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分析化学における
測定値の正しい取り扱い方

定価(税込)  2,160円

著者
サイズ A5判
ページ数 144頁
ISBNコード 978-4-526-06666-5
コード C3043
発行月 2011年03月
ジャンル 化学

内容

分析化学の現場において、分析方法にかかわらず、機械等から得られた“測定値”のままでは信頼性のある“分析値”とはいえない。測定値にさまざまな検討を加え、適切な処理を踏んだうえではじめて分析値として提示することができる。本書ではこのために知らなければならない基礎知識を、測定値を取り扱う実験者はもちろん、分析値を使って判断をする人にとってもわかりやすいよう概念を平易にその考え方から実践までをやさしく解説した。

上本道久  著者プロフィール

(うえもと みちひさ)
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター城南支所上席研究員・支所長代理
1980年東京農工大農学部環境保護学科卒業,1982年同大学院農学研究科環境保護学専攻修士課程修了,1985年学習院大学大学院自然科学研究科化学専攻博士後期課程修了.理学博士.
1985~87年理化学研究所生体高分子物理研究室博士研究員,学習院大学理学部助手を経て1987年より東京都立工業技術センター(現東京都立産業技術研究センター)無機化学部研究員.東京都立産業技術研究所材料技術グループ主任研究員,東京都立産業技術研究センター経営企画本部経営企画室主任研究員を経て2009年より現職.1991~98年 東京農工大学非常勤講師 2005年 首都大学東京客員准教授

委員:(社)日本分析化学会において理事,代議員,広報幹事,「ぶんせき」編集幹事,関東支部常任幹事,標準物質委員,教材開発委員,ネットワーク運営整備委員など.(社)日本溶接協会ろう部会分析委員会委員,(社)日本マグネシウム協会分析委員会委員長,(社)日本アルミニウム協会分析委員会委員長,産業技術連携推進会議知的基盤部会分析分科会運営委員,JIS改正委員(プラズマ質量分析,マグネシウム材料・分析,アルミニウム分析,はんだ分析など),日本工業標準調査会委員,ISO TC79/SC5(マグネシウム材料)委員 歴任

所属学協会:日本分析化学会,日本化学会,日本鉄鋼協会,日本溶接協会,廃棄物資源循環学会,American Association for the Advancement of Science,プラズマ分光分析研究会,溶液化学研究会

受賞:東京都立産業技術研究所チャレンジ賞 技術賞優秀賞「先端化学計測技術」(2004)日本分析化学会2007年度技術功績賞「高精確化と標準化に向けた無機分析の手法開発と産業界への貢献」

目次

まえがき

第1章  「はかる」ということ
1.1 はかる,とは何か
1.2 なぜ正しくはからなければならないか
1.3 分析化学において正しく「はかる」ことの意義
1.4 分析値を信用するために
1.5 分析値の信頼性に関する具体的事例
事例1
事例 2
1.6 おわりに

第2章 有効数字
2.1 はじめに
2.2 有効数字の桁数とその意味
2.3 数値の丸め方
2.4 無機分析における,分析方法による有効数字の具体例
2.5 演算に伴う有効数字の処理
2.6 有効数字の観点から見た分析値の報告例
2.7 おわりに

第3章 検出限界と定量下限
3.1 はじめに
3.2 用語の定義
3.3 検出限界
3.4 原子スペクトル分析法における検出限界の算出
3.5 定量下限
3.6 検出限界や定量下限付近の分析値をどのように表記するか
3.7 おわりに

第4章 信頼性にかかわる用語
4.1 はじめに
4.2 用語の出典
4.3 信頼性にかかわる概念や評価方法の推移
4.4 化学計測領域における信頼性用語
4.5 物理計測あるいは数理統計における信頼性にかかわる用語
4.6 電子工業における信頼性にかかわる用語
4.7 おわりに

第5章 不確かさの概念と見積もりの考え方
5.1 はじめに
5.2 不確かさの概念
5.3 不確かさの見積もりの基礎
5.3.1 Aタイプの不確かさ
5.3.2 Bタイプの不確かさ
5.3.3 各不確かさ要因におけるAタイプとBタイプの合成
5.4 不確かさを見積もる前にすべきこと
5.5 検定と信頼区間
5.6 おわりに

