買い物かごへ

数学でわかる
身近な移動現象のはなし

定価(税込)  2,160円

著者
サイズ A5判
ページ数 192頁
ISBNコード 978-4-526-06641-2
コード C3050
発行月 2011年02月
ジャンル その他

内容

私たちが感じる“濃い薄い”“熱い冷たい”…は、時間や場所とともに刻々と変わる移動現象である。“床暖房で部屋全体がどのようにあたたまるのか”“缶ビールとスイカでどのように冷え方が違うのか”など、身近な例をもとに熱や物質や運動の移動に伴う様々な移動現象を定量的に把握する方法を教えた本。

相良 紘  著者プロフィール

(さがら ひろし)
 
 1964年 早稲田大学第一理工学部数学科卒業
 同 年 日本揮発油(株)(現日揮(株))入社
 1990年 同社技術研究所長
 1993年 同社参与 エンジニアリング要素技術開発部長
 1994年 同社参与 システム技術部長
 1998年 同社参与 品質安全環境監理部長
 1999年 国立宮城工業高等専門学校理数科教授
 現 在 法政大学環境応用化学科ほか非常勤講師
 工学博士
 ●著書:「分離」(培風館,1995年)
     「入門 化学プラント設計」(培風館,1998年)
     「分離精製技術入門」(培風館,1998年)
     「事例で学ぶ 工業数学の基礎」(日刊工業新聞社,2001年)
     「復刻新版 多成分系の蒸留」(分離技術会,2006年)
     「技術者のための 実用数学」(日刊工業新聞社,2007年)
     「技術者のための 数値計算入門」(日刊工業新聞社,2007年)
     「そこが知りたい化学の話 分離技術」(日刊工業新聞社 2008年)
     「実践 蒸留プラント設計」(日刊工業新聞社 2009年)
     「よくわかる 化学工学計算の基礎」(日刊工業新聞社 2009年)
     「事例でわかる 化学工学のための数値計算」(日刊工業新聞社 2010年)

目次

第1話 収支のはなし  
 入れば出ていき残れば貯まる お金の収支  
 舌や鼻や肌で感じる度合い 濃度と温度と速度  
 空間の大きさと時間の長さをまず決める 物理量の収支式  
 摩擦力なくして車も電車も止まらない 力のバランス  

第2話 流束のはなし1
 流れる量を時間と断面積で束ねる 体積流束  
 束になって移動する 物理量の流束  
 流体にのみ流速という言葉が使われる 流束と流速  
 同じ土俵で比較する 物理量の次元  
 単位と次元は親戚どうし 物理量の単位  

第3話 流束のはなし2  
 すき焼きの匂いが部屋に充満する 質量流束  
 床暖房の熱が部屋全体を暖める 熱流束  
 界面近くには流れのない薄い層がある 境膜の存在  
 風呂の湯をかき回すと薄くなる 境膜の厚さ  
 団扇で体感温度をコントロールする 境膜の働き  

第4話 対流のはなし  
 濃度が流れに乗って移動する 対流流束  
 風と気温ならびに湿度 ベクトルとスカラー  
 流れる川とたちこめる霧 ベクトル場とスカラー場  
 もっとも嶮しいスロープとほとばしり出る水 勾配と発散  

第5話 微分のはなし  
 瞬間的に稼いでいるお金の額 微分係数  
 定義式に戻れば導ける 導関数の公式  
 習うより慣れよう 導関数の性質  
 加速度は速度の導関数 第2次導関数  
 操作も公式も導関数とほとんど同じ 偏導関数  
 現象を解明するための重要な武器 関数の近似  

第6話 拡散のはなし1  
 水割りウイスキーは拡散で飲むと美味い 物質の拡散  
 濃度の高い方から低い方へ移動する 流体内の拡散質量流束  
 温度の高い方から低い方へ移動する 固体内の拡散熱流束  
 伝導と対流の間に拡散がある 流体内の拡散熱流束  

第7話 拡散のはなし2  
 それ自体がベクトルである 運動量  
 歪めたこんにゃくをもとに戻そうとする力 せん断応力  
 灯ろう流しでイメージをつかむ 層流  
 質量や熱量の場合と同じように表せる 流体内の拡散運動量流束  
 速度というベクトルから生まれる流束 テンソル  

