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低炭素社会に向けた12の方策

定価(税込)  2,592円

編著
編著
編著
サイズ A5判
ページ数 200頁
ISBNコード 978-4-526-06331-2
コード C3050
発行月 2009年09月
ジャンル 環境

内容

「2050低炭素社会」シナリオチームは、2050年までに日本のCO2排出量を1990年比で70%削減できる可能性を示した。では、この目標達成のために、これから私たちは何をしていけばいいのか、しなければならないのか−社会全体で取り組んでいくべき12の具体的方策を提案する。

藤野純一  著者プロフィール

(独)国立環境研究所 地球環境研究センター 温暖化対策評価研究室 主任研究員

1972年東京生まれ、大阪育ち。2000年に「バイオマス・原子力を中心とした持続可能なエネルギーシステムに関するモデル解析」により東京大学大学院工学系研究科博士課程(電気工学専攻)修了後、同年に国立環境研究所入所。AIM(アジア太平洋統合評価モデル)開発・シナリオ分析に従事。2004年から脱温暖化2050プロジェクトの幹事として、日本低炭素シナリオ開発および約60人からなる研究プロジェクトの運営を担当。北陸先端科学技術大学院大学客員准教授、東京理科大学非常勤講師、IPCC再生可能エネルギー特別報告書主執筆者、等を併任。中長期目標検討委員会ワーキングチームメンバー。現在、アジアの低炭素社会シナリオ研究とその実現に精力を傾けている。

榎原友樹  著者プロフィール

みずほ情報総研(株) 環境資源エネルギー部 チーフコンサルタント

1977年生まれ、大阪府出身。京都大学工学部地球工学科(資源工学専攻)を卒業後、英国のレディング大学へ留学。 再生可能エネルギーについて学び、修士論文「Influence of ventilation on PV roof tile temperature」によって修士号を取得。富士総合研究所(現・みずほ情報総研)に入社後は、脱温暖化2050プロジェクトをはじめとした温暖化関係のプロジェクトやIEA PVPSプログラムなどの太陽光発電関係のプロジェクトに従事。

岩渕裕子  著者プロフィール

(独)国立環境研究所 地球環境研究センター 温暖化対策評価研究室 NIESアシスタントフェロー

1978年生まれ、宮城県出身。東京学芸大学教育学部(情報環境科学課程 自然環境科学専攻自然史選修)を卒業後、東北歴史博物館にて展示解説員として勤務。その後NPO法人宮城県森林インストラクター協会勤務などの傍ら、東北大学大学院環境科学研究科 環境科学専攻(高度環境政策・技術マネジメント人材養成ユニット)にて環境科学修士号を取得。国立環境研究所に入所後は、脱温暖化2050プロジェクトの活動に従事。

目次

目次



第1章 日本低炭素社会のシナリオ

1 低炭素社会とは?

低炭素社会とは何か?

低炭素社会は持続可能な社会への1つの入り口

なぜ温暖化が起こる? 予想される温暖化影響は?

世界は温暖化をどのように受け止めているのか

2 低炭素社会に向けた12の方策

2050年までに日本のCO2排出量を70%削減

低炭素社会を実現する12の方策

家庭・オフィス、移動、産業における各方策の役割

12の方策の作り方と低炭素社会のデザイン



第2章 12の方策

「12の方策」の読み方

方策1 [民生分野]

快適さを逃さない住まいとオフィス

イメージ

快適かつ環境性能の高い住まい・オフィスの普及

障 壁

高コストで効果の見えない環境配慮型住宅・建築物

ロードマップ

環境性能の見える化と建築技術の向上

方策2 [民生分野]

トップランナー機器をレンタルする暮らし

イメージ

効率の良い機器が普通に使える暮らし

障 壁

トップランナー対象機器が高い

ロードマップ

トップランナー制度の拡大とリースの導入

方策3 [産業分野]

安心でおいしい旬産旬消型農業

イメージ

選好される低炭素型農作物

障 壁

農作物の環境負荷が表示されていない

ロードマップ

農作物ラベリングと低炭素農業アドバイザーの拡充

方策4 [産業分野]

森林と共生できる暮らし

イメージ

木に囲まれた生活が支える林業の復活

障 壁

経営効率の悪い林業経営と使いづらい国産材

ロードマップ

木材利用インセンティブの付与による競争力回復

方策5 [産業分野]

