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実際の設計選書
リコールに学ぶ
−なぜオシャカを作ったか−

定価(税込)  3,456円

著者
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サイズ A5判
ページ数 320頁
ISBNコード 978-4-526-05848-6
コード C3053
発行月 2007年04月
ジャンル 機械

内容

本書は、自動車に関する様々なリコール事例を「失敗学」の立場から分析し、そもそもリコールとは何か、リコールの原因となった不具合にはどんな背景やタイプがあり、どのように対処すればリスクを抑えられるのか、あるいはリコールの判断をどうするかなどの問題を、事例を中心にわかりやすく解説した本。

畑村洋太郎  著者プロフィール

畑村 洋太郎(はたむら ようたろう)
1941年生まれ.東京大学工学部機械工学科修士課程修了.
東京大学大学院工学系研究科教授を経て,現在工学院大学グローバルエンジニアリング学部教授,東京大学名誉教授.
2001年より畑村創造工学研究所を主宰.
2002年より特定非営利活動法人「失敗学会」を立ち上げ初代会長に就任.
著書に,「続々・実際の設計 失敗に学ぶ」(編著・日刊工業新聞社),「失敗学のすすめ」(講談社),「決定版 失敗学の法則」,「決定学の法則」(文藝春秋),「直観でわかる数学」,「続・直観でわかる数学」「技術の創造と設計」(岩波書店)などがある.

内崎 巌  著者プロフィール

内崎 巌(うちざき いわお)
1947年生まれ.東京大学工学部機械工学科卒業.
(株)竹中工務店に27年間勤務した後,1998年,50歳を機に独立して(有)内崎技術事務所を設立し,現在に至る.(株)竹中工務店では技術研究所で建設機械,とくに基礎工事用機械,および建設ロボットの研究開発に従事.独立後は,国の調査研究や民間企業の研究開発指導の仕事をしている.著書に,「21世紀のロボット」(共著・工業調査会),「創造的技術者のための研究企画」(共著・日刊工業新聞社)がある.技術士(機械部門).http://homepage2.nifty.com/uchizaki/


目次

まえがき  
自動車リコールは失敗知識の宝庫  
A編 リコール論  
第1章 リコールとはどんなものか  
  1.1  リコールとはどんなものか  
  1.2  リコールでは何をどうするか  
  1.3  リコールはなぜ必要か  
  1.4  リコールの技術的意味  
  1.5  リコールの社会的意味  
  1.6  リコールと文化  

第2章 リコールの全体的傾向  
  2.1  リコール件数と対象台数の長期推移  
  2.2  リコール件数の最近の傾向  
  2.3  対象台数の最近の傾向  
  2.4  2004年度のメーカー別リコール件数  

第3章 リコール原因の究明  
  3.1  3現主義を基本にする  
  3.2  自動車のリコール原因調査・分析検討  
  3.3  海洋開発・宇宙開発の事故調  
  3.4  ドアプロジェクト  
  3.5  失敗には目に見えない効果がある  
B編 不具合の原因には何があるか?  

第4章 自動車の不具合とはどんなものか?  
  4.1  リコールになる不具合,ならない不具合  
  4.2  故障の影響が軽微な不具合,重大な不具合  
   (1) 故障の影響が軽微な不具合の例:スイッチの導通不良による制動灯の不点灯  
   (2) 故障の影響が重大な不具合の例:固定ボルトが抜けて,後部座席が脱落  
  4.3  初期故障期の不具合,偶発故障期の不具合,摩耗故障期の不具合  

第5章 不具合はどんな脈絡で起こるか?  
  5.1  不具合をめぐる因果関係を整理する  
  5.2  隠れた脈絡1:目に見える因果関係の陰に背景原因が隠れている
  5.2.1 公表情報の不足部分を補う意見や推測の追加  
  5.2.2 背景原因情報はなぜ必要か?  
  5.3  隠れた脈絡2:複数原因が重なった時に故障は起こる  
  5.3.1 初期の故障における複数原因の重なり方  
  5.3.2 偶発期の故障における複数原因の重なり方  
  5.3.3 摩耗期の故障における複数原因の重なり方 

