内容
技術開発は最重要事項であるが、近年、先端技術の開発スピードや代替技術の登場が早くなり、どの開発テーマが将来利益を生むのか見えなくなっている。そこで本書は、技術を”見える化”することで、未来の技術開発がどうなるかがわかるノウハウを具体的事例で解説していく。
池澤直樹 著者プロフィール
(いけざわ なおき)
1951年、東京都生まれ。76年、慶應義塾大学工学部計測工学科修士終了。同年、野村総合研究所入社。その後10年間、エレクトロニクス関連の市場調査・技術調査を担当。次いで、研究開発・事業開発のコンサルティング活動に従事。機能デバイス・素材産業研究室長、技術産業研究部長、産業コンサルティング部長を経て、現在、チーフ・インダストリー・スペシャリスト。
著書関係
単著 「ナノテクが日本を救う」 講談社 2002.4
「やらなきゃ良かったあのテーマ」オプトロニクス社 2004.10
「ビジネスとしてのナノテク大全」 野村総合研究所 2006.8
共薯 「ユビキタスネットワークと市場創造」 野村総合研究所 2002.1
「創造の戦略」 野村総合研究所 1990.3
大学関係
北陸先端科学技術大学院大学客員教授
大阪経済大学非常勤講師
中居 隆 著者プロフィール
(なかい たかし)
1968年、東京都生まれ。94年、東京大学工学部船舶海洋工学科修士修了。同年、野村総合研究所入社。5年間、地理情報システム、ナレッジマネジメントなど、情報系システムの企画・設計・営業を担当。次いで、本社経営企画部にて、事業環境分析、研究開発管理等を担当。2004年から、NRIサイバーパテントにて、知的財産に関する各種調査、特許・論文データの可視化ツール「TRUE TELLERパテントポートフォリオ」「+PLANET」の企画・設計・販売・受託調査、知財業務のアウトソーシングサービスなどを担当。現在、知的財産コンサルティング事業部 部長。
論文
「論文情報と特許情報を使った研究波及効果測定の試み」(著者:山口祐穂、中居 隆、加藤 寛、JST坂内悟、加藤治、(2009)、情報メディア学会)
「特許情報と文献情報の統合解析による技術情報可視化の試み:研究開発戦略、事業戦略におけるその有効性」(著者:中居隆、坂内悟、 JST山口祐穂、中谷泉、第5回情報プロフェッショナルシンポジウム、(2008)
「テキストマイニングによる知財ポートフォリオ分析」(著者:中居隆、「情報管理」Vol51 No. 3、(2008)など
目次
はじめに
第1章 可視化のすすめ
─比べてみれば違いが分かる─
■困難な技術についてのコミュニケーション
・技術に関するコミュニケーションの難しさ
・そもそもイメージがわかない
・正確に言えば言うほど伝わらない
・使っているけど分からない
・技術のコミュニケーションを助ける可視化
・可視化のためのデータや手段が豊富になった
■いろいろと分からせてくれる可視化
・比べてみれば違いがわかる
・ロボットについては多くの可能性がある
・特許はいろいろな視点で分析できる
・出願人も少ないロボット分野
・ナノテク以上にライフサイエンスの方がベンチャー的
・共同出願の分野間相違は小さい
・増やすべきと考えられる共同出願
■ナノテクのより詳細に踏み込んだ可視化
・ナノテクの要素的技術の違いを可視化する
・フラーレン、カーボンナノチューブ、ナノ粒子とは?
