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次世代に伝えたい
原子力重大事件&エピソード

定価(税込)  2,376円

著者
サイズ 四六判
ページ数 248頁
ISBNコード 978-4-526-06433-3
コード C3050
発行月 2010年03月
ジャンル その他

内容

これから原子力に携わろうとする人が、知っておかなければならない重大な事柄をやさしく解説。開発に携わってきたキーパーソン、開発途上に起こった重大事故、技術の活用事例などを取り上げ、原子力技術が今日まで発展するに至った経緯を物語的に活写する。

飯高季雄  著者プロフィール

(いいたか すえお)
1944年生まれ。ジャーナリスト。
1977年、日本原子力産業会議に入り、『原子力産業新聞』、『ニュークレオニクス・ウィーク日本版』編集長など。

目次

はじめに
序章 原子力時代の幕開け―予言者レオ・シラード
核を恐れた最初の科学者/充実した日々/一日違いの幸運/突然のひらめき/押し寄せる軍靴の足音/大統領への直訴状/ウラン委員会の立ち上げ/学会誌から消えた核研究の論文/亡命受け入れに東奔西走/日本への原爆投下に反対/「アルソス」調査団


第一章 科学の壁を切り開いた人たち
シカゴ・パイル―エンリコ・フェルミ
フェルミを救ったノーベル賞/世界初の原子炉/航海者と計算尺

マンハッタン計画の推進者―レズリー・グローブズ
力量を十二分に発揮/同時並行を容認/徹底した情報管理

PWRを作った提督―ハイマン・リコーバー
原点となった潜水艦体験/「潜水艦こそ原子力」の意志継ぐ/濃縮ウランでコンパクト化を実現/一〇倍に伸びた潜水航行時間/世界初のPWR発電所

GEの執念が生んだBWR―アルゴンヌの実証試験で開花
シンプルな原子炉/世界では二割がBWR

原子力発電ブームの火付け役―オイスター・クリーク
米、秘密主義から国際協調へ転換/建設ラッシュの六〇年代後半/仏独、標準化でコストダウン図る

世界最初の原子力砕氷船―レーニン号
北極海方面通商隊の中核/アメリカは貨客船/ドイツは鉱石運搬船


第二章 各国で動き出す原子力平和利用

フランス―栄光のキュリー家に牽引されて
二世代続けてのノーベル賞/核分裂の発見/わが道を行くフランス/ガス冷却炉を選択/自主開発炉か、導入炉か/世界最高の原子力発電シェア

カナダ―資源国で開花した自主開発炉
豊富なウラン資源から独自の道/欧州混成チーム、新天地で結実/息吹き返す重水炉開発/CANDU炉の登場/運転中でも燃料交換

イギリス―頑なまでの保守路線
西側諸国の先陣走る/戦火のがれ、大西洋を越えカナダへ/第三の核保有国/ガス炉に活路見出す/技術の伝承と蓄積で壁

アメリカ―世界のリードオフマン
世界の六割はPWR/前代未聞規模のマンハッタン計画/秘密主義に舵を切ったアメリカ/諜報活動の舞台となったハンフォード/濃縮ウラン使う軽水炉の登場/PWRを後押しした原子力潜水艦/沸騰現象の解明でBWRに光/GE、石炭並みの建設コストで売り込み

ロシア―クルチャトフに行き着く原子力開発
アメリカに対抗し、開発に着手/独自の軽水冷却黒鉛減速炉/黒鉛炉から加圧水型炉へ/厚いベールに包まれた歴史

スウェーデン―未来の実験室の原子力開発
豊富な水力に依存/天然ウラン―重水炉路線を選択/都市型原子炉の草分け/「技術は単純な方がよい」/見直しを良しとする国民性/「技術か民主主義か」


第三章 最初の日本人たち
陸・海軍で開発がスタート―安田武雄と仁科芳雄
陸軍研究所、戦前に開発を委嘱/海軍は核応用委を立ち上げ/民間からも研究開発の動き

国民的な議論の広がりの中で―リードする「学者の国会」
中核となった第四部会/会員の九一%が投票に参画/「自主・民主・公開」を採択/時代を先取りした武谷三男/熱帯びる原子力委員会の設置問題

政財界、原子力推進へ具体策着々―大同団結と初の原子力予算
スガモプリズン/中心に電力経済研究所/民間側、正力委員長の要請で結束/二人の政治家と初の原子力予算/憶測呼んだ「ウラン235」予算/反発する学術会議/内閣に連絡組織

導入炉めぐり侃々諤々―メディア王の執念
「原子力の父」/原子炉導入の立役者/「五年以内に原子炉」で紛糾

湯わかし型原子炉―初の原子の火
「原子炉売ります」/栄光の老兵引退に抗議のスト

国か、民間か―英国炉の事業主体めぐり論争
早期導入へ、正力の熱意/河野―正力論争/「蜂の巣」構造で耐震性を確保

CANDU論争―原子力委VS通産省
外国に振り回される日本の原子力/燃料の多様性に特色

台頭する安全論争―専門家と市民の垣根を越えて
初の導入炉で安全性の意識高まる/飛行機の墜落含め安全解析

二つの村―東海村と六ヶ所村
原子力発祥の地とサイクル基地/列島、原子力ブームに沸く/急転直下の東海村決定/三人に一人は原子力関係者/入植拒む厳しい自然環境/二つの挫折/一躍脚光「むつ小川原開発」/「原子力のメッカに」/青森県に狙い定めた電力業界/電事連の協力要請にいち早く動く


第四章 原子力報道を考える
科学報道の萌芽―未知の領域から科学の領域へ
報道規制で戦後がスタート/原子力との距離感なくした第五福竜丸事件/遠洋漁業の復活/白い降下物/社会部の面々がプラスに作用/世紀のスクープに世界が震撼/すさまじい反響に耐える/七億人が署名した原水爆禁止運動

