買い物かごへ

非球面モールドレンズに挑む!
―歴史を変えたパナソニックの技術者たち

定価(税込)  2,592円

著者
編者
編者
サイズ A5判
ページ数 288頁
ISBNコード 978-4-526-06836-2
コード C3034
発行月 2012年02月
ジャンル ビジネス

内容

非球面レンズの量産技術を確立させたのは、レンズについては知識も経験もなかった技術者たちであった―。本書は、パナソニックの技術者集団が、いかにしてレンズ事業に挑戦し、世界最大級のレンズ工場を築き上げるまでに至ったのか、その経緯をまとめた技術開発ドキュメント。当時開発に携わった技術者が記す、レンズの歴史の大きな転機の記録である。

パナソニック スーパーレンズ研究会  著者プロフィール

 「スーパーレンズ プロジェクト」は、1979年に松下電器産業株式会社 無線研究所(当時)内で発足し、全社にまで拡大した開発・事業化プロジェクト。本研究会は、当時このプロジェクトに携わったメンバーが、現役時代の活動を記録にとどめるために2008年に集結したグループ。主にパナソニックを定年退職したメンバーからなり、関係者の協力を得て2012年に本書を刊行することでその目標を達成した。メンバーは次のとおりである(五十音順)。


青木正樹
池田義昭
上田昌明
上村武志
小野周佑(故人)
木村直明
香田 稔
近藤義雄(元三共光学工業)
塩山忠夫
白藤芳則
鈴木哲夫(元住田光学ガラス)
春原正明
住田正利(故人・元住田光学ガラス)
高橋昌之
田中映治
長岡良富
中川治平(中川レンズデザイン研究所)
中島昌也
中村正二
中村俊昭
萩原達二(故人:名代、長男:萩原達俊、三共光学工業)
平井健一
本田道春
町田寛治
松田俊介
宮津 昭
村尾次男
山本善造
吉住恵一

中島昌也  著者プロフィール

(なかじま まさや)
1959年 大阪大学大学院通信工学専攻(修士課程)修了
松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社
1983年 同社無線研究所所長
1987年 同社取締役 技術本部長
1990年 同社取締役兼松下技研社長
1995年 同社客員に就任 現在に至る

長岡良富  著者プロフィール

(ながおか よしとみ)
1964年 大阪大学工学部通信工学科卒業
松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社
1980年 大阪大学 工学博士取得
1989年 同社映像音響研究センター 映像研究所所長
1991年 同社オーディオ・ビデオ本部 オーディオ・ビデオ研究所所長
1996年 同社取締役
1997年 同社AVC社副社長
2001年 同社常任監査役
2004年 同社客員
2005年 関西文化学術研究都市 株式会社けいはんな
けいはんな新産業創出・交流センター センター長
2009年 同センター顧問に就任 現在に至る

目次

はじめに 

第1章  非球面レンズの生い立ち 
1-1 製作が困難な非球面レンズ
1-2 チェンジは家電業界から

第2章  エレクロトニクスメーカーの挑戦 
 ─レンズを自分で作るか─
2-1 カメラメーカーの脅威
2-2 レンズを自作するか?
2-3 キーワードは非球面レンズ
2-4 成形で量産しよう
2-5 手探りの中での出発

第3章  入念な下準備
3-1 指導者との出会い—小倉磐夫教授 
3-2 中川治平氏との出会いとハードトレーニング
3-3 既存メーカーとの提携—住田光学ガラス、三共光学工業
3-4 徹底したセーフティネット—大森精器の設立

第4章  プロジェクションテレビ用プラスチック非球面レンズへの挑戦 
4-1 予算の確保
4-2 技術の足固め-一 型作り・材料と加工法
4-3 技術の足固め-二 成形機と成形プロセス

第5章  最初のレンズ成形工場設立と実用化 
5-1 設立計画とスタート
5-2 超精密成形法の開発─ICM工法の発明
成形プロセスの立ち上げ/試作実験開始までの苦心/ICM工法の発明/
設計値を満足させるために/完璧な精度を求めて
5-3 量産化への道程
5-4 量産開始—難題続出
反響は大きかったが/成形時間の壁/金型が割れる!/
強力なライバル─USPLと特許/米国市場へ
5-5 米国市場での展開
5-6 オプティカル・カップリング(OC)の実現/なんでそんな高いレンズを!
5-7 プロジェクションテレビの終焉