・特許出願件数に結構相違があるフラーレン、カーボンナノチューブ、ナノ粒子
・出願人についてもフラーレンは最少
・活発な(?)共同研究
■ITで“可視化”すれば未来が見える
・時間経過についても三者三様の傾向
・予測をすれば未来を「可視化」できる
・黎明期から成熟期までの過程が分かる成長曲線
第2章 開発動向の可視化
─鳥瞰すれば開発の中心が分かる─
■容易に視野を拡大できるIT
・可視化、見える化の範囲はまだまだ広げられる
・どんどん変わる開発機関の出願数順位
・論文では開発機関も異なる
・海外の機関の方に先進性の可能性
・日本がリードしているロボット分野
■視野を二次元に拡大
・特許出願の内容に踏み込んで作る二次元の配列
・記述内容を分析するテキストマイニング
・要素的技術を平面に並べる
■距離で可視化する技術の関係
・相互の距離で関係の強さを表現する
・距離の遠近で技術用語を括る
■開発活動を濃淡(温度)で表現
・下敷きの上に特許出願をプロットしてサーモグラフを作る
・開発の中心の移動も可視化できる
・特許出願の絶対数を反映したサーモグラフの表示
・サーモグラフを合成すればナノテク全体が鳥瞰できる
・M&Aでも参考にできる開発機関の特徴の可視化
・国別にみると医薬・バイオの弱さが見えてくる
第3章 ネットワークの可視化
─ネットワークに表れる敵味方─
■可視化に有効なネットワークの利用
・ネットワークというパターンを使って可視化する
・技術開発もネットワーク化される
・個人をノードとしたネットワークの効用についてのコメント
・共同出願の内容の把握を可能とするテキストマイニング
■企業と特許を使ったフラーレンのネットワーク
・フラーレンのネットワーク
・ノードのサイズと次数は重要な特性
・リンクが示す情報
・民間企業がリードするフラーレンの開発
・三菱化学とロームに見られる材料企業とデバイス企業の関係
・三菱化学とフロンティアカーボンの強い関係
・リンク上の繋ぎの言葉は共同研究の内容を示唆する
・小さく、しかし、強くリンクする独立しているネットワーク
■ネットワークが示すいろいろなチャンス
・リンクがないことも利用できるネットワークの可視化
・バイパスと割り込みも想定できる
・三菱化学とパナソニック間でのバイパスと割り込み
■成長するネットワークの可視化
・フラーレンのネットワークの成長は時間経過に比例
・ナノ粒子のネットワーク
・キーワードを踏まえた半導体と半導体応用発光素子の区別
・ナノ粒子のネットワークの時間変化
・カーボンナノチューブのネットワーク
・独立したネットワークを繋ぐ言葉
・カーボンナノチューブのネットワークの時間変化
・トレンドを鳥瞰すれば、落とし穴は避けられる
■ネットワークの特性を把握する指標
・ネットワーク同士の比較を容易にするマクロな特性
・リンクから得られる連関度
・三次までで90%の重なり
第4章 技術ノードのネットワーク
─技術の繋がりが生み出す技術の価値─
■ネットワークを利用したもう一つの可視化
・技術同士を繋ぐ、技術をノードとしたネットワーク
・機関ノードと技術ノードではネットワークの性質が違う
・技術の価値は技術間の関係から把握できる
・技術シーズから発想しても、シーズプッシュではない
・技術ノードの決め方には恣意性がある
・技術をノードとしたナノテクのネットワーク
■ネットワークで可視化されるノードの意味
・ノードのサイズには大きな違いがある
・粗いより、詳細な分類が望ましい
・ノードの重要性を示すサイズと次数について
・技術をノードとしたライフサイエンスのネットワーク
・「分野」を視点にしやすいという特徴について
・技術分野間の比較や繋がりも捉えられる
・分野間比較を前提としたネットワークのノード
■いろいろと加工が可能なネットワーク
・3分野の合成ネットワーク
・ネットワークをグラフにして可視化する
・ネットワークの「取り付く島」効果
・事業分野探索でも効果的な、技術をノードとしたネットワーク
・機関別に作成可能というもう一つの長所
・ナノテクを牽引する代表企業でもネットワークは異なる
・特許と論文でのネットワークの相違
■ネットワークで探索できる開発課題
・0次リンクを使えば競合が避けられる
・ナノテクの0次リンクの事例
・0次のリンクが多いナノテクネットワーク
・リンクと連関度を使った開発課題探索
・狙い目は「弱いリンクと強い連関」
・もう一つの狙い目は「強いリンクと弱い連関」
第5章 技術戦略の「可視化」
─「繋がり技術」で描くロードマップ─
■可視化手法の技術開発プロセスへの応用
