買い物かごへ

日本低炭素社会のシナリオ
―二酸化炭素70%削減の道筋―

定価(税込)  2,592円

編著
サイズ A5判
ページ数 216頁
ISBNコード 978-4-526-06090-8
コード C3050
発行月 2008年06月
ジャンル 環境

内容

2050年の日本において、主要な温室効果ガスである二酸化炭素を1990年に比べて70%削減した「低炭素社会」を実現するシナリオを、具体的な対策を含めてわかりやすく解説した。環境省の研究プロジェクト成果をベースに、科学的根拠に基づいてまとめている。

目次

はじめに:低炭素社会に向けて





第1部 低炭素社会に向かう21世紀の世界



1. 気候安定化に向けた世界のうねり

1.1 排出ゼロにしなければ気候変化はとまらない

1.2 気候モデルが予想する今世紀の大変化

1.3 人間は気候変化の危険を察知できるか



2. 日本が70%程度の削減を必要とする理由

2.1 日本の大幅削減を決める3つの要因

2.2 国際分担―欧州諸国はすでに60%以上削減の目標設定

2.3 日本は60〜90%削減が必須

2.4 日本も低炭素社会へ臍を固めよう





第2部 70%削減を可能とする日本低炭素社会のビジョンとシナリオ



3. ビジョン:2050年どんな日本にしたいのか

3.1 低炭素社会構築計画にはバックキャスティングが役立つ

3.2 2050年の2つの日本:「活力社会」と「ゆとり社会」

3.3 日本2つのシナリオの定量化

3.4 少子高齢化による人口減少

3.5 生活時間変化とワークシェアリングの普及

3.6 サービス産業へシフトする産業構造

3.7 低炭素社会における地域の姿



4. 2050年のシナリオ:70%削減の日本

4.1 2050年のサービス需要を満足させる技術選択手順

4.2 エネルギー需要の40%削減が最大の鍵

4.3 産業部門:構造転換と省エネルギー技術導入で20〜40%のエネルギー需要削減

4.4 住宅部門:利便性の高い居住空間と省エネ性能両立住宅エネルギー需要50%削減

4.5 業務部門:快適で働きやすいオフィス、省エネ機器の効率改善・選択でエネルギー需要40%削減

4.6 旅客交通部門:適切な国土利用、エネ効率・炭素強度改善等でエネルギー80%削減

4.7 運輸貨物部門:輸送システムの効率化、輸送機器のエネ効率改善等で60〜70%削減

4.8 エネルギー供給側:低炭素エネルギー源の選択が鍵

4.9 供給側エネルギーの多様な選択可能性

4.10 70%削減は社会システム改革と技術革新の融合で可能



5. 低炭素社会への道筋とそれがもたらすもの

5.1 低炭素社会実現の費用はGDPの1%

5.2 望ましい社会像への道筋:早期省エネ投資で長期節約効果大

5.3 熾烈な国際技術競争時代に日本は勝ち抜けるのか

5.4 低炭素社会は、都市を、農村を、社会システムを大きく変える





第3部 低炭素時代の国土・都市・交通・情報化の姿



6. 低炭素社会の住まい方:都市と住宅はこう変わる

6.1 国土を形作る地域の姿

6.2 地域条件を考慮した都市単位の住宅由来排出削減

6.3 事務所ビルからの二酸化炭素排出量を都道府県別に推計する

6.4 地域分散型エネルギーシステム導入の可能性:宇都宮市の例

6.5 太陽電池導入の可能性:宇都宮市の例

6.6 湿式バイオマス活用:横浜市における可能性



7. 低炭素社会の交通:地域ごとに異なる対策・モビリティ革命

7.1 交通部門からの二酸化炭素排出

7.2 地域交通需要と地域条件にあわせた対策がいる

7.3 技術的可能性:様々な対応が可能

7.4 交通の低炭素化とそこへの道筋



8. 情報化は低炭素社会の潤滑油

8.1 情報化は何をもたらすのか

8.2 IT化が進める効率化と省エネ効果

8.3 移動の代替可能性はどれほどの効果か

8.4 フォアキャストでは描ききれない2050年のIT社会

8.5 IT化は低炭素社会の切り札か





おわりに:低炭素社会を契機に日本の再構築を

供給側より、需要側の省エネルギーが鍵を握る(4章)