第6章 実際の定量分析における信頼性評価例
6.1 はじめに
6.2 定量分析において取り扱う数値
6.2.1 試料のはかり秤料における数値
6.2.2 酸による溶解における数値
6.2.3 定容操作における数値
6.2.4 標準溶液の希釈調整における数値
6.2.5 ICP発光分光での測定における数値
6.2.6 データ整理における数値
6.3 分析手順に関する標準不確かさの見積もり例
6.3.1 試料の秤料における不確かさの見積もり
6.3.2 定容や希釈操作における不確かさの見積もり
6.3.3 市販標準液の不確かさの見積もり
6.3.4 ICP発光分光での測定における不確かさの見積もり

第7章 濃度について
7.1 はじめに
7.2 用語の定義
7.3 濃度の単位
7.3.1 分率
7.3.2 物質量(モル)濃度
7.3.3 質量モル濃度
7.4 国内外の規格における濃度単位
7.5 濃度単位の換算
7.5.1 質量分率から質量モル濃度へ
7.5.2 質量分率から物質量濃度へ
7.5.3 質量モル濃度から物質量濃度へ
7.6 濃度が関与した応用的計算事例

資料
索引

はじめに

 「はかる」という行為は我々の日々の生活に深く浸透している.製造業者はものを作ってその性質をはかり,行政においてははかった結果で政策他を決定する.市民は,はかってある数値を信用してものを買う,というように,はかる行為があって,それが正しいという前提で世の中が成り立っている.分析化学は,元素や化合物などの物質の有無やその存在量をはかるための方法を考える学問であり,分析技術は分析化学の学問的素養に基づいて展開される,はかるためのノウハウがつまった専門知識とそれを実践するテクニックである.
 しかしながら,正しくはかるということは決してやさしいことではない.さらに,計測を取り巻く我が国の状況はあまり明るいものではない.まず計測は,モノづくり(製造)の裏方で支援技術と思われがちなことがある.つまり,どの組織においても計測技術分野は主役ではない場合が多い.そして,オーソドックスな分析化学教室が大学からも姿を消しつつあり,化学計測の基礎を学ぶ機会も少なくなっている.
 また,測定値が分析値である思っている人が,諸専門家にも意外と多い.測定値とは実験者がはかった数値(例えば装置が出力した数値)である.それらに様々な検討を加えて,測定値の信頼性を考察し,測定における不確かさを見積もって有効数字を決定し,数値を丸めて整理し,最終的に提示するのが分析値である.測定値はまだ分析値ではない.測定値を分析値にするのは実験者(分析技術者)の仕事である.本書はそのために最低限知らねばならない幾つかのトピックスを提供している.
 さらに,分析値は分析技術者のためだけのものではない.それを使って大きな決断を行う権能を有する者にとっても不可欠な情報である.本書は,概念を平易に解説することで,分析値を提示する側だけでなくそれらを使う人にとっても親しみやすい書となるよう心がけた.執筆に当たってはできるだけ数式を使わないこととし,本書が統計学から派生した書ではないことを印象づけるようにした.したがって測定値の分布関数やそれから導かれる検定などについての詳細は省略した.それらを解説した本はたくさんあることと,数式アレルギーの人がそれらを見て本書を閉じないようにすることがその理由である.
 昨今の分析装置のめざましい進歩と普及に伴い,たとえppm(通称)やそれ以下の微量レベルであっても,分析値を提示することは比較的容易な作業となった.その反面,提示した分析値の意味を的確に把握することは以前よりはるかに難しくなってきている.分析値の信頼性に関する国際標準化の流れの中で整合性を保持しつつ,よりわかりやすい用語の構築や,不確かさについての事例研究などを進めていくことが研究者に要求されるが,一方で現場技術者は,その最新の成果を習得して,自身が提示する分析値の中身を検証していかねばならない.測定結果に見合った数値を正しく整理・提出してはじめて,定量分析操作は完結するのである.本書の目的は,そのことを分析化学・分析技術に関わる多くの人に理解してもらうことにある.
 本書の上梓に当たり,著者を激励し,編集作業を辛抱強く進めて下さった日刊工業新聞社出版局書籍編集部の田中さゆり氏に深く感謝申し上げる.

 2011年3月
 著者しるす

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