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ここだけは押さえておきたい
高分子の基礎知識

定価(税込)  2,592円

編著
サイズ A5判
ページ数 224頁
ISBNコード 978-4-526-06847-8
コード C3043
発行月 2012年03月
ジャンル 化学

内容

本書は高分子材料を取り扱う上で間違いやすい、つまずきやすいポイントの理解を目標にしている。それぞれのテーマの理解に必要な知識を体系的に、事例とともにわかりやすく解説する。

東京工業大学国際高分子基礎研究センター  著者プロフィール

編著者略歴

柿本 雅明(かきもと まさあき)
1975年山口大学卒業(工学部工業化学科),1980年東京工業大学大学院博士課程修了(総合理工学研究科電子化学専攻),1980年相模中央化学研究所研究員,1982年東京工業大学助手(工学部有機材料工学科),1987年東京工業大学助教授(同上),1997年東京工業大学教授(同上),1998年国立大学法人東京工業大学教授(大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻),理学博士
専門:高分子合成化学(縮合系高分子)、機能性高分子
著書:「最新ポリミド材料と応用技術」(監修)、「デンドリティック高分子 多分岐構造が拡げる高機能化の世界」(監修)、「エレクトロニクス実装用高機能性基板材料」(監修)、「ナノマテルアルハンドブック」(共著)、「機能性超分子」(共著)

扇澤 敏明(おうぎざわ としあき)
1983年東京工業大学卒業(工学部有機材料工学科),1987年東京工業大学大学院博士課程修了(有機材料工学専攻),1987年DuPont社Experimental Station客員研究員,1989年通産省工業技術院繊維高分子材料研究所 研究員,1993年 〃 物質工学工業技術研究所 主任研究官,1994年東京工業大学助教授(工学部有機材料工学科),2011年 〃 大学院教授(理工学研究科物質科学専攻),工学博士
専門:ポリマーアロイ・ブレンド・コンポジット、高分子構造(非晶・結晶・薄膜)
著書:「高性能ポリマーアロイ」(共著)、「新高分子実験学1 高分子実験の基礎」(共著)、「ポリマーABCハンドブック」(共著)、「光学用透明樹脂における材料設計と応用技術」(共著)、「高分子先端材料one point 高分子分析技術最前線」(共著)、「実践 高分子の構造・物性分析・測定」(共著)、「実用プラスチック分析」(共著)

鞠谷 雄士(きくたに たけし)
1977年東京工業大学卒業(工学部有機材料工学科),1982年東京工業大学大学院博士後期課程修了(理工学研究科繊維工学専攻),1982年東京工業大学助手(工学部有機材料工学科),1986年4月~1987年6月Visiting Scientist, The University of Akron, USA,1991年東京工業大学助教授(工学部有機材料工学科),2001年東京工業大学大学院教授(理工学研究科有機・高分子物質専攻),工学博士
専門:繊維・高分子材料の成形加工と構造・物性
著書:“High-Speed Fiber Spinning”(共著)、「材料科学への招待」(共著)、「高分子の構造(2)散乱実験と形態観察」(共著)、「成形加工におけるプラスチック材料」(共著)、「繊維の百科事典」(編著)、「やさしい繊維の基礎知識」(共著)、「プラスチック成形品の高次構造解析入門」(共著)、“Handbook of Textile Fibre Structure Vol. I & II”(編著)

塩谷 正俊(しおや まさとし)
1982年東京工業大学卒業(工学部有機材料工学科),1987年東京工業大学大学院博士課程修了(理工学研究科有機材料工学専攻),1987年鶴岡工業高等専門学校助手(電気工学科),1989年東京工業大学助手(工学部有機材料工学科),1992年7月~1993年6月Guest scientist, National Institute of Standards and Technology, U.S.A.,1997年東京工業大学助教授(工学部),2007年東京工業大学准教授(大学院理工学研究科),工学博士
専門:材料工学(複合材料,炭素材料,繊維材料)
著書:「第3版 繊維便覧」(共著)、「繊維の百科事典」(共著)、「材料科学への招待」(共著)、「炭素素原料科学の進歩III」(共著)

