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カテゴリー・プロフィット・マネジメント
―小売業の売場利益を最大化する技術と仕組み―

定価(税込)  2,592円

著者
サイズ A5判
ページ数 144頁
ISBNコード 978-4-526-06729-7
コード C3034
発行月 2011年08月
ジャンル 経営

内容

小売業界では、これまで発注作業は経験を頼りに行っていたが、景気悪化、流通混乱を受け、自動発注システムを導入して、購買活動の健全化とともに、経費削減、在庫管理向上を図ろうとする企業が増加している。本書は、そのような関心を持つ読者を対象に、消費者目線に立った商品のカテゴリー管理を行うことで最大の利益を得る最新手法「カテゴリー・プロフィット・マネジメント」を紹介している。

三田洋幸  著者プロフィール

(みた ひろゆき)
経営と情報システムのコンサルタント
管理会計学、統計学に精通し、小売業・流通業におけるマネジメント・システムのコンサルティングに従事している。
国際会計事務所系コンサルティング会社を経て独立、現在に至る。「SCMの起点は小売業にあり」との問題意識から、小売業の利益管理の理論研究を開始し、カテゴリー・プロフィット・マネジメントの研究・開発、実証実験に従事。同理論に基づいたパッケージ・システム(CPMシステム)を開発し、小売業、流通業への導入・展開に力を注いでいる。
東京理科大学専門職大学院MOT、東洋学園大学で経済性分析の非常勤講師を歴任。
慶應義塾大学管理工学科卒業(応用統計学専攻)
慶應義塾大学経営管理研究科修了(MBA)
オプティマム・リサーチ代表
日本IBMビジネス・アソシエイツとしてCPMシステムの導入支援を担当
url: http://www.optimumcpm.com
mail: hiroyuki.mita@optimumcpm.com

目次

第1章 生産性向上の着眼点
1  生産性の向上が企業価値を高める
2  営業利益を増やす着眼点
2.1 カテゴリー・マネジメントは売場を差別化する思考プロセス
2.2 カテゴリー・マネジメントの3つの課題
3  費用を下げる着眼点
3.1 リスク・マーチャンダイジング
3.2 オペレーションの競争優位
3.3 サプライチェーンの構造改革
4  資産効率を最適化する着眼点
4.1 経済性の原則
4.2 商品利益管理の基本原理
5  カテゴリー・プロフィット・マネジメントの目的

第2章 マーチャンダイジング変革の施策と仕組み
1  陳列管理は変革の出発点
1.1 陳列マスターの管理方法
1.2 カテゴリースコアの評価・検証
1.3 品揃えと棚卸在庫の検証
1.4 商品改廃と陳列作業の精度向上
2  商品ライフサイクル管理のダイナミズム
2.1 商品の棚入れ・棚落ち
2.2 販促計画と送込み発注
2.3 フェイス拡縮
2.4 死に筋品の改廃
2.5 最適売価の探索
2.6 リソース管理による単品分析
2.7 機会損失と過剰在庫への対応
3  カテゴリー資源配分の最適化
3.1 カテゴリー・ポートフォリオ管理
3.2 改善すべき売場へのアプローチ
3.3 カテゴリー業績管理

第3章 デマンドチェーン変革の方向性
1  異なる目的をもつ企業の連携
2  デマンドチェーンの合理性を追求する
2.1 取引価格中心主義の解消
2.2 ブルウィップ効果の抑制
2.3 戦略的アライアンス
2.4 情報提供と情報活用

第4章 小売業の需要予測と在庫管理
1  需要予測の方法
1.1 小売業の需要特性
1.2 需要予測に用いる統計手法とその特徴
1.3 予測モデルの定式化
1.4 予測モデルの構築例
2  在庫管理の最適化
2.1 小売業の在庫管理
2.2 売場利益を最大化する基準在庫
2.3 相対最適所要量の特性
2.4 経済発注サイクルによる発注頻度の最適化
2.5 演出効果を考慮した基準在庫の調整
2.6 演出効果に応じた陳列パラメータ設定方法

第5章 需要予測型自動発注システム
1  自動発注システムのレベル
2  発注数の計算方法
2.1 従来方法の問題点
2.2 小売業に適した計算方法
2.3 発注所要期間と納品リードタイムの計算方法
2.4 単品在庫データの整備
3  特殊な状況に対応する工夫