第8話 積分のはなし  
 表と裏の密接な関係 積分と微分  
 導関数の公式の裏返し 不定積分の公式  
 微分より面倒だが習うより慣れよう 不定積分の性質  
 不定積分が分かれば特定の値として求まる 定積分  

第9話 微分方程式のはなし  
 物体温度と室温との差に比例する 物体の冷却速度  
 理解した現象をそのまま式にする 物体冷却のモデル式  
 実際の現象を知るには定量的条件が要る モデル式の解  
 積分を実行するにつきる 1階微分方程式  
 代数方程式を使って解ける場合もある 2階微分方程式  
 特定するには時間と空間についての条件が必要 任意定数 

第10話 ラプラス変換のはなし  
 鮮魚の鯵から干物の鯵がつくられる 関数変換  
 不定積分と導関数の関係に似ている ラプラス変換と逆変換 
 使えるだけで十分だ ラプラス変換表と基本法則  
 行って戻ってくる ラプラス変換法  

第11話 揮散のはなし1  
 身近なところで世話になっている 揮発性物質  
 慣れればそんなに難しくない 現象解析の手順  
 直交座標と円柱座標と球座標がある 座標系  
 手順に従ってモデル式をつくる 円筒缶内の溶剤の濃度分布(式)  
 積分の出番だがその必要もない 円筒缶内の溶剤の濃度分布(解)  

第12話 揮散のはなし2  
 水平方向放射状に拡がる 空間中の棒状芳香剤の濃度分布(式)  
 微分の前の関数を見つける 空間中の棒状芳香剤の濃度分布(解)  
 棒状剤の場合とほぼ同じ 空間中の球状防虫剤の濃度分布(式)  
 簡単な積分をするだけ 空間中の球状防虫剤の濃度分布(解)  

第13話 伝熱のはなし  
 窯の内壁面温度を知る 固体層内の温度分布  
 棒状芳香剤の濃度分布の復習だ 円筒状固体層内の温度分布  
 冷蔵庫やエアコンの放熱板および車のラジエーター 放熱フィン  
 周囲へ熱が逃げていく 放熱フィン内の温度分布(式)  
 微分方程式の解法の定法に従う 放熱フィン内の温度分布(解)  
 2種類の指数関数からなる関数 双曲線関数  

第14話 反応のはなし1  
 反応なくして生活は成り立たない 化学反応  
 反応の速さは反応物の濃度に比例する 反応速度  
 今までの手順と式のくり返し アルカリ液中のCO2濃度分布(式)  
 ラプラス変換法を使ってみる アルカリ液中のCO2濃度分布(解)  

第15話 反応のはなし2  
 拡散流束と対流流束で移動する 管型反応器内の濃度分布(式)  
 途中の式の変形が少し面倒だ 管型反応器内の濃度分布(解)  
 工業的な反応操作の特効薬 多孔性触媒の機能  
 複雑なので内部構造をモデル化する 多孔性触媒の構造  
 反応成分は触媒中心に向かう 多孔性球形触媒内の濃度分布(式)  
 先人の直感と知恵で解く 多孔性球形触媒内の濃度分布(解)  

第16話 流れのはなし  
 湯量と湯温の同時調整は難しい ガス湯沸かし器とシャワー  
 拡散運動量流束と対流運動量流束に対応する 層流と乱流  
 層流と乱流を見分ける指標 レイノルズ数  
 かかる圧力は運動量の生成項に相当 円管内の水の速度分布(式)  
 積分式の物理的意味を考える 円管内の水の速度分布(解)  

第17話 非定常のはなし1  
 車の定速走行と加速走行 定常と非定常  
 式を導く手順は1次元定常式と同じ 3次元非定常式  
 3つの面を出入りする流束を考える 物質移動の式(直交座標)  
 濃度の分布には向きはない 物質移動の式(ベクトル)  
 導くための数学的操作が面倒だ 物質移動の式(円柱・球座標)  
 物質移動の式をコピーすればよい 熱移動の式(直交座標)  
 温度は時間とともにジワッと変化する 非定常熱伝導の式  

第18話 非定常のはなし2  
 運動量流束の成分は9つある 運動量の特徴(復習)  
 流体はとぎれることなく流れる 連続の式  
 成分に注意すれば物質量などと同じ 運動量移動の式(直交座標)  
 圧力と重力が流体にかかる ナビエ・ストークスの運動方程式  
 不要な項はどんどん削除する 平行平板間を流れる水の速度分布  