第6章  非球面の計測はどうする 
 ─名機UA3Pの誕生まで  
6-1 計測グループの発足
6-2 超高精度測定へのチャレンジ─決め手はデータ処理ソフト
6-3 アノスキャンが来た
6-4 絶妙の測定データ処理アルゴリズム
6-5 オールマイティではなかったCGH
6-6 超精密測定機を作ろう─たった一人の決断
6-7 「青い鳥」は足元にいた
6-8 原子間力プローブとUA3Pの完成

第7章  プラスチックからガラスへ 
 ─超精密ガラス成形技術への挑戦
7-1 プラスチックでは駄目なのかも?
7-2 ガラス成形でレンズが作れる!
7-3 決め手は材料
7-4 半永久寿命金型の完成へ
7-5 CD用単一非球面ガラスレンズの量産化
最初のターゲット/世界初の設計図/AGを超える加工機を作ろう/一個しかできない!/
新しい金型構造と硝材の前処理/量産も研究所でやってくれ!
7-6 プラスチックとガラスとのシーソーゲーム

第8章  ビデオカメラに非球面レンズを 
8-1 ビデオカメラ用レンズの課題
8-2 ビデオ事業部の動き
初めてのレンズシステム開発/インナーフォーカスの導入/
ズームトラッキングとコンペンセーターの追放 
8-3 ビデオカメラの非球面レンズ開発
8-4 非球面ズームレンズシステムの開発
ズームレンズの設計/最初の非球面ズーム商品化プロジェクト/
初の非球面レンズ搭載ビデオカメラ
8-5 量産の最後の壁
8-6 再び特許バトル
8-7 山形工場の苦悩
ビデオカメラ市場の縮小/松下は金型一個で作ってる?

第9章  拡がるレーザー光の応用と非球面レンズ 
9-1 これからは光の時代だ
9-2 新たな市場開拓と新技術の創出
9-3 光通信用非球面レンズへの展開

第10章  デジカメの出現と非球面レンズの定着 
10-1 デジカメをやれ!
10-2 レンズ生産の中枢となった山形工場
10-3 光学業界での非球面レンズの展開

[ コラム ] 住田光学ガラス─最良のパートナー 

あとがき 
参考文献

はじめに

 この原稿を書いている時点で、世界の主要国はギリシャの財政破綻の影響を最小限に食い止めようと混乱のさなかにあり、日本もその余波を受けるのは必至と見られていた。一国の経済不安がドミノ倒しのように世界を巻き込むグローバル化の中で、日本は立国の基盤をどこに置くかの覚悟も定まらぬように見える。
 その中で比較的数多く現れる主張はやはり「技術に拠り所を」という声のようだ。ここで言う技術とは、過去の技術の単なる集積ではなく、その集積を糧としながらも新しく創出し、周辺の容易な追随を許さない新技術を指しているのは言うまでもない。ややもすると製造業はもはや消滅したかのように見られがちな米国にも、世界のビッグカンパニーに数えられる製造業は少なからず健在であり、いずれも確かな技術基盤に立った堅実な経営を見せている。
 幸い現時点で日本はまだ優位性が高く、競争に強い技術を多く保有していると言えるが、精密光学の技術はその一つであろう。戦前はドイツがその王座にあったが、戦後、とりわけ高級カメラをはじめ半導体生産用あるいは医用光学機器などについてはほぼ完全に日本に移ったと見てよい。中でも技術の中核であるレンズの性能、品質の高さは広く認められていたが、十数年前から高性能の非球面レンズの生産が軌道に乗ったことでさらにその厚みを増した。
 この非球面レンズの工業的生産に、自他共に認める優秀な技術を持つ光学系企業に先立って口火を切ったのは家電メーカーの一つである松下電器産業(現パナソニック)であった。本書は生産実現の前に立ちはだかる十指に余る必要な新技術の大半についてまったく経験のない素人技術者たちがどのようにして壁を乗り越え目的を遂げたかの歴史的記録とも言えるものである。なぜ松下電器は今になってレンズ事業にあえて進出したのか、なぜ当初プラスチックで開発を始めたものをガラスに軌道修正したのか、世界最大級のレンズ工場をどのように作り上げたのかなど、よく寄せられる質問への答えもここに見出せると思う。内容は実際に開発に携わった技術グループOBの回想と資料提供に依っており、そのため期間もプロジェクト開始の一九七九年から二〇〇〇年あたりまでの二〇年間ほどに止まっているが、開発の主な要諦はほぼこの期間に集約されていると言ってよい。
 本書の刊行に際し貴重なご助言と編集のご尽力を頂いた日刊工業新聞社出版局の鈴木徹氏、木村文香氏、紹介の労を頂いた元松下電器技術広報杉田芳夫氏、その他ご協力頂いた多くの方々に心から感謝申し上げる。

2011年11月 編著者しるす

買い物かごへ