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なぜ、日本の水ビジネスは世界で勝てないのか
―成長市場に挑む日本の戦略―

定価(税込)  1,944円

編著
サイズ A5判
ページ数 192頁
ISBNコード 978-4-526-06611-5
コード C3034
発行月 2011年01月
ジャンル ビジネス

内容

新興国・途上国市場を中心とした水ビジネスが活発化している。その中で日本企業は独自の魅力を生かした戦略を打ち立てられるかが、水ビジネスでの成功の鍵を握っている。本書は水ビジネスにまつわるシステムを見直し、日本の強みを生かしたビジネスモデルを提言する。

井熊 均  著者プロフィール

(いくま ひとし)
1958年生まれ、東京都出身。1983年、早稲田大学大学院理工学研究科修了。同年、三菱重工業株式会社入社、

89年同上退社。90年株式会社日本総合研究所入社。現在、同社執行役員、創発戦略センター所長。95年株式会

社アイエスブイ・ジャパン設立と同時に同社取締役に就任(兼務)。2003年イーキュービック株式会社設立と

同時に同社取締役に就任(兼務)。早稲田大学大学院非常勤講師。『企業のための環境問題第三版』(東洋経

済)、『甦る農業』(学陽書房)、『グリーン・ニューディールで始まるインフラ大転換』『図解 次世代農

業ビジネス』『中国環境都市 中国の環境産業戦略とエコシティビジネス』(以上、日刊工業新聞社)をはじ

め多数。

目次

序 章  水ビジネスの可能性
  水ビジネスの可能性

第1章  水ビジネスの内情
1-1 水道ビジネスとは
  (1)水道事業は成熟ビジネス
1-2 水メジャーの歴史
   (1)150年の歴史を持つフランス水メジャー
   (2)民営化が生んだ新たなメジャー
1-3 水道ビジネスの収益構造
   (1)低収益の中でのリスク管理
   (2)民営化が進まない日本

第2章 水問題の本質は水不足と環境問題
2-1 深刻化する水不足
   (1)地球の水循環の構造
   (2)新興国の経済成長で拡大する水需要
2-2 環境問題が加速する水源劣化
   (1)世界規模で進む水源劣化の歴史
   (2)汚染が招く水源劣化
   (3)温暖化で進む水源劣化

第3章  日本で育った水の付加価値
3-1 日本特有の水道事業
   (1)日本の水道事業は水づくりから
   (2)大河のない日本で生まれた水源配水一体事業
3-2 狭い国土が培った水処理・水管理技術
   (1)下水処理場がエネルギー、資源供給基地に
   (2)狭い流域で培われた上下水道一体管理
   (3)都市災害を防ぐ都市排水技術
   (4)日本特有の汚泥処理
3-3 モノづくり大国が生んだ水技術
   (1)工場の水循環システム
   (2)エンジニアリング力が生む高度処理水ビジネス
   (3)日本の淡水化技術は競争力の歴史
   (4)世界最低の漏水率を誇る水道管技術
   ⑤世界最高峰のコンポーネンツ・ビジネス

第4章  未開拓の農業水ビジネス
4-1 農業と水問題
   (1)農業は最大の水需要先
   (2)農業が引き起こした水問題の歴史
4-2 新興国が抱える農村問題
   (1)新興国の零細な農業構造
   (2)新興国で進む農村投資
4-3 農業で進む省水技術
   (1)省水農業の鍵を握る灌漑技術
   (2)植物工場技術による省水型農業
   (3)21世紀の中核技術:バイオテクノロジー

第5章  日本型水ビジネスのモデル
5-1 日本版市場戦略を考える
   (1)コンポーネンツ・ビジネスの戦略的展開
5-2 新コンポーネンツ戦略
   (1)グローバル市場で戦う視点
   (2)マーケットアプローチの視点
   (3)軸となる商品の視点
   (4)モジュール戦略とメンテナンスサービスの視点
5-3 地域ターゲット戦略
   (1)戦略対象地域:水源一体開発
   (2)戦略対象地域:水不足地域
   (3)戦略対象地域:都市洪水地域
   (4)戦略対象地域:取排水集中地域
   (5)戦略対象地域:農業地域
5-4 官民協働戦略
   (1)日本の強みを発揮する官民協働の構築
   (2)公共の事業資産を活かす戦略

おわりに
参考文献

はじめに

水ビジネスの可能性

水ビジネス賛歌
 水ビジネスへの注目が集まって久しい。理由は、世界的な水ビジネスの市場が100兆円もの規模に達すると発表されたからだろう。新興国、途上国の経済発展により、上下水道事業の運営、EPC、設備・装置など、いずれも数兆円から数十兆円の市場を構成するという。水に限らず、新興国のインフラ市場に大きな可能性があることは、そこに本格参入を果たした企業の好業績を見ても頷ける。日本でも戦後の復興から高度経済成長に至る国土構築の時代、インフラ関連の企業は好業績を上げた。中国、インドという巨大な人口を抱える新興国の経済が急成長しているのだから、それ以上の経済効果が期待できる。
 グローバルなインフラ事業のもう一つの魅力は安定した収益を上げられることだ。1990年代末のITバブルと言われた時代、水メジャーの筆頭であるビベンディ(現、ヴェオリア・エンバイロンメント)のCEOとなったジャック・メシエ氏は、IT分野への投資の原資を得るために、水ビジネスの安定した収益に目をつけた。

