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地球温暖化を理解するための
異常気象学入門

定価(税込)  2,052円

著者
サイズ A5判
ページ数 200頁
ISBNコード 978-4-526-06384-8
コード C3034
発行月 2010年01月
ジャンル 環境 ビジネス

内容

地球温暖化を語る前提として、「異常気象」の何たるかを示し、その原因、影響、対策に至るまでを気象の専門家の立場で解説したもの。著者は、環境問題の専門家で、日本の天気予報システムの生みの親でもあるこの分野の第一人者。

増田善信  著者プロフィール

1923年 京都府に生まれる。1949年中央気象台付属気象技術官養成所(現気象大学校)研究科卒業。1949〜59年気象研究所に勤務。1959〜78年気象庁予報部電子計算室(現数値予報課)予報官。1959年日本気象学会賞。1961年理学博士(台風の進路予報に関する数値的研究、東京大学)。1977〜84年日本学術会議会員(第11・12期、第4部・地球物理学)。1978〜84年気象研究所予報研究部第1研究室長。1984年退職。

現在

非核の政府を求める会常任世話人、酸性雨調査研究会代表幹事。

主著

『台風論』(共著・地人書館)、『数値予報』(東京堂出版)、『気象と科学』『核の冬−核戦争と気象異変』(新草出版)、『核の夜─科学者は警告する』(共訳・新日本出版)、『地球環境が危ない』(新日本出版)、『地球の“さけび”が聞こえますか』(学習の友社)、『大競争時代と規制緩和』(共著・新日本出版社),

『広島・長崎 原爆被害の実相』(共著・新日本出版社)。

目次

I 歴史を変えた異常気象
1.有史以前の気候変動
(1)氷河期と間氷期
コラム(1)重水素比(δD)と酸素同位体比(δ18 O)
コラム(2)代替(プロキシ)データ
(2)氷河期の成因とミランコビッチの説

2.中世の温暖期と小氷期

3.テムズ川まで凍った異常低温とマウンダー黒点極小期

4.天明の飢饉と浅間山の大噴火
(1)噴火の状況
(2)浅間山噴火とラキ火山の噴火
(3)天明3年前後の気候
(4)天明大飢饉の惨状

5.クラカトア火山の噴火と異常低温
(1)小さな島が吹っ飛んだ大噴火
(2)吹き上げられた噴煙と気象異変
(3)インドネシアの運命を変えたクラカトア火山噴火

6.昭和初期の東北の大冷害
(1)東北地方の冷害
(2)昭和6年の凶冷時の天気図と気温分布
(3)昭和9年、10年の凶冷とヤマセ
(4)東北地方および北海道の凶冷の原因
(5)昭和東北大凶作と軍国主義の台頭

7.エルニーニョとラニーニャ
(1)エルニーニョ・ラニーニャと南方振動
(2)テレコネクション
(3)エルニーニョと異常気象

II 異常気象が増えているー全般的な状況
1.異常高温が増え、異常低温は激減

2.異常多雨も異常少雨も増える

3.ヒートアイランドが強まる

III 集中豪雨や竜巻など激しい気象現象による異常気象
1.都市化と重なった集中豪雨
コラム(3)大気の静的安定度

2.竜巻やダウンバーストなど

3.スーパー低気圧
コラム(4)傾圧不安定

IV 熱波、寒波など長時間続く以上現象
1.2003年8月のブロッキングと西ヨーロッパの熱波と日本の冷夏
(1)西ヨーロッパの熱波
(2)日本の冷夏
(3)2003年夏の異常気象とブロッキング

2.「平成20年8月末豪雨」(2008年8月26〜31日)