・改めて可視化の必要性について
・入口と出口を繋ぐのがロードマップ
・十分な大きさのたたき台が得られる
・新規事業を自社資源により開発する場合の技術戦略
・技術戦略の目的と目標を区別する
・入口をナノテク、出口をロボットとしたサンプル
■技術で展開する入口と出口の間
・ナノテクとロボットの一次リンク
・重なり部分で最も特徴的な言葉が「マニピュレータ」、「マニピュレーション」
・重なりを得る手続きは繰り返せる
・一次リンクの次の展開
・予想外の特許出願も関係してくる横展開の高次リンク
・自社による特許出願・保有特許がいくつ含まれるかでチェーンの評価ができる
・成長曲線の飽和値をウェイトした評価
・個々の特許出願の評価によってもチェーンの評価は可能
・ノードの出願人についてのチェックも効果的
・自社の特許出願に限定した展開
■多様な展開方法
・縦方向への展開
・縦方向にも展開は続けられる
・縦方向のチェーンは代替的で競合的
・手段(入口)重視でチェーンを展開し手段を多様化する
・用途(出口)重視の展開で用途を多様化する
・入口、出口を拡大・縮小すると異なったチェーンが得られる
■繋がっていないことも重要なヒント
・0次リンクの意義
・0次リンクの実例
おわりに
はじめに
一般的に事業開発、それも技術が関わる事業開発となると一人ではできません。研究する人、開発する人、製造する人、販売する人等々が必要になります。つまり、異なった専門性の繋がりが必須となるのです。ここで大切になるのが、異なった専門性をもつ複数の人が一つの事業活動を展開するのですから、いろいろな情報を共有化するということです。何を目的とした事業開発か、何が困難なのか等々について、情報を交換し、共有することが重要となるのです。
例えば、直接技術とは関係のない、製品の販売を担当する人でも、自社製品の技術的特徴について全く知らないというのは問題です。逆に、技術開発を担当する人が、自社製品がどんな人々に販売されているかについて全く知らないということも大きな問題です。事業活動全般について、関係者はある程度の情報を共有することが必要です。
本書は、これら事業に関して共有する必要のある情報の中で、特に「技術についての情報の共有化をいかにするか?」を主題としています。中でも重点をおいているのが、先端的技術分野に関する情報の共有化です。
先端技術に重点をおくのには二つの理由があります。一つ目は、先端技術が事業の競争力獲得に重要な役割を持っていること、二つ目は、高度で理解することが困難な先端技術情報を、専門性を持たない人と共有化するには、特に大きな困難が伴うためです。
本書で紹介する手法で“可視化”すれば、技術の専門家と非専門家の間でのコミュニケーションも、技術の専門家同士のコミュニケーションも効果的に行えます。
例えば、今後一層活発に行われる可能性がある企業間の協業や合併では、それぞれの企業が保有する技術資源の把握が必要となりますが、その全貌の把握は容易ではありません。しかし、この可視化手法を使うと、企業や研究機関の開発活動全貌が一目瞭然となります。
また、技術開発を通じて形成される企業間のネットワークも可視化できます。この可視化によって技術に専門性のない立場からも、関連する企業に関する知見を踏まえた有効な見解を得ることが可能となります。自社にとって効果的な企業間関係の構築では、技術以外の視点からの見解も必要です。企業間ネットワークの可視化を使えば、そのような見解の収集が円滑に行えます。
可視化は技術の専門家同士の議論でも有効です。例えば、研究開発や事業開発ではロードマップの作成が必要となります。そして、ロードマップには種々の分野の技術が含まれます。一人の専門家の専門性では対応できない広がりを持つ場合も少なくありません。こんな場合にも可視化手法が効果的に活用できます。ITによりほぼ自動的に可視化されるロードマップのたたき台に対し、専門性を異にする同士がそれぞれに自身の知見を提示し、たたき台から本格的なロードマップの構築を進めることが可能となります。
さらに、急速に進歩する先端技術については、たとえ研究機関の責任者の立場にある方でも常に最先端の状況を把握し続けることは容易ではありません。この手法は、大量の特許情報や論文情報を、進歩したITで効果的に可視化するものです。研究開発のマネジメントにおいても効果的に活用できるでしょう。例えば、研究開発動向を可視化し研究機関の職員と共有することにより、開発テーマの選択やテーマの優先順位決定についての合意形成はより円滑に行えるようになります。
