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基礎からわかる金属腐食

定価(税込)  2,160円

著者
サイズ A5判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-06616-0
コード C3057
発行月 2011年02月
ジャンル 金属

内容

深刻な経済損失につながる金属腐食は、腐食に関する知識を理解していれば防止できる。本書は、腐食工学の専門家ではないが金属腐食の問題に直面する建築系や機械系技術者あるいは将来その分野の技術者となる理工系学生にもわかりやすいように金属腐食の知識を基礎から解説。

藤井哲雄  著者プロフィール

(ふじい てつお)
1937年、岐阜県生まれ。
1960年、名古屋工業大学卒業。
1965年、京都大学大学院工学研究科修士課程修了。
1965~90年、科学技術庁金属材料技術研究所。
1991~95年、三浦工業。
1995年よりコロージョン・テック代表取締役。
1995~97年、横浜国立大学共同研究推進センター客員教授。
2004~09年、新潟大学大学院非常勤講師。
2008年、SHASE技術フェロー
著書:「初歩から学ぶ防錆の科学」、「金属の腐食事例と対策」(工業調査会)
   「目で見てわかる金属材料の腐食対策」(日刊工業新聞社)

目次

第1章 金属はどうして腐食する?
金属腐食のプロセス
金属の腐食と局部電池
腐食は金属/水界面で起こる
金属のイオン化傾向と標準電位
平衡電位と分極
乾電池の仕組みと腐食
不動態皮膜の働き
金属腐食の種類
金属腐食の起きる環境
腐食を防止する方法
腐食速度の表示と変換
電位―pH図の意味と適用
分極曲線から何がわかる?

第2章 どんな環境で腐食は起きる?
大気環境での腐食
海水の腐食性と材料の耐食性
土壌環境の腐食性と防食
淡水および純水中の金属の腐食
水質と腐食性因子
遊離炭酸と腐食
無機酸の腐食性
有機酸の腐食性
アルカリ腐食とアルカリ脆性
アンモニアと銅合金の腐食
微生物腐食
原子力プラントの腐食問題と安全性

第3章 どんな金属腐食の形態がある?
酸素濃淡電池による腐食
異種金属接触腐食
マクロセル腐食
電食
金属イオンの溶出と赤水、青水
塩害による腐食
蒸気還水管の炭酸腐食
高流速域における金属材料の劣化
銅および銅合金のエロージョン・コロージョン
亜鉛めっき鋼管の極性逆転
蟻の巣状腐食
脱成分腐食と脱亜鉛腐食
応力腐食割れ
水素脆性割れ
黄銅の時期割れ
腐食疲労

第4章 各種金属でどういうふうに腐食は起きる?
炭素鋼の腐食
鋳鉄の耐食性
溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、Zn-Al合金めっき
樹脂被覆鋼管の性能と耐食性
さびによってさびを制する耐候性鋼
ステンレス鋼の種類
ステンレス鋼の耐食性と不動態皮膜
ステンレス鋼の溶接と耐食性
ステンレス鋼に発生する局部腐食
銅の耐食性
黄銅の耐食性
青銅の耐食性とブロンズ病
亜鉛、鉛、スズの腐食
アルミニウム合金、マグネシウム合金の耐食性
チタン、ニオブ、タンタル、ジルコニウムの耐食性
腐食に強い金属は何?

第5章 腐食を防ぐためには?
塗装と塗膜による腐食防止
イオン状シリカの防食作用
インヒビターの腐食防止機構
ランゲリア指数とスケール防止
電気防食とアノード防食
カソード防食
脱酸素による防食
防食設計の考え方
腐食試験の方法

索引

はじめに

 1970年、英国の著名な腐食研究者であるケンブリッジ大学のT.P.Hoar博士が中心となって金属腐食による経済的損失額の調査が行われ、Hoarレポートとして知られている。その結果、英国における腐食損失額は年間13.65億ポンド(約1兆円)と見積もられた。これは当時の英国GDPの3.5%になり、そのうち腐食防食の知識を有効に活用すれば3.10億ポンド(2,300億円)は節減可能であると結論づけられた。同様に日本における腐食損失額は1975年においては2兆5509.3億円で、当時のGNPは148兆円であったので、GNPに対する比率は1.72%である。1997年においては3兆9376.9億円でGNP 514兆円に対して0.77%で、1975年より大幅に減少している。この原因は腐食に対する節約努力よりも、日本の産業構造が二次産業から三次産業へと変化したためと考えられる。
 最初に腐食コストの調査が行われた英国では当時、輸送産業とくに自動車産業分野で節約の余地が大きいとされ、様々な腐食防止対策が取られた。自動車メーカーは腐食対策を施すことによって耐久性を高め、保証年月を競うことになった。
 腐食コストの推算は直接的な損害を積算したものであるが、間接的な損害や二次被害を含めると莫大な損害になる。あるインテリジエントビルでは、空調用冷温水配管の銅合金製バルブが時期割れにより漏水し、上階の水は下の階に流れて設置されたコンピューターシステムに大きな損害をもたらした。
 原子力プラントの腐食障害は安全性に直接係わる問題になる。かつて、ステンレス鋼配管に応力腐食割れによる冷却水の漏水問題を生じた。原子力プラントは放射能閉じこめが至上命令であり、応力腐食割れやピンホールによる漏水は安全性に係わる問題と言える。
 資源やエネルギーの確保は原子力発電のみならず、風力や太陽電池などの自然エネルギーへの期待は大きいが、それでもなお石油や石炭など化石燃料に頼らなければならないのが実情である。石油資源の開発は全世界にわたって探索が行なわれているが、オフショアーで、かつ深度はますます深くなっている。       高温で二酸化炭素を含むスイートガス環境、あるいは硫化水素を多く含むサワー環境へと移り、厳しい腐食性環境となっており、これらに対する耐食性材料の開発や対応が求められている。新しいエネルギー源を地熱や海あるいは熱化学的水素製造にしても、技術開発の隘路は腐食問題と言っても過言ではない。
 一方、環境問題に目を転ずれば、インヒビター(防錆剤)として有効なクロメートは毒性があって使えない。鉛の微量の溶出さえ有害であり、鉛管はもちろん、黄銅やはんだ、塗料に含まれる顔料に及ぶまで鉛は排除されようとしている。快削黄銅、快削ステンレス鋼は切削性を良くする上で鉛は有効で、それによる生産性は著しく高く、その波及効果は大きい。また、船底塗料に加える有機スズ化合物は全面的に使用禁止となった。この化合物は海上を航行する船舶への貝類や藻類の着生を防止、腐食を抑制するために船底塗料に加えられ、船舶の燃費を節約することができた。海の環境を守るため、生物を殺傷することなく有効な防汚塗料の探索が行われている。塗装の頻繁な塗り替えは、粉塵の発生、揮発有機化合物使用の機会を高める。厚くて耐久性のある重防食塗装を行って塗り替え期間を長くするLCCの概念が取り入れられている。このように防食分野でも環境に配慮した製品や技術の開発が必要になっている。
 金属材料の腐食現象は複雑多岐にわたり、産業分野、業種によって腐食の種類や形態も異なってくる。様々な防食法も安全性、経済性が考慮されなければならない。鉄を腐食から守るために、電気防食における犠牲陽極法ではマグネシウムやアルミニウムの溶解は避けられないと同様に、外界に何ら影響を及ぼすことなく鉄を腐食から守ることはできない。我々ができることは、知識と技術によって腐食を制御することである。
 本書は、複雑で難解な腐食現象を基礎から系統的に理解し、現実の腐食問題を解決するために役立てることを意図したものである。

平成23年2月  著 者

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