第19話 偏微分方程式のはなし1  
 1次元非定常式はY=CX2の形をしている 放物型偏微分方程式 
 物理量の移動現象は共通の式で表される 無次元化  
 物理量を時間の関数と距離の関数の積とみなす 変数分離法  
 物理量を時間と距離を結合した変数の関数とみなす 変数結合法  
 1次元非定常式を解くには条件が3つ必要 初期条件と境界条件  

第20話 偏微分方程式のはなし2  
 n個の解があればそれらの和もまた解である 重ね合わせの原理  
 とりあえずは眺めておこう ガウス積分と誤差関数  
 波形のような周期関数を表現する フーリエ級数  
 定常状態における2次元の拡散現象を表す 楕円型偏微分方程式  
 解を導くには境界条件(の一部)が必要 2次元定常式の一般解  
 重ね合わせの原理とフーリエ級数を使う 2次元定常式の特殊解  

第21話 経時変化のはなし  
 菖蒲の溶解成分濃度が水深方向に刻々変化する 濃度の経時変化  
 切り餅の内部温度がトースター内で刻々変化する 温度の経時変化  
 風呂の底に生じた湯の速度が上方に刻々変化する 速度の経時変化  

第22話 ベッセル関数のはなし  
 一般解は見かけは複雑な級数になる ベッセル微分方程式  
 曲線の形は三角関数のsin、cosに似ている 0次のベッセル関数  
 複雑怪奇だがかなり役に立つ ベッセル微分方程式の拡張形  
 使えるだけで十分だ 半整数のベッセル関数と直交性  

第23話 加熱冷却のはなし1  
 円柱の半径方法の拡散だけを考える 円柱座標系の1次元非定常式  
 ベッセル微分方程式の出番 円柱座標系1次元非定常式の一般解  
 ベッセル関数の直交性を使う 円柱座標系1次元非定常式の特殊解  
 缶ビールの冷却と肉ブロックの解凍 円柱形物材の冷却解凍時間  

第24話 加熱冷却のはなし2  
 球の半径方向の拡散だけを考える 球座標系の1次元非定常式  
 半整数のベッセル関数を使う 球座標系1次元非定常式の一般解  
 三角関数の積分公式を使う 球座標系1次元非定常式の特殊解  
 スイカの冷却と餡まんの加温 球形物材の冷却加温時間  

参考図書  
索引

はじめに

 蒸し器の中で肉まんが熱々になっている。隣の部屋の暖気が壁を通して忍び込んでくる。冷蔵庫から取り出したビールが程良く冷えている。アイスコーヒーに注いだシロップがグラス全体に拡がっていく。隣に居合わせた人の衣服からタバコ臭が漂ってくる。樹木に吊した殺虫剤が芽吹いた若葉を守ってくれる。蚊取り線香を置いたテラスで団扇を使って涼を味わっている・・・・・・。
 私たちは、対象の違いや個人差はあるものの、温度が高いと“熱い暖かい”、低いと“冷たい寒い”、そして濃度が高ければ“濃い強い”、低ければ“薄い弱い”などと、肌や舌や鼻で感じる。私たちが感じる温度や濃度は、空間中を移動する熱や物質の量によって決まる「度合い」であり、熱や物質の移動する仕組み(移動現象)を解析すれば、時間と空間(時空)の中で変化する温度や濃度の分布を知ることができる。
 ならば、移動現象を解析するにはどうすればいいのか。現象を視覚・感覚的にイメージしたあと、物理と化学の法則を使ってモデル化し、それを解いて数値やグラフで表せばよい。ただし、モデルは一般に微分方程式(常微分方程式あるいは偏微分方程式)になるので、モデルを作り上げるときにも解くときにも、数学の助けが必要になる。
 数学というと構えてしまう向きも多い。なので本書では、私たちが身近に体験する移動現象を、わが家の茶飯事と昔の思い出など、稚拙で他愛ない話も織り交ぜながら、軽い筆致で解説してみた。内容が玉石混交しているかもしれないが、是非ザッと笑読され、もし玉があるなら拾得されることを切望する。
 日刊工業新聞社出版局書籍編集部の天野慶悟氏には、本書が分かり易く読みやすくなるよう、文言と構成を細かくチェックして頂いた。本書の編集から出版に至るすべての段階でお世話になった同氏に、心から感謝の意を表したい。

 2011年 厳寒
 相良 紘

買い物かごへ