目次

はじめに
編著者および執筆者

序 章 この本の目的と内容
この本は何を補うのか
1.高分子の成書を読んで理解できない人のために
2.高分子はいつも居心地の良さを求めている
3.高分子と付き合うために
4.各章の関連性
5.コラム

第1章 高分子とは
高分子ってどんな形をしているのだろうか
1.1 高分子は長いヒモ状分子  
1.2 糸まり状の分子  
1.3 糸まりのサイズ  
1.4 絡み合いとは何か  
COLUMN 高分子鎖のサイズと分子量  

第2章 高分子と熱力学
家計簿に例えてみる
2.1 熱力学と家計簿  
2.2 結晶化が起こるわけ  
2.3 理想と現実  
2.4 熱力学の復習をしたところで、次の例題を解いてみよう  
COLUMN ケミカルポテンシャル  

第3章 高分子結晶
ヒモが並んだ階層構造
3.1 高分子構造の呼び方  
3.2 様々な高分子結晶の形  
3.3 結晶の階層構造  
 3.3.1 大きさの限られた結晶  
 3.3.2 球晶の構造と形成機構  
3.4 結晶化の進み方を表すアブラミの式  
3.5 高分子の化学構造と様々な性質との関係  
COLUMN 常識をくつがえす高分子のふるまい  

第4章 成形加工
実際の成形過程で起こっていること
4.1 流す・形にする・固める  
4.2 成形品の形状から見た成形加工法の分類  
4.3 成形加工による高次構造の制御  
4.4 冷却過程の結晶化  
4.5 成形加工プロセス中の分子配向  
4.6 流動場の影響を受ける結晶化挙動  
 4.6.1 配向誘起の結晶化速度増加  
 4.6.2 流動誘起の核形成  
4.7 シシカバブ構造  
4.8 実際の成形過程で起こる高次構造形成  
 4.8.1 1次元成形 ―繊維  
 4.8.2 2次元成形 ―フィルム  
 4.8.3 3次元成形品  
4.9 高次構造形成が成形挙動に及ぼす影響  
COLUMN 時速900 km の高速紡糸  

第5章 レオロジー
物質の変形のなぞ
5.1 粘性・弾性・粘弾性  
5.2 粘弾性体の応答  
 5.2.1 一定の変形を保持した場合  
 5.2.2 一定の速度で変形させた場合  
 5.2.3 振動する変形を加えた場合  
5.3 緩和スペクトル  
5.4 粘弾性のグラフの特徴  
5.5 ワイゼンベルグ効果、バラス効果  
5.6 レオロジー特性がどのように役立つか  
COLUMN マントルの粘性率  

第6章 ゴムはなぜよく伸びるのか
エントロピーの不思議
6.1 よく伸びるのは高分子特有の性質
 6.1.1 ゴム弾性とエントロピー弾性
 6.1.2 ゴム弾性の特徴
6.2 架橋の役割
6.3 ゴムの応用
 6.3.1 タイヤ
 6.3.2 熱可塑性エラストマー
COLUMN ゴムの架橋は誰が発見したのか

第7章 ガラス転移
ガラス状態とはどういうことか
7.1 ガラス転移とガラス状態
7.2 ガラス転移と物性変化
7.3 自由体積
 割れやすいガラスと割れにくいガラス

第8章 高分子の強さ
強くて柔軟な高分子を生み出すには
8.1 応力とひずみ
8.2 クレージングとネッキング
8.3 伸びやすさは何で決まるか
8.4 強靭さは何で決まるか
8.5 どうしたら強靭な材料になるか
8.6 様々な丈夫さ
COLUMN 比強度

第9章 ブレンド
簡単に材料を高性能化するための救世主
9.1 ポリマーブレンドの相溶性
 9.1.1 分子レベルで混ざりにくいのはなぜか
 9.1.2 χパラメータ(相互作用パラメータ)
 9.1.3 溶解度パラメータ
 9.1.4 相溶性と相容性
9.2 ブレンドの有用性
9.3 相分離構造とその制御
9.4 ゴムによる耐衝撃性の改良
9.5 共重合体と相分離構造
 9.5.1 ランダム共重合体
 9.5.2 ブロック共重合体
COLUMN 人間関係ならぬポリマー関係(相互作用)

