内容
普及が進む太陽光発電システムだが、発電電力は設置姿勢や日射状況などで変動しやすく、ユーザは故障や不具合に気づきにくい。著者はこれまで、主に一般住宅に設置された太陽光発電システムの故障・不具合の実態把握と、不具合点検方法の考案を行ってきた。本書はその調査事例から選りすぐりをまとめたもの。発電の仕組みをやさしく解説し、不具合の実態やその点検方法を紹介する。
『太陽光発電システムの不具合事例ファイル』本文掲載URLについて
このたびは、加藤和彦著『太陽光発電システムの不具合事例ファイル』をご購入いただきまして、誠にありがとうございます。
さて、3月11日の東北地方太平洋沖地震の影響により、インターネット上で公開していた、発電量シミュレーションの運用が停止されています。そのため、31ページに記載されているURL(http://www.pvsystem.net)へ、アクセスできない状況となっております。
運用サーバの故障が原因とみられており、今のところ、復旧の見込みは立っておりません。
読者のみなさまにはご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解いただくようよろしくお願い申し上げます。
2011年9月1日
加藤和彦 著者プロフィール
(かとう かずひこ)
工学博士
独立行政法人産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター 主任研究員
1966年 北海道帯広市生まれ
1988年3月 筑波大学第三学群基礎工学類(変換工学専攻)を卒業
1990年3月 同大学院理工学研究科(修士課程)を修了
1990年4月 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)に入所
通商産業省工業技術院ニューサンシャイン計画推進本部(再生可能エネルギー担当)併任、新エネルギー・産業技術総合開発機構太陽・風力技術開発室(主任研究員)出向などを経て、現職。
目次
はじめに
第1章 太陽光発電システムのメンテナンスの実態
1–1 分析対象とした太陽光発電システムの属性
1–2 太陽電池モジュール・パワーコンディショナのトラブル履歴
1–3 太陽電池モジュール交換までの太陽光発電システムの性能の推移
第2章 不具合点検に必要な太陽光発電システムの知識
2–1 太陽光発電システムの構成と主な構成機器
2–1–1 太陽電池モジュール
2–1–2 太陽電池アレイ
2–2 太陽光発電システムの性能評価
─「期待発電量」と「年乖離度」
第3章 住宅用太陽光発電システムの現地調査事例
3–1 現地調査にもちいた主な測定機器
3–1–1 電流─電圧特性曲線測定装置
3–1–2 赤外線カメラ
3–1–3 配線路探査器
3–2 現地調査事例(1)
─クラスタ内通電不良(埼玉県川越市)
3–3 現地調査事例(2)
─クラスタ内通電不良(茨城県日立市)
3–4 現地調査事例(3)
─ストリング断線(群馬県太田市)
3–5 現地調査事例(4)
─バイパス・ダイオード故障(神奈川県横浜市)
3–6 現地調査事例(5)
─インターコネクタのはんだ接続不良(栃木県真岡市)
3–7 現地調査事例(6)
─クラスタ内通電不良(埼玉県狭山市)
3–8 現地調査事例(7)
─リコールモジュールの回収忘れ(愛知県日進市)
3–9 現地調査事例(8)
─産総研メガ・ソーラタウン
おわりに
はじめに
わたしが太陽光発電システムの運用・保守の問題に取り組むきっかけとなったのは、埼玉に住むあるおばあさんとの出会いでした。
そのおばあさんは、わたしが出会う1年ほど前にご自身の太陽光発電システムの不調に気づき、太陽電池メーカや施工業者、電力会社などに幾度も問い合わせたそうなのですが、何の具体的な解決策も示してもらえず、途方に暮れておられました。一度も点検に来ない施工業者からFAXでパワーコンディショナの取り換え費用の見積書(36万円!)が送られてきたそうですが、それで問題が解決するのかについても明確な回答がなかったそうです。
そのころ、わたしには太陽光発電システムの性能を現地で調べるための装備などほとんどありませんでしたが、とりあえず屋根に上がるための梯子と簡単な計測器だけを用意して、おばあさん宅を訪問しました。そして、数時間を要した屋根の上での作業でわかった不具合の原因は、パワーコンディショナの故障や不具合などではなく、太陽電池モジュール同士のケーブル接続がはずれていただけのことでした。