水ビジネス注目の理由
 水ビジネスに注目が集まったのには、市場規模や安定性のほかにも二つの理由がある。
 一つは、新興国市場の位置づけの相対的な向上だ。2008年のリーマンショックで先進国経済は深刻な傷を負い、2年経った今でも十分に回復していない。慢性化しつつある先進国市場の低迷を見て、世界中の企業が伸長著しい新興国市場に注目した。新興国市場に大きな可能性があることは間違いないが、アメリカ市場がリーマンショック前の好調さを保っていたのであれば、新興国の水ビジネスがこれほど注目されることはなかっただろう。
 もう一つは、インフラ市場の成長性への注目だ。その先陣を切ったのはエネルギー市場であり、背景にあったのは地球環境問題への関心の高まりだ。地球環境問題に関心が集まったことで、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーや原子力発電への評価が急上昇した。原子力発電については、チェルノブイリやスリーマイル島の事故以来、世界的な見直し傾向にあったことを考えると、驚くべき反転だ。そして、再生可能エネルギーの大規模導入が既定路線となると、インターネット以来の広域かつ双方向性のネットワーク制御とも言えるスマートグリッドが生まれた。

水ビジネスの再評価
 水ビジネスへの参入を図るには、以上を踏まえた市場の構造を考えなくてはいけない。再評価の視点をいくつか挙げよう。
 一つ目は、技術の革新性である。ビジネスは革新性があるときに大きな収益の可能性が生まれる。エネルギーの世界でスマートグリッドが注目されているのは、情報通信の分野でインターネットが登場し、ホストコンピューターから分散型システムに移行したときのような巨大な技術的転換が起こる可能性があるからだ。しかし残念ながら、水ビジネスの市場に同じレベルの技術革新の可能性があるようには見えない。
 二つ目は、システム化の可能性である。日本では単品売りからシステム化されたビジネスに転換することが重要、という指摘が多い。確かに、システム化した方がカバーできる領域が大きいし、システムを運営する分だけ付加価値も増える。しかし、カバーする範囲が大きくなると強みが希薄化するというリスクも伴う。システム化が是とされるには、システムそのものに付加価値があるかどうかが問われなくてはいけない。
 三つ目は、収益性である。詳細は第1章で述べるが、社会基盤であるインフラに関わるビジネスで高い利益を求めることには限界がある。国民生活や産業活動の基盤であるがゆえ、どこの国でも電力、ガス、水道などの料金は高くなり過ぎないように管理されるからだ。一方で、持続的な運営に必要なコストは認められる。

水ビジネスの見方
 以上から、新興国を中心とした水ビジネスに取り組むには二つの点が重要になる。
 まずは、長期的な視点で取り組むべき市場である、ということだ。収益的に見ると、安定はしているものの高い利益率は期待できないし、技術面で突出することも望めないのが水ビジネスの市場構造であるからだ。長期的な取り組みなしに企業として意義のある成果を上げることは難しいはずだ。ここで考えどころとなるのは、主たる対象が新興国である、という点だ。つまり、水ビジネスで成果を上げるためには、新興国に根を張ってビジネスを続けよう、という経営判断が必要になる。
 もう一つは、日本として強みが発揮できる分野を見出すことだ。いかに市場がグローバルになろうと、海外企業が歓迎されるのは、自国企業が持っていない技術や資源をもたらしてくれるからだ。完全に現地化している場合を別にすれば、自国企業と大差ない海外企業と付き合うメリットはない。政策に絡んで日本企業の海外進出が語られるとき、決まって出てくるのは「日本企業の高い技術を活かして」という指摘だ。もちろん、水ビジネスでも日本企業の技術は高いとされるものの、水道事業の長い歴史と市場の成熟度を考えると決定的な差別化要因にはなりにくい。
 一方で、日本が海外に進出する際に忘れがちなのはソフト面での日本の強みである。外国人旅行客が日本を訪れるとき、「おもてなし」、「きれいさ」、「行き届き」といったソフトが評価されるのに不思議なものだ。日本には、独自の風土や文化に根差し、日本ならではの生真面目さで作り込んだソフトがある。思えば、フランスの水メジャーも、公共サービスの運営を民間に委ねる、という革新的な行政判断に端を発している。

 以上の観点から、水ビジネスにまつわる緒環境を見直し、日本が強みを発揮できる分野を考えてみよう。

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