第6章 チェンジ・マネジメント
1  カテゴリー・プロフィット・マネジメントのマネジメント・サイクル
2  新業務体制に向けた改革管理の取り組み

はじめに

 日本経済は、空白の二十年と言われる。不良資産問題に端を発して、企業経営を縮小均衡政策へと向かわせた。雇用システムは年功序列型から成果主義へと変わり、「勝ち組」と「負け組み」の差がはっきり分かれてしまうような格差社会に変わった。雇用不安への警戒から、深刻な消費の停滞が続く中で、小売業界においても、デフレの深刻化、売上の減少、客単価の低下、出店過多と不採算店の増加、外資小売業の参入等、競争環境は厳しさを増している。
 業界を代表する企業と認知されてきたI社の財務分析を例にして、小売業界の収益構造の変化を見てみよう。かつてI社は、高収益企業として評価を得てきた。しかし、バブル崩壊後の業績推移は、惨憺たるものがある。1995年から2005年までの業績は、総売上高が1.52兆円から1.46兆円へ減少する中で、出店を継続してしまった結果、一坪当たり売上高は335万円から233万円に低下し、商品回転率も25回転から14回転に低下した。一方、従業員一人当たり売場面積は、坪当たり10人のまま推移しており、売場を管理する従業員の効率性は変わらない。結果として、従業員のパート化を進めることで、パート要員を含めた一人当たり人件費を330万円から294万円に減らしてはいるものの、収益の減少を補うほどの効果はなく、販管費は毎年微増し続け、営業利益率は4.1%から0.6%まで低下した。その後、今日に至るまで財務体質に大きな変化はない。
 こうした状況は、I社に限った話ではなく、小売業全般に見られる傾向である。これまで、「店舗を増やす=増収増益」という方程式を成立させていた経済成長が消失してしまった。環境が大きく変わりつつあるのに過去の成功体験から離れられず、店舗展開を従来のペースで続けた結果、売場効率は年を追うごとに低下をきたし、相対的に経費比率が上昇して利益を圧迫する結果になっている。挙句の果てに、パート化比率を高めて人件費を削減する取り組みも、売場づくりという本来業務の質を劣化させ、売場を商品が並んでいるだけのスペースへと変貌させてしまったとも言われる。
 このような大きな環境変化に適応するための鍵は何だろうか。「単純な拡大主義や組織力をそぎ落とすだけのリストラ策ではなく、利益重視で効率のよい経営に転換すべきである」と多くの経営者は語っている。そうであるならば、それは具体的にはどのようなビジネスモデルであろうか。多くの企業は、過去の成功体験に囚われたまま、自己変革を遂げられないでいるようにも思える。個別に見れば、活気のある企業は少なからず存在する。彼らに共通する特徴は、いずれも、魅力的な売場をつくることに真剣に取り組んでいる点である。小売業の成功要因は、つまるところ、消費者が求めている商品を売場に仕入れ、売れている商品をきちんとアピールし、売れない商品を売場からカットしてムダを省き、店はきれいで、接客態度はよく、という「基本の徹底」にどれだけ近づくことができるか、ということに間違いはないだろう。
 従来から商品管理の手法として、カテゴリー・マネジメントや単品管理があるが、カテゴリー・マネジメントにしても単品管理しても、手間がかかりすぎる、人的スキルに依存しすぎる、といった批判も多く、十分に実践されているとは必ずしも言えない。特に大型量販店では、スローガンと実践との乖離が著しい状況にある。大型量販店の現場は、溢れる商品を前に作業をこなすのに精一杯で、単品管理などといっても作業に追われて考える余裕すらない。コンビニエンス・ストアでかろうじて単品管理が実践できていると言われるのは、小規模な店舗で売れ筋品に絞り込んでいるからである。大量な商品を抱える大型量販店で同じことをやろうとすると、今の何倍もの人員が必要になるであろう。
 小売業のマネジメントに変革が求められている。
 そこで本書は、小売業の生産性を向上するための着眼点を整理した上で、売場利益を最大化するための具体的な施策と仕組みを体系化する。カテゴリー・マネジメントや単品管理といった従来の手法も、このような切り口から、改めて捉え直している。さらに、統一的な理論に基づく業務システムの構築と、それにも増して、その実践を重視する。特に小売業は、何百万にも上るSKU(在庫管理単位)を相手にしなければならないので、観念論だけでは何の役にも立たない。現場で実践できる具体的かつ効率的な仕組みが必要とされている。人手に多くを頼った今のやり方では、変化する消費者の需要にダイナミックに対応していくことは無理である。
