国家エネルギー&カーボン戦略へ
②原発と再生可能エネルギーのシナリオ転換と課題
③デマンド・サイド・マネジメントへの切り替え
④進むE&Cマネジメント規格の整備
⑤高まるカーボン・マネジメントの必要性

第 2 章
CHAPTER 2
E&Cマテリアリティの把握
①エネルギー・カーボン情報を把握する意義
②財務情報としてのマテリアリティ
③非財務情報としてのマテリアリティ
④不確実性下における、企業情報としてのカーボン情報の位置づけ
ケーススタディ キリンホールディングス
事業戦略としてのカーボンマネジメント

第 3 章
CHAPTER 3
規制リスクとE&Cマネジメント
①温暖化規制の動向。その影響の大きさと不確実性
②EUのカーボン規制の特徴と展開
③米国における規制リスクと展開
④他の国々の規制動向
⑤規制リスクの将来と先読みする金融市場
ケーススタディ 英National Grid Electricity Transmission(NGET)社 
エネルギー会社のE&C戦略

第 4 章
CHAPTER 4
拡大するオフィスビルのE&C マネジメント
①カーボン排出量の最大源はビルディング
②住宅・建築物へのCO2規制
③エネルギー効率化とCO2削減のバランス
④先進国のグリーン・ビルディング市場の成長
ケーススタディ ヒューリック
オフィスビルのE&C戦略で付加価値アップ

第 5 章
CHAPTER 5
物理リスクと企業立地戦略の展開
①顕在化した物理リスク変動の大きさ
②温暖化と立地リスク
③物理リスクへのE&Cマネジメント
④電力システムの物理リスク対応
ケーススタディ デル社
スコープ3排出量、サプライチェーンを巻き込んだE&Cマネジメント

第 6 章
CHAPTER 6
E&C マネジメントで生かす「見える化」の手法
①商品の環境配慮とは?
②カーボンフットプリント
③カーボン・オフセット
④消費者の環境認知とエコロジー行動の特徴
⑤環境コミュニケーション・ツールとしての有用性と課題
⑥普及・浸透のために求められること

第 7 章
CHAPTER 7
カーボンマネジメントを促進するNGOの活動
①GHGプロトコルによるカーボン算定方法の策定
②NGOが促すE&C情報の自主開示
③バリューチェーンのカーボンマネジメント
ケーススタディ 本田技研工業
カーボン・マネジメントに向けた情報開示の強化

第 8 章
CHAPTER 8
E&Cを格付けで評価する
①E&C情報の格付け評価の必要性
②金融市場にとってのカーボン情報
③カーボン情報を巡る環境変化

第 9 章
CHAPTER 6
E&Cマネジメントを支える保険・リスクマネジメント
①高まるカーボンリスクに対応する保険の機能
②再生可能エネルギーと保険・リスクマネジメント

はじめに

 政府、企業、家計。2012年のわが国の各経済主体は、エネルギー政策の大転換と、着実に進行する地球温暖化問題に対する抜本的な戦略の立案を求められている。我々は、こうした戦略をエネルギー&カーボン(E&C)マネジメントと名付ける。

 わが国のエネルギー政策は一からの再構築が必要になっている。言うまでもなく、2011年3月11日に起きた未曾有の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の重大事故が、日本全体に大きく長い影を落としているためだ。
 政府はこれまで、二酸化炭素(CO2)排出量ゼロの原発の普及を一段と加速して、エネルギー政策と温暖化対策を両建てで“解決”しようとしてきた。これを第一次E&C戦略と呼んでもいいだろう。だが、福島原発事故は旧ソ連でのチェルノブイリ原発事故と同じ「レベル7(深刻な事故)」という最悪のダメージを日本各地に及ぼした。
 その結果、あちこちで「反原発」、「嫌原発」の国民感情が広がり、稼働中の原発も停止状態に陥り、とても新増設どころではない。「フクシマ」の影響は、海外にも及び、ドイツ、イタリア、スイス等での脱原発宣言につながった。
 一方で、原発事故への不信と不安の反動もあって、太陽光発電、風力発電などの自然エネルギー由来の再生可能エネルギーによる発電への関心が急速に高まっている。再生可能エネルギー発電は基本的にCO2などの温室効果ガス(GHG)を排出しないので温暖化対策にも貢献する。政府は2012年7月から再生可能エネルギー特別措置法を施行し、太陽光発電など再生可能エネルギーで発電した電力を、長期間にわたって一定価格で買い上げを保証する固定価格買い取り制度制度(フィード・イン・タリフ:FIT)をスタートさせ、再生可能エネ発電の普及を後押しする構えだ。原発から再生エネへ、の道筋が浮かぶ。
 だが、単純に「原発→再生エネ」の転換が進むわけではない。これまで原発の発電量が国全体の3割を占めていたのと比べて、再生可能エネルギーの現状はゴミ発電などを含めても、わずか3%程度(大規模水力を除く)でしかない。FITで積極推進しても、日照や風向次第といった太陽光発電、風力発電などに特有の制約もあり、短期間で原発の発電分を代替するのは難しい。我々が求めるE&Cマネジメントは、原発を再生可能エネルギーに置き換えるだけでは、容易には実現しないのである。
 しかし、世界に目を転じると「新たなエネルギー革命」の流れも音をたてている。例えば、従来のガス田以外から生産されるシェールガス(頁岩)開発だ。かつては採算が合わなかったシェール層を低コストで開発できる技術の進歩で、これが、にわかに膨大な量の低コスト、低CO2のエネルギー源に化ける可能性が高まっている。
 さらに、石炭火力発電所などから排出されるCO2を分離して回収・地下深くに埋設するCCS(CO2回収・貯留)技術である。コストの安い石炭などの化石燃料をそのまま使いながら、温暖化対応が同時に可能となる夢の技術でもある。それ以外にも、海底のメタンハイドレート、海底熱水鉱床、波力・潮力などの次世代の新エネ技術も、新たな潮流となってうねりを高めている。
 どうやら日本だけでなく、世界のエネルギー市場は、石油、ガス、石炭の化石燃料と原発の組み合わせの時代から、再生可能エネルギー、新エネルギー開発・技術などを選択肢に追加して、その中から最適な組み合わせ(ベスト・ミックス)を選べる企業、国が競争力を高めるという大転換期に移ろうとしているようだ。
 
