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実例でよくわかる!
サービス産業生産性向上入門

定価(税込)  2,376円

著者
サイズ A5判
ページ数 192頁
ISBNコード 978-4-526-06458-6
コード C3034
発行月 2010年04月
ジャンル 経営

内容

日本のサービス産業は、製造業に比べその生産性が著しく低く、科学的な効率化を施すことが重要課題となっている。本書では、先進的な取り組みで飛躍的に生産性を向上させているサービス産業の実例を数多く取り上げ、サービスの生産性向上の方法論を具体的にわかりやすく解説。すぐにでも業務に活かせる形としている。

内藤 耕  著者プロフィール

(ないとう こう)
工学博士、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センター次長。金属鉱業事業団(現在の石油天然ガス鉱物資源機構)、世界銀行グループ(ワシントンDC)を経て現職。これまでの主な著書は、『「産業科学技術」の哲学』(共著、東京大学出版会)、『入門!システム思考』(共著、講談社現代新書)、『サービス工学入門』(編著、東京大学出版会)、『江戸・キューバに学ぶ"真"の持続型社会:資源制約を環境サービスで乗り越えろ!』(共著、日刊工業新聞社)、『サービス産業進化論』(共著、生産性出版)など。

目次

は じ め に

CHAPTER1 生産性向上に向けて:サービス産業を取り巻く環境
1.1 サービスとは
1.2 サービス生産性:新たな価値創造が重要
1.3 サービス産業の生産性向上は二律背反ではない
1.4 科学的・工学的アプローチの確立
1.5 サービス産業生産性向上の必要性

CHAPTER2 基礎編:顧客への適応とその仕組み化の方法論
2.0 サービス産業生産性向上やイノベーションの方法論とは
2.1-1 現場の理解ー接客、会話
2.1-2 現場の理解ー気づき
2.1-3 現場の理解ーカメラシステム
2.1-4 現場の理解ー顧客行動計測
2.1-5 現場の理解ーアンケート等
2.1-6 現場の理解ー従業員行動計測
2.2-1 業務の改善ースタッフ提案等
2.2-2 業務の改善ー整理・整頓
2.2-3 業務の改善ームリ排除
2.2-4 業務の改善ームダ排除
2.2-5 業務の改善ームラ排除
2.2-6 業務の改善ー現場実験
2.2-7 業務の改善ー評価・検証
2.3-1 連携と協力ー定例会議、メモ
2.3-2 連携と協力ー電話、インカムシステム、情報システム
2.3-3 連携と協力ー多能工化、チームワーク
2.4-1 価値の再評価ー新しいコンセプト
2.4-2 価値の再評価ー理念明確化
2.5-1 プロセスの組み替えー手順化
2.5-2 プロセスの組み替えー施設レイアウト
2.5-3 プロセスの組み替えー物流
2.5-4 プロセスの組み替えー作業平準化
2.5-5 プロセスの組み替えーノウハウ提供
2.5-6 プロセスの組み替えースキル研修

CHAPTER3 応用編:サービス産業生産性向上の方法論
3.1 現場作業の見直しでサービス品質の向上
3.2 価値の再評価で顧客ターゲットの明確化
3.3 作業手順化で顧客満足の向上