 本書は、マーチャンダイジングの新しい業務のあり方として、また、一連の施策を統合的に実行できるよう、需要予測型自動発注システムを利用することを前提にしている。「自動発注システムなどは、単に発注業務を省力化するだけのもので、売場の生産性向上と一体どんな関係があるのか」と懸念している読者の顔が眼に浮かぶようである。特に、「単品管理と自動発注とは相容れないものだ」と考える読者も少なくないだろう。しかし、本書を読み進むにつれ、さまざまな局面でシステムが的確な判断を行いながら、売場生産性の向上に役立っている状況をイメージしてもらえると思う。
 本書の構成は以下の通りである。
 第1章では、生産性向上の着眼点を整理する。売上を伸ばす施策と、費用を下げる施策を、効率よく実行する仕組みが、競争優位の源泉となる。売場利益を最大化するための経済性の原則を踏まえながら、どのような施策を推進すべきか、カテゴリー・プロフィット・マネジメントの目的を提示する。
 第2章では、マーチャンダイジング変革の仕組みについて述べる。生産性向上に向けた施策を実践すべく、具体的な仕組みや作業手順を提示する。まず、陳列マスターを整備することの有用性を指摘した上で、商品ライフサイクル管理(商品の初回投入、期中の販売管理、販売終了時の売切り管理)において、どのような作業に力を注ぐべきか、それを支援する商品管理システムを提示する。さらに、店舗の売場生産性の分析を通じて、改善すべき売場を可視化し、一つずつ改善していくアプローチを提示する。“Think one store at a time”である。
 第3章では、視野を流通全体に広げて、デマンドチェーン変革に関する提言を行う。流通プロセスの全体最適を阻害する要因として、取引価格中心主義とブルウィップ効果を取り上げる。消費者指向の売場をつくり、流通プロセスに参画する企業全体の利益を改善するための施策として、卸売業が小売業とメーカーのエージェントとして、製販を結びつけるビジネスモデルとその有用性を提示する。
 第4章では、小売業における需要予測と在庫管理について述べる。前述の通り、本書は、需要予測型自動発注システムの運用が前提になっている。そこで、小売業における需要予測と在庫管理の要件を整理し、システム化に必要な理論とノウハウを解説する。
 需要予測システムを構築するには、計量経済学や統計学の知識が不可欠であるが、専門知識がなくても理解できるよう平易に説明した上で、需要予測の仕組みについて、数値例を用いて詳しく解説する。
 続いて、在庫管理について述べる。売場利益最大化の原則に基づいた基準在庫の計算方法を解説する。小売業の在庫管理は、経済的な効率性だけでなく、売場を演出表現するアートの側面を併せ持つため、両者を考慮した在庫管理手法を提示する。
 第5書では、需要予測型自動発注システムについて述べる。一口に自動発注システムといっても、そのレベルはピンキリである。まず、自動発注システムを4つのレベルに分類し、その特徴と問題点を整理する。自動発注を運用する際に留意すべき様々な工夫や例外事象への対処方法についても述べる。
 第6章では、チェンジ・マネジメントについて述べる。何か新しい取り組みを進めるときは、必ず抵抗に合う。新しい業務へ移行する際の問題点を認識し、人々の不安を取り除き、丁寧にフォローする体制が必要になる。カテゴリー・プロフィット・マネジメントを導入する際の留意事項について述べる。
 流通プロセスは日々進化を遂げている。しかし、それは未だ途についたばかりである。最終需要に接している小売業を起点に業務の効率化に取り組んでいくことは、ひいては、川上全体の流通プロセスの効率化につながっていくであろう。そのような思いが読者の心にも伝わったのであれば、著者としての望外の幸せである。
 本書を刊行するにあたり、多くの人々からご教示や励ましをいただいた。特に、今日までの研究を支えてくださった故伏見多美雄教授、日本IBMのマネジメントの方々にお礼を申し上げたい。本書の企画編集に携わっていただいた書籍編集部の鈴木徹氏にも、感謝を申し上げたい。また、陰で支えてくれた妻にも、感謝の意を示したい。

2011年7月
三田洋幸

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