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情報理工学
―東大研究者が描く未来―

定価(税込)  2,592円

著者
協力
サイズ A5判
ページ数 272頁
ISBNコード 978-4-526-06469-2
コード C3034
発行月 2010年05月
ジャンル コンピュータ・情報

内容

東大情報理工学系研究科は、情報理工学の基礎から応用まで幅広い分野の研究を融合させて、未来の情報科学技術を確立することを目指している。本書は、同研究科の最先端の研究をその背景とともにレポートし、情報理工学および情報理工学系研究科の今を伝える。

萩尾好紀  著者プロフィール

(はぎお よしのり)
1965年、日刊工業新聞社に入社。半導体・エレクトロニクスを中心に、科学技術に関する広範な分野の取材、編集業務に携わる。科学技術部長、編集局次長、産業研究所長を歴任。退職後、理化学研究所の「理研精神88年」をはじめ、多数の協会、企業史の執筆、編纂などに従事。

インタビュー写真撮影:宮澤一二三

目次

はじめに

第1章 より速く

浅見  徹 ユビキタスの扉を開く「考えるネットワーク」
江崎  浩 『東大版グリーンIT革命』を推進
川原 圭博 紙にコンピュータを埋め込み、インテリジェントに
稲葉 真理 超長距離ネットを駆使、データ転送記録を次々更新
平木  敬 速さにこだわり人間と勝負できる人工知能をつくる
石川  裕 ぺタフロップス級の超高速スパコン時代を開く
坂井 修一 情報ディペンダビリティで産業を変える
五島 正裕 コンピュータ・アーキテクチャで『世界標準』を
田浦健次朗 コンピュータをつないで
並列処理を誰でも使えるものに
中村  宏 次世代システムのコア技術“超低電力化”に挑む


第2章 言語を操る

米澤 明憲 並列オブジェクト指向技術を提唱し
高度な情報化社会を導く
武市 正人 独自のPOP視点で次世代プログラム手法を確立へ
笹田 耕一 あした役に立ち、10年後に役立つソフトウェアを
須田 礼仁 HPCの「超低消費電力化」
自動チューニング技術で実現
今井  浩 デジタルから量子へ
―光の粒1個を操る通信技術確立
石塚  満 意味計算の基盤をつくり
“日本発”次世代Webに挑戦
田中久美子 ことばを測り、ことばのナゾに迫る


第3章 モデルの美しさ

室田 一雄 最適化問題で連続と離散をつなぐ新パラダイム
牧野 和久 『列挙問題』って、意外に身近なテーマなんです
寒野 善博 モノの本質を見据え、未知の世界に没頭
竹村 彰通 『計算代数統計』手法を使って、
数学に新たなブレークスルーを
駒木 文保 統計科学の世界に独自の予測理論を注入
杉原 正顯 未来社会を開く基幹技術「数値計算」を
広範な分野に活用
松尾 宇泰 物理現象をとらえた日本発の数値計算法構築を急ぐ
山西 健司 基礎理論と実践的応用が共振する
「学習数理情報学」の確立へ
鹿島 久嗣 あすを予測するモデリング技術にフォーカス


第4章 システムをデザイン

石川 正俊 目標は人間を超える知能システムの実現
小室  孝 “目”をもつ情報端末で生活スタイルを変革
嵯峨山茂樹 音楽の中に隠された音を探り出し、
音曲の世界を拓く
小野 順貴 音源分離を活かし、
混ざった音の中からほしい音だけ取り出す
安藤  繁 計測の歴史を美しい『数学モデル』で変える
篠田 裕之 電力や信号の伝送に第3の方式
原  辰次 「制御理論」×「バスケットボール」
津村 幸治 制御は“動きをデザインする科学”


第5章 人とメディア

廣瀬 通孝 バーチャルとリアルの融合による
新しい“知の世界”の創造
谷川 智洋 『ミクストリアリティ』で過去、現在、未来をつなぐ
山崎 俊彦 独自のデータ加工技術で驚きの3次元映像を演出
苗村  健 情報メディア技術で心を豊かにする文化を
五十嵐健夫 “逆転の発想”で映像も色彩も自由自在に
広瀬 啓吉 人並みにしゃべるロボット誕生に20%の壁
峯松 信明 独自のパラダイムで人に役立つ音声技術を


第6章 知能をつくる

稲葉 雅幸 大学の知でロボットの未来図を描く
岡田  慧 ロボットが人と一緒にコップを洗う日
國吉 康夫 新しい科学「ロボティック・サイエンス」を提唱
原田 達也 ニュース性を判断し、記事を書く
「ジャーナリストロボット」
高野  渉 言語を理解して行動する知能ロボット
中村 仁彦 格闘技のなかにコミュニケーションの知能を探る
佐藤 知正 24時間・不眠不休の環境型ロボットを提案
森  武俊 人の支援をしっかり行う『機械としてのロボット』
下山  勲 「センサー」がロボットの成否を決める


