買い物かごへ

カオス・フラクタル感性情報工学

定価(税込)  3,240円

著者
サイズ A5判
ページ数 264頁
ISBNコード 978-4-526-06481-4
コード C3034
発行月 2010年06月
ジャンル コンピュータ・情報

内容

感性情報工学の基礎となるカオス・フラクタル理論と、その理論に基づいた感性計測の基礎と応用について解説する。ヒトの感性を客観的に定量的に計測する手法の紹介を通じて、その背景にあるカオス・フラクタル理論を系統的に述べ、感性を付加価値とした製品開発に対する基盤技術を紹介する。

中川匡弘  著者プロフィール

(なかがわ まさひろ)
1980年3月 長岡技術科学大学 電気・電子システム工学課程 卒業
1982年3月 長岡技術科学大学 電子機器工学専攻 修了
1982年4月 長岡技術科学大学 工学部 助手
1988年2月 工学博士(名古屋大学)
1988年3月~1989年1月 文部科学省甲種在外研究員(Strathclyde Univ.数学科、連合王国)
1989年4月 長岡技術科学大学 工学部 電気系 助教授
2001年6月 長岡技術科学大学 工学部 電気系 教授
2005年4月 長岡技術科学大学 情報処理センター長

目次

第1章 カオス・フラクタルの基礎
1.1 カオスの基礎
1.1.1 Logistic写像
1.1.2 Lyapunov指数
1.1.3 多次元非線形におけるリアプノフスペクトラム
1.2 フラクタル
1.2.1 Hausdorff空間とAffine写像
1.2.2 縮小写像とCollage定理
1.2.3 フラクタル性とHausdorff次元
1.2.4 Kolmogorov次元
1.2.5 相関次元(Correlation dimension)
1.2.6 マルチフラクタル
1.3 フラクショナル微積分
1.3.1 整数階微積分の一般化
1.3.2 フラクショナル微分方程式
1.3.3 フラクショナルブラウン運動(fractional Brownian motion:fBm)
1.4 カオスとフラクタルの関係
1.4.1 リアプノフスペクトルの性質
1.4.2 Kaplan-Yorkeの定理とLyapunov次元

第2章 脳波におけるカオスとフラクタル性
2.1 解析方法
2.1.1 アトラクタの再構成
2.2 周波数分解
2.2.1 相関次元解析
2.2.2 Lyapunov解析
2.3 マルチフラクタル解析
2.4 測定方法
2.5 解析結果
2.5.1 周波数分解の解析結果
2.5.2 マルチフラクタル性
2.6 考察 

第3章 肌構造とフラクタル
3.1 フラクタル次元推定手法
3.1.1 標準偏差を用いたbox-counting法  
3.1.2 推定精度の検証
3.2 肌情報について
3.2.1 測定部位と取得方法
3.2.2 デジタルカメラによる肌画像
3.2.3 レーザー光計測による肌表面の起伏値
3.2.4 肌情報の主観評価
3.3 肌のフラクタル解析
3.3.1 肌のスケーリング特性
3.3.2 肌のフラクタル次元分布
3.3.3 主観評価値とフラクタル次元値の関係
3.3.4 年齢とフラクタル次元値の関係
3.3.5 肌の色成分とフラクタル次元値の関係
3.3.6 従来法との比較

第4章 カオスリカレントニューラルネット
4.1 カオスリカレントニューラルネットワーク
4.1.1 モデルの定式化
4.1.2 ニューラルネットワークモデル
4.1.3 学習方法
4.2 シミュレーション
4.2.1 予測対象
4.2.2 ネットワークの出力ニューロン数の決定
4.2.3 誤差の評価
4.2.4 シミュレーション条件
4.2.5 シミュレーション結果
4.3 時系列のカオス検定
4.3.1 カオス時系列とランダムフラクタル時系列における順逆方向の予測能力の差異について
4.3.2 シミュレーション条件
4.3.3 シミュレーション結果
4.3.4 積雪量に対するカオス検定

第5章 カオス・フラクタルバイオアッセイ
5.1 魚の運動軌跡抽出
5.1.1 動画像からの魚の位置の抽出  
5.1.2 抽出した魚の位置3次元空間への再編成
5.2 カオス・フラクタル解析
5.2.1 Lyapunov解析
5.2.2 ニューラルネットワークによる非線形予測
5.2.3 臨界指数法
5.2.4 3次元空間における容量次元解析法
5.3 測定環境および測定方法
5.3.1 測定環境
5.3.2 測定方法
5.4 解析結果
5.4.1 Lyapunov解析結果
5.4.2 RNNによる非線形予測結果
5.4.3 フラクタル次元解析結果
5.4.4 環境負荷濃度依存特性