このような簡単な不具合なのにもかかわらず、太陽電池メーカや施工業者はきちんと点検に来ることもせずにパワーコンディショナの交換を勧め、また、自分自身もそれを即座に発見することができなかったという現実を目の当たりにして、わたし自身がそれまで信じていた「太陽光発電はメンテナンス・フリー」という謳い文句に大きな疑問をもったのです。また、それと同時に「太陽光発電システムの不具合に困っていたり、あるいは、故障や不具合が起きていることに気づかずにいる方がこのおばあさん以外にもまだおられるのではないか」とも想像しました。
太陽光発電システムの基本的な仕組みは、「太陽電池モジュール(パネル)」が太陽エネルギーから直流電力を発生させ、それを「パワーコンディショナ」が交流電力に変換するというものです。パワーコンディショナは通常ユーザの目の届くところに設置されていますので、その故障や不具合に気づきやすいでしょう。一方、太陽電池モジュールはユーザにはみえない屋根の上に設置されており、過酷な屋外環境下で長期間機能することを期待されています。また、これには可動部がありませんので運転時に音がすることもありません。そして、発電電力は設置姿勢や周辺環境、日射状況などによって時々刻々と変動しますので、故障や不具合に気づくことがたいへんむずかしい機器なのです。
さらに、太陽光発電システムの普及の現場では、「メンテナンス・フリー」が一般常識化しつつあり、太陽光発電システムを売る側も買う側もその保守については鈍感になっています。現状では住宅用太陽光発電システムを販売・施工した側に法的な保守点検の義務はありませんし、また、必要十分な保守点検方法も確立していませんので、なおさら太陽光発電システムの故障・不具合、あるいは長期的な性能の問題が潜行してしまっています。
そこで、わたしは4年ほど前から「PVRessQ!」という活動を進めています。これは「太陽光発電システム(PV)に、信頼できて(Reliable)、安全で(Safe)、持続可能な(Sustainable)品質(Quality)をもたせたい(!)」という願いを込めたもので、具体的な活動内容は、現地調査による太陽光発電システムの故障・不具合の実態把握とそれにもとづく実用的な現地での不具合点検方法の考案です。いまのところ、このPVRessQ!は国家プロジェクトでもなく組織的な研究活動でもありません。わたしと所外の何人かの有志によって、細々と行っているものですが、少しでも多くの方にこの問題の重要性を理解していただき、活動の輪を広げ、いつか太陽光発電システムを長期間にわたって安心して利用していくための保守点検技術(ハードウェア)とその社会制度(ソフトウェア)を実現したいと願っています。それが実現できた時、この活動は「PVRescue!(PVレスキュ-)」となることでしょう。
本書は、これまでのPVRessQ!活動の中間報告あるいは現地調査事例集のようなもので、きちんとした結論のようなものは何もありません。
第1章では、非営利特定法人「太陽光発電所ネットワーク」の協力により収集した全国約500台の住宅用太陽光発電システムのトラブル履歴と発電実績データの推移を整理・分析した結果を紹介しています。すでに国内に50万台以上の太陽光発電システムが設置されているといわれる中で、たかだか500台分についての話ですが、運転開始からの発電量やトラブルを根気よく記録しているユーザは少なく、かつ、それを全国大で系統的に整理された例はほとんどありません。その意味では、太陽光発電システムの運用・保守の問題を考えるための「入口」として見逃せない事実が形となって現れています。
また、第3章には、PVRessQ!がこれまでに実施してきた住宅用太陽光発電システムの現地調査からある程度満足のいく仕事ができたいくつかの事例が紹介されています。どの現地調査も限られた時間とままならない天候・作業環境のもとで行った調査結果ですが、何種類かの故障・不具合の実例とそれをどのようにみつけたのかがわかることでしょう。
そして、第3章の調査事例の内容をある程度理解するために必要な太陽光発電システムに関する基礎的な説明を第2章に配置しています。この章では、難解な理論的記述は大胆に省き、あえて多少の誤解を恐れずに太陽光発電システムの仕組みを概念的・模式的に説明しようと試みています。なぜなら、太陽光発電システムの理論的知識だけでは、現地での調査・測定で得られるデータの解釈に不十分な場合があることをわたし自身が体験したからです。
どのような方々が本書を手にされるのかわかりませんが、本書が太陽光発電システムの運用・保守の問題について考える一つのきっかけになってほしいと身勝手に願っています。
2010年4月
加藤和彦