第10章 熱硬化性樹脂
架橋して固める材料
10.1 熱硬化性樹脂の種類と用途
10.2 熱硬化性樹脂の代表例:エポキシ樹脂
10.3 熱硬化性樹脂の課題
10.4 硬化収縮
10.5 破壊靱性
10.6 熱的性質
 10.6.1 ガラス転移温度
 10.6.2 熱膨張係数
10.7 熱硬化性樹脂のブレンド・コンポジット
 10.7.1 ブレンドの反応誘起型相分離
 10.7.2 熱硬化性樹脂をマトリックスとする複合材料

COLUMN ヤモリはなぜ壁を走ることができるのか
  (忍者はヤモリになれるか)

索 引

はじめに

 筆者は学生時代、有機合成化学の教育を受け、学位もその分野でいただいた。縁あって現在の研究室に助手として奉職するまで、高分子には触れたことがなかった。その後も縮合系高分子の合成を専門としてきたので、特に高分子の物性を勉強する機会もなく今日に至っている。若いころは大学でやる基礎研究こそ重要だと思ってきたのだが、年を重ねると、役に立ってこそ材料ではないかと思うようになってきた。そこで、縮合系高分子を見てみると、筆者の扱っている全芳香族高分子は耐熱性と高強度が売り物なのであるが、製品となっているポリマーはどうもそれだけではないらしい。例えば電子材料として多用されているポリイミドは、芳香族ジカルボン酸無水物と芳香族ジアミンとを組み合わせて何種類でも合成できるが、実用となっている材料は数種類しかない。
 むかし、新規なブロック共重合体を合成したところ、不思議な挙動を観察したことがある。そのブロック共重合体のフィルムを室温で引張ると、塑性的に変形して引張った状態が維持できる。ところが引張ったフィルムをドライヤーで加熱すると、たちどころに引張る前の大きさに変形するのである。いわば、形状記憶フィルムである。合成屋には理解できない挙動であったが、高分子の挙動を正しく理解していれば説明のつく現象であり、そこには高分子特有の現象が存在しているのである。
 材料が実際に使用されるときには様々な特性が要求されるのはいうまでもない。耐熱性、強度は最も基本的な特性で、加工性や耐久性が次に来るものであろうか。さらに環境安全性や見た目・感触等々きりがなく列挙できる。これを人間に例えると、「健康」「明るさ」「やさしさ」「思いやり」「しつけ」「記憶力」「忍耐力」「頭の回転」等々、親が我が子に望む要求は計り知れない。そして、「良い子に育てる方法」の本が星の数ほど出ているが、その通りにやって成功した例はまれかと想像する。
 高分子における材料特性では、こちらを立てればこちらが立たない式の、相反する性質を要求される場合が多い。人間でいえば「おっとりした性格だが、頭の回転は素晴らしく速い」と言った感じだろうか。我が娘に父親が一番望む性格だが、まずあり得ない。幸いに高分子は我が子と異なりやり直しが効く。ここで、より良い材料を造りたければ、高分子の基本的な性質を知っていることが肝要である。さらに大切なのは、高分子の世界の雰囲気を理解することであろう。ある人となかなか馴染めなくても、何かの拍子にその人の考え方が分かった途端に仲良くなる。高分子とはこうゆう感じのヤツだとわかっていると、少々難しい式も理解できるものではないだろうか。
 本書は高分子の世界に足を踏み入れたものの、何かなじめない人や、いきなり高い山を越えないとこの世界に入れそうもないと感じた方に読んでいただき、高分子がどういうヤツかを理解していただくために造ったものである。
 1. 高分子合成の話は出てこない
 2. 高分子特有の物性の話はやさしく、基本概念の習得に務める
 3. 高分子の立場に立って説明する
 以上が本書を造るに当たって貫こうとした概念である。

平成24年3月  柿本 雅明 

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