70%削減を実現するための条件

低炭素社会展望:日本再構築の軸に

はじめに

はじめに:低炭素社会に向けて









やればできる:温室効果ガスの大幅削減

世界が「低炭素社会」へ変わろうとしている中で、日本があと50年の間に、二酸化炭素排出量を大幅に削減することができるのだろうか。本書は、予想される技術進歩を踏まえて、社会が計画的に削減に必要な技術を取り入れてゆけば、2050年には70%の削減が可能であることを示している。しかしそのためには、早くに国民が目標を共有し、産業構造や都市や農村の転換時に順次炭素低排出型のインフラ整備を進め、社会全体を徐々に省エネルギー型に向けてゆかねばならない。今の生産や生活を見回して、70%も減らすのは途方もないことのように思われるが、その気になってやれば可能であることを整合性あるシナリオで科学的に示し、日本が低炭素社会へ踏み出す弾みをつけることを本書は意図している。



遅れをとった温暖化政策:30年もの自然の警告

温暖化への関心は1970年代から始まっている。1958年から開始されたマウナロアの観測は、大気中二酸化炭素濃度が確実に増加していることを示していたし、米国政府が行った膨大な研究調査が温暖化の可能性を示唆していた。1988年、国連環境計画と世界気象機関の呼びかけで、温暖化はありうるのか、もしそうなったらどのような事態になるのか、それが危険ならばどうしたら防げるのかを、各国政府の科学者を動員して調査させるためにIPCCが設立された。同時に、温暖化に関する観測や研究が強化されていった。1990年に出されたIPCC報告は、観測される温度上昇が人為的に引き起こされたものであるか否かの判断には10年の観測では困難としていた。また、気候安定化には、人為的温室効果ガス排出を60%削減する必要があることもすでに示している。

1992年リオデジャネイロでの地球サミットでは国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)が各国首脳によって署名され、気候変動防止の国際政策が動き出した。1995年のIPCC報告は、「地球の気候に対する検出可能な人間の影響が示唆される」とし、気候変動が人為的であることが徐々に確実になってきた。これを受けて1997年には先進国がまずは削減するという京都議定書に世界各国が署名した。当初から温暖化は警告されていたものの、その確実性に関しては科学や観測が追いついていなかったため、その結果を受け止める政策も科学的情報待ちであった。2001年のIPCC第3次報告書は、「最近50年間に観測された温暖化のほとんどは人間活動によるものである」としたが、削減による短期的経済的影響への心配や、科学的確実性に対する懐疑的な議論があり、二酸化炭素等の大幅削減の必要性は、底流では認識されていたが、「見たくないもの」としてあまり口にはされなかった。自然は待ってくれない。その間に温暖化はじわじわと進行していたのである。

そして2007年2月IPCCの第4次報告第一部会報告はついに、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い」と90%の確信度で断言した。



低炭素社会の幕が開いた:IPCC第4次報告書の衝撃

この第4次報告書は、これまでのIPCC報告の流れを踏む淡々としたものであったが、その内容はまさに科学的に「低炭素社会」の幕開けを告げる衝撃的なものであった。

ここ20?30年にわたる気候・環境観測の結果がようやく集約されて、ふたを開けてみたら気候変動は予想以上に進んでいたのである。地球平均温度はこの50年平均では、100年平均の倍以上の速度で進んでいる。さらに、氷河や北極の氷が大きく溶け始め、生態系は極方向に移動して、温暖化の影響が感受性の高い脆弱なシステムから現れ始めていることが報告された。この科学的事実は、実は人々が日常生活で感じていた異変を裏づけするものでもあった。頻発する豪雨被害や猛暑日の増加、生物季節のずれ、異種の魚が多くなって図鑑片手に魚市場に出かけるスーパーの仕入れ担当、強力台風の増加など、IPCCが予測していた事象を目の当たりに見て、人々も真剣に温暖化を考えるようになった。

2007年5月、安倍首相は「美しい星へのいざない」で、「世界全体の排出量を現状に比して2050年までに半減する」長期戦略目標を提唱し、「革新的技術の開発」を軸とする「低炭素社会づくり」という長期ビジョンを示した。これに続き、6月のハイリゲンダムG8サミットでは、「2050年までに地球規模での排出を少なくとも半減させることを含む、EU、カナダ、日本による提案を真剣に検討する」とされ、米国も含め国際社会は低炭素社会(世界)構築に向けて大きく一歩を踏み出した。

12月インドネシア・バリで開かれた気候変動枠組み条約交渉での京都議定書第一約束期間(2008?2012)終了後の国際レジームに関する話し合いで、米国・中国・インドなど排出大国を含めての話し合いが合意され、世界は「低炭素経済」「低炭素社会」構築に向けて大きな一歩を踏み出した。



