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気候工学入門
新たな温暖化対策ジオエンジニアリング

定価(税込)  2,376円

著者
サイズ A5判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-06696-2
コード C3050
発行月 2011年05月
ジャンル 環境

内容

気候工学(ジオエンジニアリング)とは温暖化対策の一つで、人工的に地球を冷やす技術のことである。危険な地球温暖化が迫っていることで、欧米を中心に関心をよんでおり、地球温暖化の科学をまとめる国際組織、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)でも2013年ごろの報告書で取り扱うことになっている。本書は気候工学の専門的な入門書である。技術説明やその効果、気候工学の歴史や最近の動向などについてわかりやすく解説する。

杉山昌広  著者プロフィール

(すぎやま まさひろ)
1978年埼玉県生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科卒業。米国マサチューセッツ工科大学から気候科学のPh.D.、技術と政策の修士号を取得後、東京大学地球持続戦略研究イニシアティブにて特任研究員。現在、(財)電力中央研究所社会経済研究所主任研究員。専門は地球温暖化に関するモデル分析。

目次

プロローグ 宮沢賢治の夢

(財)電力中央研究所 上席研究員      
IPCC第四次報告書主著者       
IPCC第五次報告書統括執筆責任者   
杉山大志 

 「寒サノナツハオロオロ歩キ」。宮沢賢治は東北地方の農民が冷害に苦しむことに心を痛めた。少年宮沢は一心不乱に勉強し、やがて農業技術者になり、イモチ病対策としての肥料の撒き方の指導などをした。それでも冷害も飢饉も無くならず、己の無力に唇を噛んだ。
 晩年の自伝的作品「グスコーブドリの伝記◆1◆」では、冷害による飢饉で父母を失い、妹を人さらいに奪われたグスコーブドリが、悲しみを乗り越えて勉強をし、農業技術者を経て気象学者になり、窒素肥料の人工雨を降らせる活躍をする。最後には、火山を人工的に爆発させCO2を増やして温暖化を起こし、冷害の悲劇から農民を救う。ただし、自らはこの爆発の犠牲となり死んでしまう。
 いま地球では10億人が貧困状態にあり、いつ飢饉になってもおかしくない。CO2などによる地球温暖化は、この状態をいっそう悪化させるかもしれない。今後CO2を減らすことでこれを回避できるならよいが、これが間に合うかどうかは、科学的な不確実性もあり、何ともいえない。ひょっとすると、これまでに人類が排出したCO2だけで、アフリカやインドの何億人もの人々が、旱ばつや飢饉などで、ひどい目に合うかもしれない。
 最悪の事態に備えて、地球を冷やす「気候工学」を研究しておこうという動きが、IPCCをはじめとして、世界で始まっている。本書は、入門と銘打っているが、日本で初の、この技術についてのまとまった、本格的な解説書である。地球温暖化が大きな災厄をもたらすならば、それを少しでも和らげ、人々を救うことが大事である。だが、地球を冷やすとなると、逆に冷害などを引き起こし、人々を苦しめるようなことがないよう、気をつけねばなるまい。気候工学は、何よりもまずよく研究し、そして民主的な管理の下において、賢明に使わなければならない。
 現代の日本の豊かさを見ると、貧しい農民を救いたいという少年宮沢の夢はほぼ達成されたかのようだ。これがいっときのものに終わらないためには、気候工学をよく研究することがいまは大事に思う。みなさんがこの技術をよく知り、叡智を働かせるきっかけとして、この本が少しでもお役に立てば幸いである。

―――――――――――
1 原作は宮沢(1932)。農業技術や気象改変の様子については劇画版(ますむらひろし 1995)の方が目で見て分かりやすい。冷害の実態やイモチ病対策など科学的、技術的、歴史的な背景については卜蔵(2001)に詳しく説明してあるので、併せて読むといっそう味わい深くなる。

はじめに

プロローグ 宮沢賢治の夢

1 なぜ今、気候工学か

2 「危険」な気候変動の対抗策としての気候工学
2・1 CO2排出大幅削減の難しさ 
2・2 大幅削減でも保証できない2℃目標 
2・3 ゼロ排出でも戻らない温暖化 
2・4 温度が4℃上昇した世界のリスク 
2・5 気候工学の慎重・反対論 

3 歴史と動向
3・1 冷戦時代の気象改変から気候工学へ 
3・2 クルッツェン論文 
3・3 タブーでなくなった気候工学 

4 気候工学の概要
4・1 気候工学とは何か 
4・2 地球温暖化抑制の仕組み 
4・3 太陽放射管理とCO2除去の特徴 

5 太陽放射管理(SRM)
5・1 太陽放射管理の概要と原理 
5・2 成層圏エアロゾル注入 
5・3 低層雲の反射率増加 
5・4 太陽放射管理の限界‥海洋酸性化と終端問題 

6 CO2除去(CDR)
6・1 CO2除去の概要 
6・2 CO2除去の原理 
6・3 鉄散布による海洋肥沃化 
6・4 CO2直接空気回収 
6・5 バイオマスCCS 

7 効果・コスト・問題点
7・1 気候工学を評価するときの様々な視点 
7・2 効果‥温暖化は抑制できるのか? 
7・3 速効性‥間に合うのか? 
7・4 コスト‥緩和策との比較 
7・5 問題点 
7・6 総合評価 

8 気候工学の研究‥現状と今後
8・1 どのような研究が必要か 
8・2 各国の気候工学研究 
8・3 日本の気候工学研究 
8・4 民間資金による気候工学研究 
8・5 実験に関する論争 

9 気候工学に関わる人々の意見
9・1 気候工学についての様々な意見 
9・2 研究者 
9・3 保守系シンクタンク・研究者 
9・4 営利企業 
9・5 環境保護団体 
9・6 市民 

10 社会はどう向き合うべきか‥気候工学のガバナンス
10・1 気候工学のガバナンスの必要性 
10・2 アシロマ会議 
10・3 最近の動向 
10・4 現在の枠組み 
10・5 研究のガバナンス 
10・6 実施のガバナンス 
10・7 参考‥生物多様性条約COP10での気候工学に関する決定 

おわりに 

資料 さらに詳しく知るために
 
謝辞 
識者の声 
参考文献 
索引

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