人と地球に責任を持つ産業・ビジネス

イメージ

低炭素型企業経営でビジネス活性化

障 壁

低炭素型経営を評価し褒める仕組みがない

ロードマップ

低炭素型経営を行う企業に資金が集中する制度の構築

方策6 [運輸分野]

滑らかで無駄のないロジスティクス

イメージ

必要なものを必要なだけ生産し効率的に流通

障 壁

企業間情報共有不足と低炭素型流通インフラの未整備

ロードマップ

全体最適化に資するSCMの構築と低炭素インフラ整備

方策7 [運輸分野]

歩いて暮らせる街づくり

イメージ

快適に移動ができ、安心して暮らせる街

障 壁

都市計画における低炭素の視点の欠如

ロードマップ

低炭素の観点を含めた土地利用や交通整備

方策8 [エネルギー転換分野]

カーボンミニマム系統電力

イメージ

CO2を排出しない電力の供給

障 壁

低炭素化に向けた過度な費用負担と未成熟なCCS技術

ロードマップ

長期的視野に基づくインフラ整備と技術開発・制度設計

方策9 [エネルギー転換分野]

太陽と風の地産池消

イメージ

地域に応じた再生可能エネルギーの最大活用

障 壁

電力品質への悪影響を回避する術が不足、コストが大

ロードマップ

送配電・貯蔵設備の増強と安定した買取制度で普及促進

方策10 [エネルギー転換分野]

次世代エネルギー供給

イメージ

温室効果ガスを直接排出しない水素利用の定着

持続可能性に配慮したバイオマス利用

障 壁

水素関連技術の未成熟、インフラの未整備

高いコストと不十分な環境影響評価

ロードマップ

有望地域への集中投資と段階的拡大

継続的な技術開発・影響評価と国際的枠組みの構築

方策11 [分野横断]

「見える化」で賢い選択

イメージ

活動に伴う環境負荷がいつでもどこでも手軽に見える

障 壁

環境負荷データと表示システムの不足

ロードマップ

ICT(情報通信技術)を駆使したデータ収集・統合・表示

方策12 [分野横断]

低炭素社会の担い手づくり

イメージ

生活・ビジネスの基本理念の1つが低炭素

障 壁

専門家の不足と教育システムの未整備

ロードマップ

専門家の育成と教育プログラムの充実

はじめに

はじめに



私たちはすでに「温暖化した社会」に住んでいる。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書によると、この100年間で地球の平均気温は0.74℃上昇した。現在起こっている異常気象、将来起こる温暖化の影響予測結果から、少なくとも産業革命以前からの気温上昇を2℃以下に抑えること、そのためには世界全体で温室効果ガスを大幅削減する必要があることは、G8をはじめとする世界の共通の理解になってきた。深刻な温暖化の影響を避けるためには、京都議定書の日本マイナス6%はその入り口に過ぎず、2020年までに世界の排出量をピークアウトし減少の方向に転換させ、2050年には世界で半減以上、2050年以降の早い時期にはほぼゼロ排出を実現するような大幅削減を行うことが求められるだろう。いずれにしても、今後の社会経済は、温室効果ガス排出量の大幅削減が前提で、それに基づいた活動が行われるようになる。つまり、今まで経済活動で評価されなかった炭素の価値が組み込まれ、二酸化炭素を排出する活動にはコストがかかることが当たり前の低炭素社会に変わっていくだろう。

環境省地球環境研究総合推進費の戦略的研究プロジェクト「脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究プロジェクト(脱温暖化2050プロジェクト、S-3)」は、日本の大学・企業関連研究者60人あまりの参画により、2004年4月から2009年3月までの5年間に及ぶ研究活動を行った。2007年2月15日に研究チームの1つのシナリオチームが中心になって「2050日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討」報告書を公表し、日本でも温室効果ガス排出量の大幅削減が技術的に可能であることを示した。これらの成果は、2007年5月24日に安倍晋三首相(当時)が打ち出した「Cool Earth50」構想における2050年世界半減目標、さらには2008年6月9日に福田康夫首相(当時)が行ったスピーチ“「低炭素社会・日本」をめざして”(通称福田ビジョン)における日本2050年温室効果ガス60〜80%削減目標の設定に少なからぬ影響を与えた。また、脱温暖化2050プロジェクトでは研究参画者の多くの協力を得て、2008年6月に「日本低炭素社会のシナリオ−二酸化炭素70%削減の道筋」(西岡秀三編著、日刊工業新聞社)を出版し、2050年低炭素社会の具体的な姿を示した。