単なる「低炭素化」ではない社会変革:20世紀エネルギー文明の見直し

低炭素社会とは、「低炭素排出で安定した気候のもとでの豊かで持続可能な社会」を意味する。英国では「低炭素経済」という言い方をしているが、より広く社会全体のイノベーションを必要とするとの観点から、本書では「低炭素社会」といっている。

気候を安定化するには、大気中の温室効果ガス濃度を一定に保つ必要があり、そのためには地球の吸収能力にまで温室効果ガス排出を下げて、入りと出をバランスさせねばならない。今現在で見ると、海や森林土壌への吸収量は人為的排出量の半分以下であるから、大気中の濃度を増やさないで気候の安定化を図るには、二酸化炭素などの温室効果ガス排出を今の半分以下に下げ、究極にはゼロ近くまでにせねばならない。「低炭素社会」はこのように「(二酸化)炭素の排出が少ない社会」がその第一義である。

持続可能な経済社会としての、「定常化社会」として、H. E. Dalyは3つの状況を定義し、その第一として、「すべての資源の利用速度を、最終的に廃棄物を生態系が吸収できる速さに制限する」としている。化石燃料による二酸化炭素排出を地球の吸収速度まで減らそうという「低炭素社会」はまさに「定常化社会」のさきがけといってよい。これから大きく社会は環境志向に変わろうとしているのである。

このように「低炭素社会」の意味するところは、単なる「低炭素化」よりもっと広範なものがある。温室効果の人為的増大(温暖化)効果の60%をもたらす二酸化炭素の削減が中心課題ではあるが、化石燃料利用がエネルギー依存型現代技術社会の大前提であるから、いわばこれを半分にする方向が示されたことは、今われわれがどっぷり浸っている技術社会システム全体を見直すということなのである。

2050年はずっと先の話、今やらなくてもいいのではと宿題を後延ばしすることはできない。温暖化の危険を避けるには、今からすぐに温室効果ガス排出を減らし始めねばならない。産業構造や社会インフラを変えるには数十年かかる。今すぐのスタートが必要なのである。

欧州諸国はすでに1997年京都議定書論議のときから、低炭素社会への移行を念頭において、交渉を仕掛けてきている。そして、早期に計画を立て、産業界ともども低炭素世界での技術競争勝ち抜きを目指して手を打ってきている。英国では2050年60%削減法案を議会に提出しているなど、遠い将来の問題ではなく今の問題として取り組んでいる。

本書は、技術的に見て大幅削減が可能であることを示したにとどまっている。その可能性を前提として、あるいはその可能性の前提として、大きな経済社会変革の時代が来る。



「できるかどうか」ではなく「やろうと思えばやれる」

温暖化政策検討にはバックキャスティング(Backcasting)が有効である。本書のビジョン作成も基本的にこの立場をとっている。バックキャスティングとは、ある将来の目標からさかのぼって、現在までの道筋を定めることである。反対に、どこに行こうかを決めるために、現時点に立って将来を眺めるのがForecastingである。

将来の望ましい社会像を定め、そこへ向けてとりうるいくつかの路線を考え、適切な路線を選び、それに沿って突き進む道順と障壁をクリアする方策を探るという、政策検討手順である。そこには、なせばなる、なさねばならぬ何事も、の精神がある。

フォアキャスティングのほうは、すでに周辺条件が定められた短期の行動設定に適切に使える。どうせ自分と違う大きなうねりが世の中を動かしているのだから、それにどう乗ってゆくか、世の中なるようにしかならないさ、の諦めがある。今時点からの視点で、フォアキャスティングによる半減検討を行えば、現状短期経済活動との相克、社会システムを変えることの摩擦、などできない理由が様々に先行する。

バックキャスティングは、問題の中核が社会の支配的な要因である場合に適用される。環境問題は21世紀の人類共通の重要課題であり、温暖化の主要因であるエネルギーという現代社会の中核に切り込む必要がある。また解決に向けて熟考した選択ができるだけの時間的余裕があることも必要である。インフラやライフスタイルなど変えにくいものを何とか変えられるだけの自由度のある期間、多分一世代以上、30?50年のスパンを持ったものでなくてはならない。ゆえに、ここではこうした条件を持つ温暖化問題の解決にバックキャスティングを用いている。



専門家60人の総合研究成果

本書の元となった「2050日本低炭素社会シナリオ」研究は、2004年度から環境省地球環境研究総合推進費研究の戦略研究開発プロジェクトの1つとして5年計画で開始された。本書は、その前半3年間の研究成果を踏まえている。2006年からは日英共同研究「脱温暖化社会の実現に向けた脱温暖化2050プロジェクト」として、国際シンポジウムも3回開催されている。