第6章 届出られたリコール事例を分析する  
  6.1  対象台数はどのくらいか,届出までの日数はどのくらいか?  
  6.2  どんな車種が対象になっているか?  
  6.3  どんな装置で不具合が起こっているか?  
  6.4  どんな要素部品・要素作業・素材が引金原因になっているか?
     …“ブラブラもの”と“ボルトナット”が多い  
  6.4.1 キーワード分析(その1):1996年度~2000年度における270事例の分析  
  6.4.2 キーワード分析(その2):2000年度~2002年度における300事例の追跡分析  
  6.5  “ブラブラもの”と“ボルトナット”がらみの不具合とはどんなものか?  
  6.5.1 ブラブラもの類型とボルトナットの締結がらみ類型にはどんなタイプがあるか?  
   (1) ブラブラもの類型の細分類  
   (2) ボルトナットの締結がらみ類型の細分類  
  6.5.2 ブラブラもの類型とボルト・ナットの締結がらみ類型はなぜ多いのか?  
   (1) 四輪車最終組み立て工場の現地調査  
   (2) 二輪車最終組み立て工場の現地調査  
   (3) ブラブラものが多い理由(背景原因)  
   (4) ボルト・ナットの締結がらみが多い理由(背景原因)  
  6.6  リコールに学ぶ  

第7章 多くのリコール事例を調べてわかったこと  
  7.1  共通する背景でまとめてみると教訓が見えてくる  
  7.2  背景原因の11の典型例  
  7.3  背景原因を産業のライフサイクルと結びつけるとどうなるか?  
  7.3.1 成長し続けるわが国の自動車産業  
  7.3.2 主要な背景原因の産業のライフサイクルへの位置づけ  
C編 リコールで学んだ知識  
第8章 人は誰でも間違えるという性質に起因する不具合  
  8.1  大量生産製造工程において毎日繰り返し行われる手作業に起因する不具合  
  事例1 排気管の熱のため空気圧用ナイロンチューブが溶損  
  事例2 電気配線の張り方が緩すぎたために,端子が折損  
  事例3 電気配線の張り方がきつすぎたために,断線した  
  事例4 車軸の横ずれを拘束するVロッドの固定ボルトが緩んで,タイヤが車枠に接触  
  事例5 充電式ドライバーの電池残量不足で車輪固定ナットのゆるみ防止の小ネジが緩み,脱輪  
  事例6 マーカーのインクがシーリングワッシャー座面に垂れて,燃料漏れ  
  8.2  設計や工程の変更,更新,調整に伴う非定常作業に起因する不具合  
  事例7 トランク蓋の繰り返し開閉で電気配線の弯曲部が断線その①  
  事例8 トランク蓋の繰り返し開閉で電気配線の弯曲部が断線その②  
  事例9 配索ノウハウを蓄積している大手自動車メーカーでも派生車に改造すると 
  事例10 経験の浅いエンジニアリング会社が改造車の配索を設計すると  
    類似事例 H2Aロケット(6号機)の打ち上げ失敗の一因はブラブラものの処理   
  事例11 熟練作業者から遅刻した新人作業者への引継ぎで思い込みがあり,部品の組みつけを忘れた  
  事例12 刃物交換に伴う刃物位置微調整作業でテンキーを打ち込みミス 

第9章 自動車産業の成熟化に伴う不具合  
  9.1  設計基準・試験条件の不備に起因する不具合  
  事例13 坂道の多い配送地域に限定して使用されている宅配車で,車輪の上下動を吸収する部材(スタビライザー)を車枠に固定する部 材(ブラケット)が破損  
  9.2  チェックを他人任せにしたことに起因する不具合  
  事例14 引っ掛かりのないホース口金具から油圧リターンホースが抜けた  
  事例15 法規を満たしていないため公的審査で不合格となった事例群  
   (1) 事例15―1:点滅器  
   (2) 事例15―2:ステッカーの貼り付け位置  
   (3) 事例15―3:ルーフエアースポイラー  
   (4) 事例15―4:ホイールキャップ  
  9.3  生産体制の複雑さに起因する不具合  
  事例16 不具合品が取り付けられているのに対策部品取り付け済みと誤判断し,対象車両漏れで再リコール  
  9.4  製造設備・工具の更新遅れ,メインテナンス不良に起因する不具合 
  事例17 排水ポンプが故障しているとは知らずに操業し続け,汚れた水で塗装直前の部品を洗浄したため,コイルスプリングが腐食して       折損した  
    類似事例 ホイールボルトの折損   

第10章 揺籃期の技術であることに起因する不具合  
  10.1  未知の領域における試行錯誤に起因する不具合  
  事例18 停車中に,アクセルを踏み込んだわけでもないのにエンジン回転数が高くなった  
    類似事例 自動車が勝手に発進した   
  事例19 8マイクロ秒間の想定外操作のためリヤディファレンシャルギヤが焼き付いた  