CHAPTER4 実例実践編:42のサービスイノベーション
4.1  加賀屋
客室係が接客に専念できる仕組み
4.2  一の湯
必要なサービスを効率的に提供できる工夫
4.3  湯元舘
お客様目線で考えサービス提供の改善活動の促進
4.4  湯主一條
ターゲット客層を絞り、サービス内容をそこに適合
4.5  阿寒グランドホテル
情報共有を進めることでサービスレベルを平準化
4.6  スーパーホテル
顧客ターゲットを明確化してサービス提供の効率化
4.7  ザ・リッツ・カールトン大阪
理念と行動指針による高品質サービスの提供
4.8  高山グリーンホテル
客層毎に特化して、サービスを効率的に提供
4.9  熱川プリンスホテル
作業効率の向上とサービスのムラを解消
4.10 ホテル風早
サービスのハイブリッド化で経営の基盤を強化
4.11 がんこフードサービス
機械化・情報化・手順化で従業員による付加価値業務への専念
4.12 無添くら寿司
経験豊かな職人がいなくても効率的店舗運営
4.13 大戸屋
技術の積極的導入でフードサービス産業の革新
4.14 ダイヤモンドダイニング
会社全体の作業量を平準化できる工夫
4.15 海鮮レストラン「賀露幸」
製造業の視点から改善して作業効率の向上
4.16 大丸札幌店
販売員が販売や接客に専念できる仕組みの構築
4.17 ハニーズ
タウンウォッチと物流センターで多店舗展開
4.18 バーニーズ ジャパン
接客技術をもつ従業員のキャリアパスの明確化
4.19 ヤオコー
食生活提案型スーパーを目指し、従業員起点で改善
4.20 ハローデイ
従業員が自ら考えて改善する仕組みを構築
4.21 オギノ
FSPを活用して効率的な店舗運営
4.22 サミット
独自に開発したシステムで効率化を追求
4.23 スーパーまるまつ
購売履歴の分析で高い発注精度を維持
4.24 とち亀物産
個別顧客に商品提供できる流通システムの確立
4.25 清川屋
継続して購入してもらうリピーターを増やす仕組み
4.26 アイディーズ
購買履歴データの分析からアクションを起す仕組み
4.27 イーグルバス
CS推進室を設置してサービス品質の改善
4.28 トワード物流
独自のシステム開発で効率化とCS向上を実現
4.29 えちぜん鉄道
全ての従業員が顧客接点を担って乗客数が増加
4.30 スパリゾートハワイアンズ
サービスレベルの平準化でリピート客の増加
4.31 恵寿総合病院
退院後も一人ひとりに最適なサービスを提供
4.32 相澤病院
開業医や診療所と連携して紹介患者数増加
4.33 いでした内科・神経内科クリニック
最小限の労力で最大限の成果を得る仕組み
4.34 川越胃腸病院
患者視点で医療サービスを提供できる仕組み
4.35 メッセージ
情報収集を丁寧に行うことでサービスの質向上
4.36 マミーズファミリー
理念を実現できる仕組みとシステム
4.37 オオクシ
来店客をリピート客に転換していくための仕組み
4.38 アンジュ
顧客の求めていることを深く理解できる人材育成
4.39 喜久屋
年間を通じた作業の平準化を行うための仕組み
4.40 WASHハウス
これまでなかった需要を掘り起こして新市場創造
4.41 ネットオフ
トヨタ生産方式を導入して倉庫内物流を効率化
4.42 ヘイプ
作業方法を標準化して多店舗展開