第6章 フラクタル感性解析─感性フラクタル次元解析法─
6.1 感性スペクトル解析法
6.2 感性フラクタル次元解析法
6.2.1 フラクタル次元解析法
6.2.2 感性フラクタル次元解析法
6.3 性能比較実験
6.3.1 実験条件
6.3.2 リファレンス信号に対する学習性能比較
6.3.3 評価用信号に対する認識性能比較
6.4 電極数の削減と電極配置
6.5 感情以外のタスク認識

第7章 視覚と感性
7.1 感性情報工学
7.1.1 脳機能計測・BCI技術
7.1.2 研究目的
7.2 フラクタル感性計測手法
7.3 想起と高次感性計測
7.3.1 測定条件  
7.3.2 フラクタル感性解析結果
7.3.3 高次感性計測のまとめ
7.4 視覚と感性
7.4.1 測定環境  
7.4.2 評価画像
7.4.3 第1次視覚野の活性
7.4.4 想起・視覚情報のフラクタル次元解析

第8章 触角と感性
8.1 フラクタル次元解析
8.1.1 フラクタル次元推定法
8.1.2 感性フラクタル次元解析手法
8.2 試験内容
8.3 測定条件
8.3.1 着衣時の感性の再現実験  
8.3.2 着衣時の感性解析試験
8.3.3 衣服と学習効果の検討
8.4 解析結果
8.4.1 着衣時の感性再現実験結果
8.4.2 着衣時の感性解析結果
8.4.3 衣服と学習効果の検討

第9章 高次感性計測とBCI
9.1高次感性の計測
9.1.1 解析方法  
9.1.2 解析条件
9.1.3 測定条件
9.1.4 解析結果
9.1.5 まとめ
9.2 ブレインコンピュータインターフェースへの適用
9.2.1 解析方法
9.2.2 測定手順
9.2.3 解析結果
9.2.4 まとめ

第10章 脳直結型ロボット制御
10.1 ヒューマノイドロボットの脳直結型制御
10.1.1 脳波測定方法とロボット制御システム概要
10.1.2 脳波解析方法
10.2 Lyapunov解析によるカオス検定
10.2.1 Jacobi行列の推定によるLyapunov解析手法
10.2.2 埋め込み次元の決定方法
10.3 測定条件
10.3.1 脳波測定
10.3.2 近赤外線分光法
10.4 実験内容
10.4.1 測定手順(EEG)
10.4.2 解析条件(EEG)
10.4.3 測定手順(NIRS)
10.4.4 解析条件(NIRS)
10.5 結 果
10.5.1 解析結果(EEG)
10.5.2 解析結果(NIRS)

第11章 光感性計測
11.1 感性近赤外線光解析法
11.2 新規提案手法による感情の認識実験
11.2.1 実験条件
11.2.2 実験手順
11.2.3 実験結果
11.3 従来手法との比較
11.4 意思伝達システムとしてのENIASの可能性

索引

はじめに

 産業革命以来、人類を取り巻く科学技術の進歩により高度な物質開発システムを生産し、その結果大量生産大量消費型産業社会が創出され、多くの人々がその技術革新の恩恵に浴してきた。しかしながら、直面するエネルギー・環境問題の克服とともに、成熟した安全・安心・快適な持続型社会を実現するため、“脳機能ダイナミズムの解明(自然科学)”と“感性豊かで快適な持続可能社会(人文社会科学)”の有機的融合技術の創造は、21世紀の科学者が取り組むべき重要な異分野融合型研究課題のひとつである。さらに、ここ十年来、感性と工学における創造性の密接な関係が注目され、独創力を醸成する工学教育の実現に向けて、有識者の間で熱心に論じられるようになった。

 すなわち、豊かな感性に根差した統合力を育んだ実践的技術研究者の育成が、21世紀を支える創造的技術フロンティアの開拓にとって極めて重要で不可欠であり、感覚的認識力を研鑽する大学教育が渇望されている。しかしながら、豊かな感性を刺激する工業製品を創出するための基盤技術確立に関しては、まだまだ船出の途についたばかりであり、グローバル化に埋没しない新規付加価値を創製するために産業社会から渇望されているにもかかわらず、まだまだ萌芽的段階にあるのが実情である。