本書では、技術を可視化、見える化することにより、情報の共有化を進めます。IT技術の進歩により、高度な技術も容易に“可視化”することができるようになっています。それも、手軽にできるようになっています。“可視化”すれば、その技術の事業開発に関連する人々の間での情報共有化も容易になります。
そして情報の共有化ができれば、事業開発の将来像も共有化できます。その上で、事業開発を進めるべき方向についても丁寧な議論が可能となります。さらに、シーズ側についても、ユーザ側についても衆知が集まり、これにより成功の確率を高めることが可能となるのです。
本書は、全体で五章から構成されています。以下に、各章の概要を示します。
第一章 「可視化」のすすめ ―比べてみれば違いが分かる―
技術の内容を詳しく理解しなくても、技術同士を比較することで目的の技術の特性を把握し、その開発の意義を確認することができます。特許出願件数、その時間的な経過、経過が示すパターン等に注目し、ナノテクノロジー(以下、ナノテク)、ロボット、ライフサイエンス、あるいは、フラーレン、カーボンナノチューブ、ナノ粒子等の開発動向を“可視化”し、互いに比べて各技術の特徴を把握してみます。
第二章 開発動向の「可視化」―鳥瞰すれば開発の中心が分かる―
ITは“可視化”について、これまでになかった手段を実現しています。例えば数十万件の特許データを一括処理して可視化することも可能となっています。この処理により、技術分野全体の開発動向を一覧性のあるマップ(サーモグラフ)にまとめることができます。このマップを使うと、色や濃淡で開発の集中度を把握することができます。さらに、その時間経過を見ることで、開発課題の変遷を把握できますし、自社の乗るべきトレンドを選択することもできます。
第三章 ネットワークの可視化 ―ネットワークに表れる敵味方―
技術開発は広く共同的に行われ、その成果は共同での特許出願、論文の共同執筆としてまとめられます。共同出願に注目すると技術開発機関の関係がネットワークとして見えてきます。ITによるテキストマイニングを使えば、共同出願に特徴的な技術用語を絞り出すことができ、共同研究の目的や課題を推察することもできます。このような推察によって、協働すべき相手と競争すべき相手の弁別も可能となります。
第四章 技術ノードのネットワーク ―技術の繋がりが生み出す技術の価値―
開発機関を繋ぐネットワークだけでなく、技術分野間を繋ぐネットワークも作成できます。このネットワークを見れば、各技術分野の特徴を理解できます。分野内での繋がりが中心の技術分野(ライフサイエンス)や分野外と繋がる傾向の強い技術分野(ナノテク)等の特性を見ることにより、開発戦略のヒントを得ることができます。自社が保有する技術がネットワークの中に位置づけられ、その価値も明確になります。
第五章 技術戦略の「可視化」 ―「繋がり技術」で描くロードマップ―
異なる技術分野間を繋ぐ特許データの分析により、保有する技術シーズ(例えばナノテク)と事業化目標分野(例えばロボット)を特定すれば、遂行すべき開発経路の案を多数、自動的に作成することができます。各開発経路は、技術分野を繋ぐ技術の連鎖として“可視化”されます。ITを活用し、広い技術分野を見ることにより、自社資源に限定されないロードマップの案が得られます。
また、本文中にはいくつかのコラムを入れさせていただきました。本文でご紹介した手法の実施例や関連する経験談です。利用の参考にしていただければ幸いです。
なお、本書では、多くの分析・可視化において、その後、特許として権利化されたか否かに関わらず、特許出願のデータを使用しています。したがって、本来、分析対象や件数に関する記述については、すべて「特許出願」と明記するのが正確です。また、文章の記載内容に関してテキストマイニング技術を用いて解析している箇所につきましては、その解析対象として特許出願の「公開公報」、権利化された特許の「登録公報」と記載するのが正確です。しかしながら、読みやすさを考慮し、特許と論文の区別など、主として特許というカテゴリを示す目的での記載や、記載が繰り返す箇所につきましては、一部「特許」あるいは「出願件数」と記載しています。
「百聞は一見にしかず」と言われます。最近のITを使えば、先端技術も可視化することができます。「可視化」によりコミュニケーションの効果も上がり、衆知を集めやすくなります。上手く集めれば「文殊の知恵」です。豊富な日本の技術蓄積を、自社にとって有効に活用する方法も見えてくるのではないでしょうか。
2011年12月
池澤 直樹
中居 隆









