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SCIENCE AND TECHNOLOGY
糖鎖のはなし

定価(税込)  1,512円

著者
サイズ B6判
ページ数 160頁
ISBNコード 978-4-526-06164-6
コード C3043
発行月 2008年11月
ジャンル 化学

内容

糖鎖はDNA・タンパク質に次ぐ第三のバイオポリマーとして注目され、医学分野での産業応用に向けて研究解析が進んでいる。本書は、まず糖鎖を理解するための糖化学の基礎と構造を詳しく解説し、さらに産業化に不可欠な糖鎖の合成技術、プロファイリング技術、バイオマーカーの応用もわかりやすく紹介する。

目次

目 次

まえがき



1章 糖・糖鎖とは何か

1.1 糖鎖の時代が来た!

1.2 本質は「炭・水化物」

1.3 D―グリセルアルデヒドの定義

1.4 フィッシャーの功績

1.5 変旋光と旋光度計

1.6 バイオマス由来の応用糖質の発展

1.7 糖の研究から糖鎖の研究の時代へ

1.8 核酸・タンパク質に次ぐ第三の生命鎖

1.9 単糖の役割

1.10 解糖系から酸素の利用へ

1.11 鋳掛屋仕事「ブリコラージュ」

1.12 生命分子と非対称性

1.13 炭水化物の異性体

1.14 糖鎖の役割:エネルギー,繊維,情報

1.15 複合糖質糖鎖の役割

コラムI 甘さと糖の結びつき

参考文献



2章 糖の基礎化学

2.1 糖を議論するための共通語

2.2 sp3混成軌道は空間を四等分する

2.3 糖鎖のパーツ「単糖」

2.4 自然界に存在する糖の種類

2.5 構成糖は糖ヌクレオチド供与体の 形で合成に用いられる

2.6 単糖の系統的合成:シアンヒドリン法

2.7 グルコース

2.8 マンノース

2.9 ガラクトース

2.10 糖の安定性を決める因子

2.11 その他の糖(希少糖など)

2.12 プシコース(希少糖の例)

2.13 キシリトール(糖アルコールの例)