おわりに

はじめに

は じ め に
サービス産業の生産性を向上させるために、そこに科学的・工学的アプローチを導入しようという議論が活発化している。これは、政府が2006年7月に決定した『経済成長戦略大綱』において、わが国の経済活動において重要な役割を果たしてきた製造業とともに、サービス産業のイノベーションの必要性が提唱され、製造業とともにサービス産業がわが国経済の双発の成長エンジンになることの重要性が指摘されたことに端を発している。
一方で、この議論が始まった頃、サービス産業の多くの関係者から、資源投入の効率性と顧客満足の向上は二律背反の関係にあると指摘された。つまり、高い顧客満足を得るには現場のスタッフが顧客を手厚くもてなす必要があり、もしそれをやめれば顧客の満足は減衰してしまう。要は、製造業のような生産性向上の議論は、サービス産業にはなじまないということであった。
サービス産業は、製造業に比べ労働集約的で、多くのパートやアルバイト従業員によって支えられている。そのため従業員の流動性が高く、産業界は多くの雇用や育成に関わる経費を負担している。また、労働環境や処遇においても多くの検討すべき課題があることは否定できない。さらに、当然のように行われている様々なサービス提供の作業が、時として顧客満足につながっていないこともある。流通業や飲食業における在庫や廃棄はその一例でもある。こう見てくると、一見、サービス産業の生産性向上には、二律背反の関係が存在するようにも見えるが、サービス産業の中に多くのムダが存在していることもまた事実なのである。
サービス産業が、日本の経済活動の中で占める割合は約7割であり、雇用の大きな受け皿になっている。中小零細企業も多く、その裾野も広いため、国民の日々の生活を支えていると言っても過言ではない。そして、少子高齢化が進むわが国において、サービス産業の役割はますます重要になっていく。地方部の振興においても、製造業が生産拠点の多くを海外に移転する中、結果としてサービス産業が雇用の大きな機会を提供している。
 このような観点から、サービス産業の生産性向上に取り組んでいくことは非常に重要であるが、課題はそもそもそれが可能なのか、そしてもし可能であるとすればその方法論はどのようなものなのかである。もしその方法論が明らかでなければ、サービス産業の現場で働く従業員や経営者は、何を行えばよいのか迷ってしまう。
公益財団法人日本生産性本部は、産学官の専門家や実務者による情報交換や交流のプラットフォームを形成するとともに、サービス産業界の自主的な生産性向上への取り組みを支援していくために、2007年5月に「サービス産業生産性協議会」を設立した。そして、サービス産業の生産性向上に向けた方法論、人材、スキル、ベストプラクティスの調査と分析、ツールの開発を開始した。さらに2007年12月から、サービス生産性向上に向けて先進的に取り組んでいる企業や団体を「ハイ・サービス日本300選」として表彰し、他のサービス企業や団体の取り組みに影響を及ぼすようにしている。これと並行して、独立行政法人産業技術総合研究所は、サービス産業の生産性向上やイノベーションの科学的・工学的アプローチの確立を目指し、2008年4月にサービス工学研究を集中的に推進する「サービス工学研究センター」を設立した。
サービス産業生産性協議会と産業技術総合研究所サービス工学研究センターが密接に連携し、2008年春頃から現場の事例調査と分析を開始し、これまでできないと考えられてきたサービス産業の生産性向上の科学的・工学的アプローチについて検討してきた。そして、これまでの検討結果を本書で取りまとめたが、重要なメッセージは、しばしば指摘されてきたサービス産業の生産性向上の二律背反は存在せず、顧客満足と資源投入の効率は同時に追求できること、そしてこの追求に科学的・工学的アプローチが非常に有効であるということである。つまり、サービス産業の生産性向上の方法論とは、顧客満足につながる作業に集中するとともに、顧客満足につながらない作業を排除することで、顧客満足と効率の追求が同時にできるということである。さらに、ハイ・サービス日本300選受賞企業・団体を中心に取り組まれている先進的事例を見ると、客観的な根拠に基づいて、再現性のある方法論が導入されていることで、思い付きではなく、また一人ひとりの従業員のスキルや経験に依存せず、継続的に顧客満足が提供できる仕組みがサービスの提供現場に組み込まれていることが明らかになった。本書は、このような視点から執筆され、そして次のような構成になっている。
第1章は、サービス生産性向上に向けた課題についてまとめた。第2章ではサービス産業の生産性向上の方法論を提案し、それに沿って、各企業や団体の取り組みを紹介している。第3章は、生産性向上に取り組んだ結果、得られる効果について取りまとめている。第4章では、企業や団体別に、取り組みを紹介する。そして、全体をとおして、現場で生産性向上に取り組めるよう、可能な限り抽象的な議論を避け、具体的な実例に基づいて執筆し、またイメージが持てるよう多くの写真を掲載するようにした。
サービス産業の生産性向上について、以下のような書籍もある。
 1.経済産業省編集、『サービス産業のイノベーションと生産性向上に向けて』、2007年、経済産業調査会
 2.内藤 耕編著、『サービス工学入門』、2009年、東京大学出版会
 3.サービス産業生産性協議会、『サービス・イノベーション:サービス産業の生産性向上の実現のために』、2009年、生産性出版
 4.内藤 耕、石川英輔、吉田太郎、岸上祐子、枝廣淳子、『江戸・キューバに学ぶ"真"の持続型社会:資源制約を環境サービスで乗り越えろ!』、2009年、日刊工業新聞社
 5.内藤 耕・赤松幹之、『サービス産業進化論』、2009年、生産性出版
政策的背景や産業界が抱える課題、そしてサービス産業生産性協議会の活動については、『サービス産業のイノベーションと生産性向上に向けて』と『サービス・イノベーション:サービス産業の生産性向上の実現のために』が詳しい。また、サービス産業の生産性向上の科学的・工学的アプローチについては、『サービス工学入門』で最先端の研究者達が体系的取りまとめを行っている。『江戸・キューバに学ぶ"真"の持続型社会:資源制約を環境サービスで乗り越えろ!』では、循環型社会の確立に向けて、環境サービス産業の重要性を説き、先進的取り組みを行う企業も紹介している。サービス産業がどのように歴史的に発生して発展してきたかは、『サービス産業進化論』で業種単位にそれらを紹介し、最後に業種を超えたサービス産業の共通性をまとめている。
本書は、とにかくサービス産業の現場で働く人に役立つよう執筆した。一方、科学や工学の研究者にとって、サービスはこれまでに扱ったことのない未踏の領域で、これからサービスを研究開発課題にしようとする研究者にとって、先進的企業や団体の取り組みを理解するのに有用なデータとなるよう配慮もした。多くの人が価値を感じ、サービス産業の生産性向上を通じて、豊かな社会が形成されれば大変にうれしく思う。

 2010年4月

内藤 耕

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