3.強い台風5個がほぼ同じコースをとって日本列島に上陸した

V なぜ温暖化すると異常気象が増えるのか
1.温暖化に伴って大気の鉛直安定度が悪くなり、激しい気象現象が増える

2.日本のゾンデ観測による大気の鉛直安定度
(1)秋田の例
(2)稚内、館野、福岡の例

3.ブロッキングと異常気象
コラム 大規模な運動とコリオリの力

VI 放射平衡と温室効果
1.放射平衡─なぜ地球の地上気温の平均はほぼ15℃か

2.温室効果と大気の鉛直構造

3.温室効果ガスと地球温暖化

4.地球大気は地球上に誕生した生物によってつくられた
Column 〈IPCC〉

VII 地球温暖化の現状と予測
1.産業革命以後の温室効果ガスの急増

2.気温、海面水位、積雪面積はどう変化してきたか

3.過去50年の温暖化は人為的なもの

4.21世紀末の平均地上気温の予測結果

5.21世紀末のその他の気候予測

6.温暖化は生態系をはじめ人間社会にどんな影響を与えるか

7.ツバル、モルジブなど小島嶼国はなくなる

8.二度ともとに戻れない現象─非可逆的現象が起こる

9.深層海流が止まるかも

VIII 温暖化時代の異常気象と災害
1.異常気象と災害のリスク

2.竜巻など激しい突風の予測

3.局地的な大雨に対する予測

4.熱中症と猛暑日

5.台風の将来予測

6.異常気象の発生確率を減らす
(1)わが国の二酸化炭素の排出量
(2)省エネはクリーン発電
(3)石炭火力を最新鋭の発電方式に変えると温室効果ガスをどれだけ削減できるか
Column 〈狛江1号増田邸太陽光発電所〉

IX 異常気象学の展望と問題点
1.異常気象学の主なテーマ
(1)なぜ温暖化すると異常気象が増えるのか、そのメカニズムの解明
(2)異常気象の実態の把握
(3)災害と社会的条件

2.異常気象学を発展させる上での問題点

X 気象事業の再生と防災
1.減り続ける気象庁の定員と予算

2.先駆的だった気象庁
(1)“本日は晴天なり”
(2)富士山頂の通年観測
(3)気象台独自の飛行機観測
(4)海洋観測船の運航
(5)日本最初の大型電子計算機の導入
(6)富士山レーダー
(7)アメダスの展開

3.気象事業の再生を目指して
(1)科学の論理を貫く
(2)最先端の機械と人間力の組み合わせで
(3)地球物理現象すべてを対象に
Column 〈増田酸性雨測定〉

あとがき
索引

はじめに

 「異常気象学」などという耳慣れない言葉に驚かれた読者も多いと思いますが、地球温暖化と関連して異常気象が増えています。しかし、なぜ温暖化すると異常気象が増えるのか、そのメカニズムにまで触れた研究は余りありません。それは異常気象学がないためではないかと思います。そこで、そもそも「異常気象」とはどういう現象なのか、そのメカニズムは気象学や地球物理学から見てどのようなものか、などから紐解いて見ようと思います。もちろん、まだ体系的に完成した学問ではありませんし、著者の思いこみや、間違いもあるかも知れませんが、「異常気象学」という新しい山に挑んでみたいと思って本書を執筆しました。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、異常気象のことを「極端な事象」と呼んでいますが、気象庁の定義によると、異常気象とは30年に1回以下の、平常的には現れない気象現象(高温や低温、あるいは豪雨、渇水など)をさしています。しかし、最近は過去30年で見れば「異常」な現象が度々現れています。

 例えば、2008年7、8月は異常気象が頻発した月でした。京都市では7月全部が真夏日で、猛暑日が12日も観測され、7月19日から27日までの9日間は連続して猛暑日でした。

 集中豪雨で大きな被害が出た月でもありました。例えば、7月28日には北陸や近畿地方の広い範囲で、記録的な激しい雨が短時間の間に降り、神戸市内を流れる都賀川が10分間で1.3mも増水し、川遊びに来ていた学童をはじめ11人が流され、子ども3人を含む5人が死亡するという痛ましい事故が起こりました。金沢市でも市内を流れる浅野川、高橋川、大野川が氾濫し、多数の家屋が床上や床下浸水に見舞われました。

 さらに、8月5日には、東京都文京区雑司ヶ谷の下水道工事現場で、6人の作業員が集中豪雨による異常出水で、あっという間に流され、作業員5人が死亡しました。この時、現場近くの東京都下水道局の雨量計の観測によると、降りはじめの11時45分から、事故が発生した直前の12時15分までの30分間に37ミリの雨が降っていました。短時間に降った豪雨が、舗装された地面で集められ、一度に下水道管に流れ込んだためであろうと思われます。

 8月末は「平成20年8月末豪雨」と命名されたように、各地で集中豪雨が降り、被害が多発しました。8月29日には、岡崎で1時間雨量146.5ミリの豪雨が降りました。これは従来の1時間降水量の記録を更新したものです。

 また、全国各地で竜巻やダウンバースト、ガストフロントなどが観測され、気象庁のまとめによると、2008年7月だけで21個も発生し、発生場所も沖縄から北海道まで全国に及んでいたといわれています。