その結果、1人当たりGDP(国内総生産)を年間1〜2%成長させても、サービス産業へのシフト、モータリゼーションの飽和化、社会資本への新規投資の減少などの構造転換が進むとみられることから、必要とされるエネルギーサービス量(活動量)は2000年の水準とそれほど変わらないこと、建築物の高断熱化や歩いて暮らせる街づくり、省エネ機器のさらなる開発・普及などの各種イノベーションにより、要求されるサービス需要を満たしながら、エネルギー需要を40%程度削減することができ、太陽光・風力発電の普及や原子力、炭素隔離貯留の適切な導入等のエネルギー転換側の低炭素化により、2050年までに二酸化炭素排出量を1990年比70%削減させることは可能であることがわかった。



2050年70%削減のビジョンは描けた。次に問われたことは、どうやって実現すればよいかであった。どの時期に、どのような手順で、70%削減を実現する技術を開発・普及させ、低炭素な建物や交通手段によって構成される街づくりを進め、産業構造を低炭素化させればよいのか。それを支援する政策にはどのようなものがあるのか。

削減に向けては、いくつかの技術的社会的障壁があり、それらを取り除くには、順序だった手順で時間をかけて対処してゆく必要がある。お互いの相互関係を念頭に置きながら、効果の大きさを勘案してほどよいくくりでまとめたものを「方策」と呼んだ。2008年5月22日に公表した「低炭素社会に向けた12の方策」報告書は、脱温暖化2050プロジェクトを構成する各チームの協力で得られた方策に関する情報をシナリオチームが中心となってまとめたものである。報告書の後半部分は、行政担当者の役割を想像しながら、12の方策の「目指す将来像」、「実現への障壁と段階的戦略」、消費者や産業界ができる「貢献」、そして現時点の課題から2050年の低炭素社会に向けて取るべき対策と政策を時系列に示した「ロードマップ」をそれぞれ1ページずつにまとめた。低炭素社会の実現に向けた各自の役割をイメージする上で、中央省庁のみならず、地方自治体、ビジネス、NGO、一般市民などから幅広い反響があった。2008年7月29日には「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定され、低炭素をキーワードにした政策立案がさらに進められることになった。

「低炭素社会に向けた12の方策」報告書をまとめるにあたって、コンパクトに要旨を伝えることに注力したために方策を構築する考え方やすでに行われている具体例など、方策をそれぞれの現場に応じて再構築したり、実現させたりするために有用と思われる情報を省かざるを得なかった。このたび出版の機会をいただき、2008年5月の報告書に含められなかった情報をご紹介できることになった。第1部には、低炭素社会の考え方、12の方策の役割について(藤野が主担当)、第2部には、12の方策の構築手法、1つずつの方策の設計思想、すでに行われている方策の実例について(榎原・岩渕が主担当)、できるだけ具体的に記述することを心がけた。

本書は環境省地球環境研究総合推進費戦略研究プロジェクト「脱温暖化2050プロジェクト」に参画した約60名の研究者の研究成果に基づいて構築したものであり、筆者らは自らの責任でそれらをまとめたに過ぎない。研究プロジェクトに深く関わった研究参画者、環境省の行政関係者、叱咤激励いただいた低炭素に関心を寄せる研究者、中央行政、地方自治体、産業界、NGO、一般市民等の方々に感謝の念を表したい。



低炭素社会に向けた12の方策は、それぞれの現場において低炭素社会を実現する方策の将来像・ビジョンをしっかりと共有・理解し、それを実現するために各人の役割を見つけ出し、手順良く・協力的に実行することで初めて実現する。一方で、実現する手法は、現場の状況、それをとりまく環境、世界のトレンド等によって常に変わりうるだろう。しかし、目指すべき低炭素社会というゴールは、いささかも変わらないのである。より具体的で効率的な登り方で持続可能な低炭素社会という山頂に向かう道筋を読者一人ひとりと一緒に考えることができたなら、本書の役割は達成されたと考える。

2050年に70代を迎える筆者らにとって低炭素社会の実現は他人ごとではない。本書を読んだ方々から真剣なフィードバックをいただければ望外の喜びである。



2009年9月

藤野純一

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