第7章 脳と生体

萩谷 昌己 分子の世界を情報技術で読み解く
増田 直紀 脳の情報処理の仕組みを数理的手法で解明
細谷 晴夫 脳のナゾを数理モデル(情報科学)で解く
満渕 邦彦 生体系と機械系の橋渡しに「神経」を使う
鈴木 隆文 神経インタフェースによる次世代医療を目指す
土肥 健純 『コンピュータ外科』で障害者に救いの手
正宗  賢 先端技術と発想力で医師の“目”と“手”を創る


第8章 情報理工学の未来

情報理工学系研究科の役割は、
「IT」と「IXT」に関する教育と研究

コンピュータ科学専攻
情報科学技術の未来を創造する

数理情報学専攻
分野横断的な共通の数理技術・方法論を研究

システム情報学専攻
実世界を正しく認識し、望みの機能を実現

電子情報学専攻
人と計算機、ネットワーク、メディアをつなぐ

知能機械情報学専攻
情報に形を与え、ロボットに命を吹き込む

創造情報学専攻
“社会のあすを変える”研究と起業人材の育成

あとがき 270


※2010年4月1日現在、取材できた専任教員57名を紹介しました。

はじめに

未来社会は、情報理工学に託されている

 20世紀が産声を上げた年に、この世紀に実現すると予想される科学技術について、大胆な“未来予測”が出されました。20世紀のスタートの年、1901年といえば明治34年のこと。日本が近代国家への道を探っていたころで、この時期に、通信・電話、交通、医療など、100年の日本の姿を予測したのですから、とても驚きです。

 携帯電話による国際電話やTV電話、エアコン、クルマなどは予想どおり実現しています。現代を生きる私たちの社会、生活を的中させたことは見事というほかありません。便利さや豊かさを求める人類の夢が実現へと駆り立てる原動力になったと言っても過言ではないと思いますが、10年先、20年先の社会がどのような姿になるのかを読むことすらなかなかできないのに、100年後の社会を見通したのは、まさに慧眼と言えます。

 では、21世紀を生きる私たちは、30年後、50年後、さらには100年後の日本を想像できるでしょうか。そのヒントが本書の中に散りばめられています。

 20世紀は「スピードの時代」でした。その象徴がコンピュータです。CPUのデザインルールを微細化するたびに高速・高性能化されたコンピュータが、私たちが知りえなかったライフサイエンスやナノテクノロジー、地球環境など巨大科学のナゾを解き明かし、未踏の科学の扉を開いて、産業構造さえも変革しました。このコンピュータとインターネットをはじめとする情報通信技術がこれほどの大変革をもたらすことなど、誰が予想できたでしょう。その革新のスピードは、いまも衰えていません。むしろ加速する方向にあります。21世紀で起きる、人と人のコミュニケーション、政治・経済・社会のあり方、環境・エネルギー・医療の姿などを予測するのは、とてもできるものではありませんが、そのような時代は唐突に訪れるのではなく、いまの科学技術のどこかにその手掛かりが潜んでいると思うのです。

 情報理工学は、これまでの物理、化学に優るとも劣らない学問分野と位置づけられ、未来社会の実現が情報理工学に託されています。東京大学情報理工学系研究科には、コンピュータ科学、数理情報学、システム情報学、電子情報学、知能機械情報学、創造情報学の6専攻があります。本書では、『情報』をキーワードに、コンピュータやネットワークがより速くなる世界、ソフトウェアや言語が導きだす世界、数理科学が目指すブレークスルー、人間を超える知能、リアルとバーチャルが融合してつくり出されるメディア・映像の世界、生体と情報学との連携などを通して、近未来の姿を浮き彫りにすることを目的にしました。

 社会の新しい仕組みや産業を創造する主役は、大学の知であることは言うまでもありません。これまでの学問は、証拠を1つひとつ積み上げることによって蓄積した膨大な知識が発展を促しました。その結果、未知の現象が解明され、そこで得られた貴重な知識が新しい学問を育て、科学の発見に結びつきました。この手法が21世紀の学問や科学の進歩を担うのはまちがいありませんが、もうひとつ、別のアプローチが必要とされています。それは証拠の積み上げではなく、新しい価値を創造する、あるいは、価値をデザインすることによって新規の学問や科学を拓く手法です。まず何をつくるか、どういう価値を産み出そうとするのか。そこにフォーカスした新しい発想です。時代の変化は劇的です。その変化に即した社会は、この2つの手法が両輪となって創造することになるでしょう。

 21世紀の研究者に求められるのは、与えられた問題を解くだけではなく、問題そのものを提起していく力であり、未来社会の潮流を読み、未来社会を生み出す力とされています。
 「私が変える、世界を変える」―。これは、大学の研究者の最大のモチベーションです。本書は、東京大学情報理工学系研究科の研究者が、「世界を変える」という気概のもとでどのような未来を描き、豊かな社会をつくり上げようとしているのかを探った、情報フロンティアの最前線リポートです。

 さあ、ページをめくってください。情報理工の研究者の熱い想いを感じてくだされば、望外の喜びであります。

2010年5月27日
萩尾好紀 

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