 一方、2003年7月のヨーロッパのように、1カ月以上も熱波が続き、3万5千人もの人が亡くなるという異常気象もあります。日本付近でも2005年12月から2006年1月にかけて、極端な寒波に見舞われました。これらはいずれも同じような気圧配置が続いて、極端な高温の日や低温の日が何日も続いたためです。

 このように異常気象には2種類のタイプがあるように思います。

 第1のタイプは、集中豪雨や竜巻などという激しい気象現象、あるいはハリケーン・カトリーナのように台風や低気圧が極端に発達し、強風や豪雨をもたらす異常気象です。

 第2のタイプは、同じような気圧配置が長く続いて、熱波や寒波、さらには何個もの台風やハリケーンがほぼ同じコースをとって襲来するという異常気象です。

 2つはそれぞれ違ったメカニズムで増えているのではないかと思います。

 ではなぜ最近異常気象が増えてきたのでしょう。地球温暖化のせいだといわれています。ではなぜ地球温暖化が進むと異常気象が増えるのか。その正確な答えはまだ明らかにされていないように思います。

 しかし、統計的に見ると、温暖化によって平均気温が上がると、異常高温が増える可能性のあることがわかります。IPCC(2001)は、図Aを用いて、気温の発生頻度の図から気温の平均値や偏差の変化によってどのように異常高温や異常低温が増えるかを模式的に示しています。

 図A(a)は気温の平均値が増えた場合、すなわち温暖化して新しい気候に移った場合を示したものです。低温の極値、すなわち異常低温は起こらなくなり、逆に異常高温が多くなり、記録的な酷暑が起こる可能性が出てきます。

 一方、図A(b)のように、平均値は変わらなくて気温の変動が多くなる、すなわち低温の偏差も高温の偏差も増えるとどうなるでしょう。この場合は異常低温も異常高温も増え、記録的な酷寒と酷暑の両方が起こりやすくなります。

 さらに、もし平均気温が上がり、高温の偏差も増えるような気候レジームになると(図A(c))、異常低温はほとんど現れないが、異常高温も記録的な酷暑も激増する可能性があることがわかります。

 しかし、この考えは変化がほぼ正規分布するような現象には適用できますが、降水量、特に渇水、少雨のような正規分布をしない現象には適用できません。それだけでなく、なぜ温暖化すると、異常気象が増えるのか、そのメカニズムにまで踏み込んだ説明にはなっていません。そこで本書では、まだ仮説の段階ですが、なぜ温暖化すると、前述の2種類の異常気象が増えるのか、そのメカニズムにまで踏み込んで説明したいと思います。

 本書では、まず異常気象には、歴史を変えるような厳しい異常気象があったことを述べます。これらの異常気象は火山噴火であるとか、長期間にわたって黒点がなかったような太陽活動の変化によるなど、主に自然的原因で起こったものです。

 次に、人為的要因、特に温室効果ガスの増大による温暖化の影響によって異常気象が増加している実態を、まず、異常高温が増え、異常低温が減っていることなど全般的な状況で示し、その後で、異常気象には2種類あることを指摘し、いずれも最近増えていることを説明しています。

 1つは集中豪雨や竜巻、スーパー低気圧など、鉛直方向に発達する激しい異常気象で、いま1つは熱波や寒波など、比較的水平スケールが大きく、しかも長時間継続する異常気象です。本書では、この2つの異常気象が、いずれも最近増えていること、すなわち温暖化の進行に合わせて増えていることを示した上で、前者は温暖化に伴って大気の鉛直安定度が悪くなったためであり、後者は赤道と極との温度差が小さくなった結果ブロッキングが起こりやすくなっているためではないかとの仮説を立てています。そして、この仮説が、「放射平衡と温室効果」の原理的な話から、ある程度説明できることを明らかにしています。

 その後で、地球温暖化の現状と予測の問題を述べていますが、IPCC(2007)は2007年11月16日に統合報告書を発表し、その中で「気候変化の速さと規模によっては、人為起源の気温上昇により、突然の、あるいは非可逆現象が引き起こされる可能性がある」と警告しているので、ここではツバルの例を引いて、小島嶼の水没の危険に触れ、さらにNHKスペシャル「スバルバル号北極海を行く」を引用して、深層海流が止まる危険性があることを指摘しています。

 次いで、「異常気象学の展望と問題点」で、果たして「異常気象学」なる学問領域があり得るのか、それを発展させるためにはどのような問題点があるかを指摘し、温暖化に伴う気象災害を防ぐべき気象庁の役割に触れています。

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