 エネルギー市場が日本、世界の両方で大きく変貌しようとしているなかで、エネルギーを使用する経済活動に伴って引き起こされる温暖化問題への対応は、不確実性を一段と高めている。
 ここ十年来、地球規模での人類の共通課題となってきた地球温暖化問題への対応は、日米欧の先進国が主導してきた。米国は京都議定書から離脱中だが、CCSの技術開発や再生可能エネ事業の開発・実践において先導役を担ってきた。欧州連合(EU)は、義務的排出権取引制度(EU-ETS)をいち早く導入、世界のカーボン・クレジット取引の8割以上がEU市場で行われるなど、基盤形成をリードしてきた。
 ところが、2011年に経済・金融市場を震撼させた欧州の債務危機で、多くの欧州諸国が財政力の限界を露呈、景気の低迷を受けて、温暖化対応よりも、むしろ景気刺激策を求められている。米国においても、2008年のリーマン危機の痛手を完全に克服しきっておらず、雇用対策、格差対策が優先課題となっている。日本はすでに見たように、震災復興・復旧、原発事故処理が当分の間、国全体の最優先課題である。
 成長が続き、CO2排出量が米国を抜いて世界最大となった中国、さらにインド、ブラジルなどの新興国は、国内の貧困層の底上げ、貧富の格差是正のために、引き続き成長路線の旗を降ろすわけにはいかない。このままのトレンドが続くと、2035年には世界のCO2排出量の4分の3あるいは3分の2は、現在の途上国が占めるとみられている。
 こんな状況で、2012年末で期限を迎える京都議定書を引き継ぐ温暖化防止の国際枠組みづくりは混沌の渦中から脱し切れていない。2011年末に南アフリカのダーバンで開いた国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)と京都議定書第7回締約国会合(CMP7)は、2020年にGHG主要排出国すべてを対象とした新しい枠組み(ダーバン・プラットフォーム)を発効することで合意した。だが、2013年以降の京都議定書延長の削減目標や延長期間などは不明で、さらには本当に2020年にプラットフォームが立ち上がるかどうかは、神のみぞ知る、と言わざるを得ない。
 ポスト京都の温暖化対策が先送りされることは、主要なGHGの排出主体である企業、家計にとって、必ずしも負担の軽減につながるわけではない。むしろ、各国間の規制の不整合、将来のより厳しい規制導入への備え、「対策不在」期間における温暖化進行への対応など、不確実性が引き起こす多くのリスクに向き合わねばならない。政府あるいは国際的なルールが不在であるが故に、企業、家計の「カーボン・マネジメント」力が問われることになるのだ。
 本書はそうした視点で、エネルギー大転換と不確実な温暖化対応下で、ますます重要性を増すE&Cマネジメントのあり方に焦点を絞って解説するものである。
 カバーする範囲は広い。E&Cマネジメントの必要性と概要からスタートし、E&Cリスクが抱えるマテリアリティ(重要性)を解き起こす。さらに、省エネ、カーボン情報の把握と会計上の取り扱い、企業の立地戦略における物理リスクとしてのエネルギーとカーボンの扱い、資産であり拠点でもある工場・オフィス価値をE&Cの視点からの捉え直し、商品戦略におけるE&C価値の位置づけ、マネジメントを支える保険・金融による評価とファイナンス機能なども含めた。
 加えて、実際にE&Cマネジメントを実践している内外の先進企業をケーススタディとして取り上げ、その具体策を解剖した。すでに世界中の主要企業は、Wait & See(模様眺め)のスタンスをやめ、E&Cに照準を定めている。新たなギアに切り替えて走り出しているのだ。
 なお、本書は上智大学地球環境学研究科の「カーボン・マテリアリティ研究会」(東京海上日動火災保険株式会社支援)の委員が中心になって執筆した。

 2012年3月
 執筆者を代表して
 上智大学地球環境学研究科教授
 藤井良広

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