科学報道を定着させた原子力―全国紙など科学部設置へ動く
科学的ビッグイベントも追い風に/「新聞は世界平和の原子力」/暁の記者会見


第五章 内外の原子力事故から学ぶ
原子力船「むつ」―安全委の創設促す
日本初の原子力船/公開ヒアリング制度の道開く/マスコミを二分した実験航海/朝日と読売、真っ向から主張を展開

スリーマイル島原発事故―一週間で沈静化した情報開示のあり方
アメリカ初の大事故/映画と酷似し混乱を加速/世界の原子力界に波紋

チェルノブイリ事故―ソ連崩壊の引き金に
当初から指摘されていた炉の不安定性/一三万人が緊急避難/ソ連政府、ひたすら沈黙通す/全文二三語、四行の「公式発表」/キエフへの取材もかなわず/一一日目にして初の記者会見/「事故は大団円だった」/各国の原子力政策に影響与える

JCO臨界事故―青い閃光で初の犠牲者
日本の原子力開発史上初の臨界事故/裏マニュアルの存在/最後の工程で臨界事故/中性子はどこから?/臨界阻止へ水抜き作戦/決死隊に手を挙げた社員たち/二律背反の克服求める


第六章 暮らしと直結する放射線利用
放射線と人間―レントゲンの発見から一一五年
診断や医療に革命をもたらしたX線/放射線ホルミシスと人間/放射線利用を凝縮している車

食品照射―世界から飢餓をなくすことができるか
常温で食物の鮮度を保つ新技術/ポスト・ハーベスト・ロス/缶詰に匹敵する食品保存革命

放射線による害虫駆除―ニップリングが生み出した撲滅作戦
沖縄の成功/殺虫剤から放射線利用へ/孤島のキュラソー島が実験場に/絶滅へ、六二〇億匹の不妊化ハエを放飼


参考文献
年表

はじめに

 「戦争の世紀」、「民族自立の世紀」、「革命の世紀」、「災害の世紀」、「宇宙の世紀」……。20世紀をひとくちに言い表すことは難しい。立場立場で、人それぞれで違うからである。私は、それらに、「原子力の世紀」を加えたい。

 この「原子力の世紀」もさまざまな出来事に彩られた。エックス線の発見から始まった放射線利用は、やがて核分裂の発見レースの時代へと突入、科学者たちの知的興奮を極限まで高めることに成功する。その探究心は第二次世界大戦直前でピークを迎え、原子爆弾へと結びついていく。戦後は一転、原子力の平和利用、とりわけ発電利用がスポットを浴び、人びとはその電気の恩恵に浴するようになる。

 本書では、各国の原子力発電導入の歴史に触れている。読者は、その足跡をたどることで、天然ウランを燃料とする原子炉からスタートした各国の原子力開発が、運転実績や技術の進歩、独創的なアイディアなどの導入によって、各国各様の原子力発電国として変貌していったのかを目の当たりにすることができよう。

 世界ではいま、三一か国で約四三〇基の原子炉が運転中だ。その原子力発電は、発電過程で、地球温暖化の元凶となっている二酸化炭素が発生しないことから、原子力発電を導入する国は今後、さらに増えることが確実視されている。

 明るい展望が広がりつつある原子力発電だが、人びとの原子力発電に向ける目はいぜんとして厳しい。それは、原子力先進国と目されてきたアメリカ、ソ連(=当時)という二大超大国で発生した事故が影を落としている。具体的には、スリーマイル島原子力発電所事故と、チェルノブイリ原子力発電所事故である。日本でも、核燃料加工施設ジェー・シー・オー(JCO)で発生した臨界事故では、日本の原子力開発史上初の犠牲者を出している。このようなことから、人びとの原子力への不安感が払拭されるまでにはまだ多くの時間を必要としている。

 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触角と、原子力は、人間の五感では感知できないことも理解が深まらない障壁となっている。日々の生活から社会活動まで、理屈よりも、五感で大半の問題を処理することが多い私たちにとって、五感が役立たない原子力は、摩訶不思議な世界となっている。また、一度聞いただけではとうてい理解できそうもない原子力の単位も、近寄り難い壁を形成している。とどのつまり、原子力の世界とは無機質で、人間のにおいがしない、別次元のことのようにみえる。

 本書はこういった反省の上に立っている。したがって、原子力利用にかかわる原理や科学的な説明はできうる限り排した。人を前面にすえ、かつストーリー性を打ち出すことで、原子力との距離感を少しでも縮めるよう意を配した。このため本書では、原子力黎明期の「事始」に焦点をあてている。当時の人びとの息づかいが聞こえるように、躍動する動きがわかるように試みた。意をくみとっていただければ幸いである。

 なお、本書は通常の本のように、章を順次進むのに従い、展開を深めるという形をとっていない。基本的には、どの章や節から読んでも完結するスタイルをとっている。従って、読者は関心ある項目から自由に読み進めていただきたい。また、ページ上の制約から索引をつけていない。その代わりとして、巻末に時代的背景を立体的に知ることができる「年表」を付けた。出来事や項目から本文箇所を容易に導き出せるように、ページ数も合わせて明示しておいた。

 本書の刊行には多くの方々のご協力を得た。元『原子力工業』編集長で現在、原子力エディターの中原和哉氏と編集者の大石龍生氏には本書の企画段階からお世話になった。また日刊工業新聞社出版局の木村文香氏には、書名のネーミングから編集制作上の一切で、ご面倒をおかけした。本書の出版企画が具体化して五年余り。三氏には改めてお礼を申し上げる。

二〇一〇年三月
飯高季雄

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