第11章 マーケットの拡大がもたらした不具合  
  11.1  国内での新しい用途に起因する不具合  
  事例20 高規格救急車で,アイドリング時における想定を越えた過大電流のため樹脂部品が溶損した  
  事例21 高規格救急車で,走行中の高い電気負荷と夏季の高いエンジンルーム温度という悪条件が重なり,樹脂部品が溶けた  
  事例22 連続超低速運転のため潤滑油がいきわたらず,変速機ベアリングが焼き付いて破損し,走行不能となった  
  11.2  海外マーケットでの想定外の使用条件に起因する不具合  
  事例23 凹み路面が多い道路を繰り返し走行し,二輪車のホイールのスポークが破断  

第12章 部品の海外調達や生産拠点の移転に伴う不具合  
  12.1  ものづくり文化や風土のちがいに起因する不具合  
  事例24 油圧ホースの口金とホースとの組み合わせが不適切で油圧ホースが口金から離脱した  
  事例25 海上輸送に備えて防錆油をブレーキペダルに塗ったため,制動灯用スイッチが作動不良となった  
    類似事例 ブレーキペダルに塗布されたグリースによる不具合   
  12.2  国内工場の移転・組織の再編に起因する不具合  
  事例26 電気配線の断線で,走行中のモータグレーダのエンジンが停止し,再始動不能となった  

第13章 その他の気になる不具合  
  13.1  その他の気になる不具合  
  事例27 あふれ出たバッテリー液が飛散して,ブレーキパイプが損傷  
  事例28 赤熱した針金がエンジン端部から飛び出して出火  
    類似事例 バッテリーの液漏れ   
  事例29 油圧ジャッキ両端のシリンダブロックを横から固定し,油漏れ  
   (1) 担当者は何をどう考えて,この不具合が起こったか?  
   (2) 設計者の想像力が問われている  

第14章 リコールで学んだ知識をかみくだいて他産業へ展開する  
  14.1  コンクリートポンプ車ブーム折損による死傷事故―正常に動いて当たり前な装置やシステムの隠れた部分には長期間注意が払        われず疲労が蓄積されている  
  14.2  H2A―6号機の打ち上げ失敗―単品生産となるビッグプロジェクトでは,全体に対して責任のとれる統括者,つまりプロジ        ェクトの社長をつくれ  
D編 死傷事故が起こってから届けられたリコール
―――なぜ,死傷事故を回避できなかったのか?  
第15章 何を基準にリコール判断が下されるか?  
  15.1  公表データから見えるリコール判断の基本型  
  15.2  車種によって異なるクレーム率の下限  
   (1) 乗用車  
   (2) トラック  
   (3) 建設機械・荷役機械  
  15.3  一日あたりの生産台数がクレーム率に及ぼす影響  
  15.4  交通弱者が抱く不安 …クレーム率だけを見ていると落とし穴にはまる  

第16章 なぜ,リコール判断を先送りするか?  
  事例1 走行中,急にハンドルが逆に切れて,対向車と衝突した  
  事例2 走行中,トラックのタイヤが脱落して,歩行者を直撃した  
  事例3 走行中,プロペラシャフトが脱落して,トラックがコンクリート壁に激突  
   (1) 事故情報,クレーム情報に対する三菱ふ社の姿勢について  
   (2) 三菱ふ社におけるリコール判断のガイドライン―不良率でなく故障率でクレーム情報を監視したのでは重大事象の予兆情報が切       り捨てられる  
   (3) 不具合件数を累積件数で見ないことの危険性  
  事例4 走行中,ハンドルがきかなくなって,対向車に衝突  
   (1) 問題意識  
   (2) トヨタのリコール放置問題とは  
   (3) 公表された事実の要点  
   (4) 三菱ふ社のタイヤ脱落およびプロペラシャフト脱落リコールとの共通点  
   (5) リコール放置の真の原因は何か?  