2.14 単糖生成のシナリオ

2.15 ホルモース反応

2.16 アルドール縮合

2.17 Lobry de Bruyn転位

2.18 ガラクトース後生説

コラムII DNAとRNAの相違点

参考文献



3章 糖鎖の合成原理と機能探索

3.1 糖から糖鎖へ

3.2 糖鎖構造の特徴

3.3 糖鎖被覆の事実

3.4 糖鎖修飾の意義

3.5 糖鎖の一生

3.6 糖鎖の三形態

3.7 N―結合型糖鎖合成の無駄?

3.8 高マンノースから複合型への変遷

3.9 細菌に見切られた(?)N―結合型糖鎖

3.10 糖鎖の重要性を示す事例―1:KOマウスが語る 糖鎖の機能

3.11 糖鎖の重要性を示す事例―2:エリスロポイエチンに 見る糖鎖構造の機微

3.12 タンパク質に糖鎖がつくことの利点

3.13 タンパク質物性への影響

3.14 タンパク質の行き先を決定

3.15 糖鎖パートナーの選定

3.16 糖鎖と分泌

コラムIII RNAワールド再考

参考文献





4章 糖鎖の産業化

4.1 糖鎖を自在に操れる時代の到来

4.2 糖鎖産業化のための三要素

4.3 糖鎖の潜在的多様性は一兆という報告

4.4 糖鎖プロファイリングの概念

4.5 糖鎖プロファイリングの実際

4.6 機能解析は執念とレイバーワーク

4.7 合成技術の完成が産業化最大のカギ

4.8 糖タンパク合成の工業的アプローチ

4.9 Native Chemical Ligation

4.10 希少糖の医薬中間体としてのポテンシャル

4.11 希少糖=リボース選択の必然

4.12 糖鎖を早期診断に活かす―バイオマーカー―

4.13 単純プロテオミクスの困難と真の マーカー開発原理

4.14 NEDOが推し進める糖鎖マーカー開発 プロジェクト

4.15 現状の腫瘍マーカーの課題

4.16 明日の糖鎖産業

4.17 社会との接点―糖鎖科学統合データベース―

参考文献



索 引

はじめに

まえがき

最近、「糖鎖」という言葉を耳にする機会が随分多くなった。糖鎖とは、一般にブドウ糖などの単糖が複数つながったものを呼ぶのだが、その中身は実にさまざまだ。デンプンやセルロースはエネルギー源、あるいはバイオマスを代表するホモ多糖で、基本的に単一の成分(ブドウ糖)だけからなる。一方、今その重要性が注目されているのは、10種類程の構成分子(ブドウ糖、マンノース、ガラクトース、L―フコース、シアル酸、N―アセチルグルコサミン、N―アセチルガラクトサミン、キシロース、グルクロン酸など)からなる複合糖鎖(複合糖質とも。英語ではglycoconjugate)と呼ばれる生体物質だ。複合糖鎖は発生・分化・生殖・免疫・炎症・癌化・感染などと深く関わっており、私たちの生命活動にとって大変重要な物質であることがわかってきた。

「生命情報」というと、多くの方々がまずDNA(デオキシリボ核酸)を連想するだろう。たしかに、「セントラルドグマ(中心命題)」はDNA→RNA→タンパク質という生命情報の流れを明確に規定している。しかし、ちょっと考えてみよう。DNAは細胞の中の「核」に温存されているのに対し、糖鎖は細胞表面に膜タンパク質や糖脂質として発現したり、分泌タンパク質に付加したり、さまざまな生体機能の場で働いている。いわば「現場分子」だ。一方、生体機能の主体である酵素や構築体は「タンパク質」だ。しかし、現実には何の修飾も施されていない裸のタンパク質をいくら調べたところで生命の営みは理解し得ない。なぜなら細胞を基盤とする舞台では糖鎖の働きが不可欠だからだ。

残念ながら、今まで、大学の教科書には糖鎖の本質に関する記述はほとんどなかった。栄養貯蔵物質であるデンプン、グリコーゲンの記述と、その構成成分である数多の単糖についての機械的な記載に終始しているに過ぎない。

本書で取り上げるのは、私たち自身の細胞表面をびっしりと覆っている「複合糖鎖」である。ただし、糖鎖がさまざまな生命現象に深く関わっていることを伝えることだけが本書の目的ではない。糖・糖鎖の起りについて、化学の目で見直してみたい。糖鎖の起源は古い。ということは糖鎖の機能が生命の隅々にまで行き渡っていることを示す。糖の起源や生物進化との関連については今までほとんど議論されたことはなかった。起源が古ければ生物に共通した「インフラ」ができ上がる。タンパク質を構成するアミノ酸の種類(20種)が全生物で共通であるのと同様に、糖鎖の構成成分(約10種類)もほぼ共通していることは驚嘆に値する(教科書にはもっとたくさんの単糖が載っているのに、だ)。あえてこのような進化の問題に切り込むのは、糖に対する根本的な理解が糖鎖研究者の間でさえ、欠落していると危惧するからだ。

今後、糖鎖の重要な機能がつぎつぎと解き明かされ、これらに関連した分野での産業応用が大きく進展することは間違いない。しかし、糖そのものへの理解がなければ、次の時代のイノベーションは期待できない。真に革新的な技術の創出や製品開発には、糖鎖の本質の理解、とくに化学レベルでの再考が不可欠だというのが著者の思いである。

理科離れの時代と言われて久しいが、技術立国である日本の糖鎖産業が、たとえば糖化学の基礎である「sp3」や「ケト・エノール互変異性」を理解せずに大躍進を期待できるだろうか。ガラクトースが生物進化の後から登場したのも(ガラクトース後生説)、シアル酸がマンノースとピルビン酸のアルドール縮合を礎とするのも、リボースが自然発生的に量産し得ないのも(RNAワールドに対する疑問)、フルクトース以外のケトヘキソースが自然界にないのも、解糖系がグルコースではなくフルクトースから始まるのも、すべて化学的には説明がつく事項、つまり「必然」なのである。

糖鎖は生物の進化史においていまだ発展途上の分子とも言われる。しかし、その無限の可能性を実際に切り拓くのは、本書を読まれる若い世代である。未来を見定める上で、「過去」を正しく理解することは重要である。本書で述べる糖の起源に関する論述は学術的に論じたことはあるが、読みものとして記述するのは初めてだ。一人でも多くの方に、糖の起源について興味をもっていただければと思う。

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