 一方、自然や生体に見られる複雑系の理解に向けられたカオス・フラクタル理論は、気象学者Lorenzや計算数学者Mandelbrot等の多くの先駆者による萌芽以来、非線形物理学のみならず、物性、生命、地球環境に至る学際的な分野において約30余年にわたり、国内外で多くの先駆的な研究者により精力的に研究されており、基礎科学や実践的工学の分野で多くの技術を具現化し結実してきた。特に、生体現象に係る複雑性をカオス・フラクタル理論でとらえることにより特徴量を抽出し、計測や制御に適用することは、ブレインマシンインターフェースや未来のアフェクティブインターフェースとして注目されており、ロボット制御のみならず医用・介護・福祉に対する基盤技術としても非常に興味深い先端的研究課題である。

 また、最近の生体計測機器の技術革新に伴い、より高精度に、より簡便に生体情報が計測可能となり、このような生体の持つ高度・高次機能に学び、それを工学的に模倣・具現化するバイオミメティクス、バイオメカトロニクス等々に関連した融合分野へのチャレンジも21世紀を担う研究者に課された重要な研究課題である。しかしながら、この該博な融合分野にわたる工学的なアプローチを実践的観点から論じた書物は、甚だ残念ながらすこぶる稀少であるのが現状である。

 上述のような観点から、第1章ではカオス・フラクタル理論の基礎を述べ、本書の前半(第2章から第5章)では、カオス・フラクタル理論を基軸とし、情報数理工学への具体的適用事例を紹介するとともに、そのような実用化に至る基礎的な基盤研究の基軸について、実践的技術・研究者の立場から講じる。また、第6章からは、生体信号、特に脳波と近赤外分光計測信号をカオス・フラクタル解析することにより、ヒトの感性を客観的に定量的に計測する新規手法の紹介を通じて、その背景にあるカオス・フラクタル理論を系統的に講述し、感性を付加価値とした製品開発に対する基盤技術を紹介することを目的とする。

 上述の趣旨で、本書前編においては、まずフラクタル理論の基礎として、工学的な観点から実用性の高い定量化手法である臨界指数法やフラクショナル微積分を用いた最尤推定法を述べる。次に、具体的な応用として、音声、脳波や肌構造の生体情報に見られるカオス・フラクタルの性質について、その工学的応用例を紹介し、それぞれの基礎技術について述べる。さらに、学習(階層型)や予測(リカレント型)ニューラルネットを紹介し、学習性能やカオス時系列の予測性能を論じる。次いで、後編では、生体における複雑性に関連して、音声や脳波・ヘモダイナミクスに見られる複雑性を定量化し、工学的に論じた。

 具体的には、脳波や近赤外分光計測により得られる生体信号の有するフラクタル的時空間特性に注目した新規感性情報計測手法を提案し、フラクタル次元という普遍的な尺度で脳の活性動態や感性の遷移を計測する技術を紹介する。すなわち、感性を、感覚を通じて受容される五感情報の感覚的認識力として位置づけ、五感と感性について工学的観点から幾つかの具体例を取り上げ紹介する。さらに、喜怒哀楽といった感情(浅い感性)にとどまらず、ストレスや軽快感、清涼感、安心感といった高次感性(深い感性)を計測する研究成果とその基盤となる学術的な理論的背景について記述する。また、このような感性情報計測技術は、“性能”、“価格”、“品質”に次ぐ、第4の価値とパラダイムをもたらし、“感性価値”という新しい価値を創成し、グローバル化に埋没しない日本発の新技術誕生に資することが期待されている。

 また、本書の読者層としては、理工学部の学部および大学院生や研究者を想定しているが、構成に関しては、カオス・フラクタルの基礎から感性情報工学の先端的研究に至るまでを平易に解説することにより、研究者が実践の場で活用できるように、できる限り系統的な章構成とすると同時に、それぞれの章で可能な限りSelf-containedとなるように努めた。本書が微力ではあるが、カオス・フラクタルを学ぶ学生諸君や感性情報工学の研究の発展の一助となれば、著者のこの上ない喜びとするところである。

 最後に、本書の出版に際して、遅々として進まない入稿作業に深いご理解を賜り、また推敲作業に労を取られた日刊工業新聞出版局書籍編集部の木村文香氏をはじめ関係スタッフの方々をはじめ、本稿の準備に際してこの上ないご尽力を賜った関係各位並びに家族にこの場を借りて厚く御礼申し述べ、心より深謝するとともに、持続可能で安心・安全・快適な21世紀の実現を祈念して巻頭言とする。

平成22年5月21日 中川匡弘

買い物かごへ