研究は、国立環境研究所と京都大学が中核となり、みずほ情報総研の支援を受け、日本の大学・研究所、企業関連研究者約60人の参加で行われた。研究の中核は「温暖化とエネルギーを統合した一連の統合評価モデル」を用いたシナリオ研究であり、削減必要量の検討、削減のための技術選択、エネルギー選択、そしてその経済性検討を整合性を持って行っている。さらに、都市計画、国土利用、交通・情報システムなどの専門家が、将来の地理的・物理的・社会的システム配置や個別技術の選択に参加しており、環境面のみならず、エネルギー、産業、国土計画のような幅広い分野を視野に入れた総合的研究である。本編は、2050年時点での技術的可能性検討の段階であるが、投資の手順や、誘導するための政策評価についても2008年5月に要旨を発表している3)。また技術的詳細については論文集4)としても発表されている。



低炭素社会への移行は可能

本書は、第1部で、なぜ大幅な温室効果ガス削減が、そして日本で70%もの削減がいるのか、について述べる。研究の目標設定の国際的背景である。第2部では2050年に日本社会がどうなるかを2つのビジョンで描写し、その社会を二酸化炭素排出をいまから70%削減した低炭素社会にできるか、を検討する。結論として、技術の適正選択によってそれは可能である。第3部では、国土構築、都市、住宅、交通、情報化の各分野において、削減に向けたより具体的な対策を記述する。そして、日本の将来に低炭素社会化がもたらす意義をまとめる。

2007年2月の本研究中間成果1)発表の後、IPCC各部会報告2)によって低炭素社会移行の必然性が確認され、国際政策面では2008年洞爺湖サミットでの主要検討項目として、低炭素社会が討議されることとなった。その間この研究成果は、政府・政党・地方自治体、多くのNGO、市民団体に伝えられ、それぞれの次の行動へのヒントを与えてきている。本書が、日本低炭素社会構築を進めて、世界の気候安定に役立つことを願っている。

最後になったが、本書が世に出るよう支援していただいた多くの方々に著者一同を代表して心からお礼申し上げたい。プロジェクトのアドバイザーの皆様の適切なご助言のおかげで全体の方向がまちがいないものになった。本書のもとになった研究は、環境省地球環境研究総合推進費によるものである。担当の環境省地球環境局研究調査室の皆様には、研究計画構築時、日英共同プロジェクト化、そして戦略研究として政策との連携に関してタイミングのよい助言をいただき、研究の意義が高められた。森淳子さんをはじめとする国立環境研究所スタッフの4年間にわたる日夜をとわぬ支援には頭の下がる思いである。時宜を得た出版ができたのは、日刊工業新聞社出版局の皆様の激励の賜物である。

そして故森田恒幸氏に本書をささげたい。氏はすでに京都議定書論議のときから日本の長期削減戦略を検討し、今回京都議定書期間以降の国際枠組み検討の軸として本研究の構想づくり、モデル開発を進め、研究者チームを育成してきた。その成果を見る前に急逝されたことはまことに痛恨のきわみである。氏の薫陶を受けた研究者たちは本書によって、氏の遺志の一部でも受け継ぐことができればとの思いを一にすることであろう。

[西岡 秀三、藤野 純一]









1)第4次報告書要約和訳は、気象庁、環境省、経産省のホームページから入手可能。IPCC報告書はすべてWebで公開されている。3部会の報告書本編はそれぞれに800ページにのぼる。各部会の政策決定者用要約(Summary for Policy Makers)、および3部会報告をまとめた統合報告書(Synthesis Report)が一般に膾炙している。ほかに環境庁地球環境部監修(1996):IPCC地球温暖化第二次レポート、中央法規、p.128、気象庁・環境省・経済産業省監修(2002):IPCC地球温暖化第三次レポート、中央法規、p.289

2)「2050日本低炭素社会」プロジェクトチーム(2007):2050日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討、2007年2月、国立環境研究所、p.19

(Web site: http://2050.nies.go.jp/interimreport)

3)「2050日本低炭素社会」シナリオチーム(2008):低炭素社会にむけた12の方策、2008年5月国立環境研究所、p.25(website http://2050.nies.go.jp)

4)西岡秀三他(2008):低炭素社会のビジョンと実現シナリオ、地球環境vol.12、No.2/2007 国際環境研究協会、p.230

買い物かごへ