第17章 死傷事故を回避するにはどうすべきか?  
  17.1  リコール決定の任には経営者があたるべし  
  17.2  ポツリポツリと起こる不具合にどう対処すべきか?  
   (1) メーカーの論理ではなくユーザーの視点で故障の重大性を評価する  
   (2) 過去の事例を分析して類型に整理し,類型に共通する背景原因を知識として蓄積する  

E編 リコールを生かす  
第18章 すでにあるリコールから何を学ぶか  
  18.1  「ありうることは起こる」と考えなければならない  
  18.2  「3現主義」に立つ  
  18.3  危険の芽を摘み取るにはどうすればよいか  
   (1) 「逆演算」で考える  
   (2) 「仮想演習」を試みる  
   (3) 「他分野や他社の知識」を援用する  
   (4) 「目に見えないリンク」を探す  
   (5) 「目利き」たちによるデザインレビューを実施する  

第19章 失敗知識の共有を具体化するにはどうしたらよいか  
  19.1  「わかる」ということはどういうことか  
  19.2  失敗経験をどのように他人に伝えるのか  
  19.3  知識共有のためのさまざまな手法  
   (1) 「アウトプット型の学習」で体験を共有する  
   (2) 着目すべきポイントを絞った「絵や言葉」で情報を共有する  
   (3) 暗黙知の表出と共有をする  
   (4) 「動態保存」を実施する  
   (5) 「失敗展示会」を開催する  
   (6) 「小さな不具合」のうちに社内外の力を集めて徹底調査する  

付章 リコール制度とは  
  1. 故障発生から回収・無償修理にいたる流れ  
  2. リコールの目的と種類  
  3. リコール制度のポイント  
  (1) リコールとなる要件  
  (2) 準拠する法律など  
   例1 1951年の運輸省令第六十七号に定められている保安基準   
   例2 追加された保安基準   
  (3) 届出に際し~自動車メーカーがなさねばならないこと  
  4. 留意事項  

あとがき  

参考文献  

索 引  

蛇 足
   日本は技術の野蛮国!?  
   気をつけよう甘い言葉と暗い道  
   技術者の質の低下はここまできている  
   企業内教育で技術者がモノをいじる体験を!  
   火事場のくそ力では限界がある  
   ネットワーク化する白物家電の危険  
   人づての情報は役に立たない  
   指示待ち人間は失敗しない?  
   美に接する心構え  
   サラリーマン部長の悲哀  

はじめに

 自動車が思った通りの性能を出さず,それが危険をともなうようなときに,売り出されて使われている製品全体を回収し,修理するようなシステムがある.これが自動車のリコールである.そして多くの場合,単純に「リコール」といえば,この自動車のリコールを指す場合が多い.
 平成13年年度(2001年度),及び平成15年度(2003年度)の2年度にわたり,国土交通省から筆者(畑村)に,リコールの原因調査分析委員会の委員長として調査活動を取りまとめるように依頼があった.そしてそれを引き受けた.自動車のリコールがなぜ起こるのかの原因を調査し,分析して,同じリコールが起こらないように,すでに起こってしまったリコールについて,その知識を正しく役立てるような方向に持っていくにはどうすればいいかについての調査をするように依頼された.この活動は間に1年のブランクをはさみ,のべ2年間行なわれた.

 リコールがなぜ起こるのか,そしてどうすればいいのかについて,その結果をまとめようとしているうちに,三菱自動車のリコール隠しの問題が起こった.第1回目は2001年にそれが問題になったが,そのときはそれで通り過ぎた.2度目のリコール隠しの問題が2002年に起こった.リコールのこの原因調査分析委員会の活動はこの事件とはまるで関係なかったのだが,国土交通省のなかにあるリコール対策室が主体となって動いていたために,結局この委員会の活動をはじめのもくろみ通りにやり尽くすことができなかった.

 一方筆者は,リコールは非常に重要な活動で,特に工業製品が社会のなかに取り込まれ,それが社会に対して大きな役割を果たしているときに,リコールの制度が健全に動くことは非常に大事なことだと考えていた.実際,ユーザーからのクレームを受けたメーカーはリコールを届出るとともに,不具合の原因を調べて,その結果を生産の仕方の改善や新技術開発にフィードバックし,より安全で高い信頼性を備えた車,国際市場において強い競争力を備えた車を世に送り出すことに成功している.この品質向上のスパイラルアップが日本車の強さの源泉なのである.そして,この良循環はユーザーとメーカーとの建設的な対立関係を通してのみ実現されるのであって,それが社会システムとしてうまく回るための枠組みがリコール制度にほかならない.

 こうした思いを抱いてこの委員会に臨み,そこで得られた知見を世の中に情報発信することを始めから考え,またそのことが公になることを前提にしてこの活動を行なっていた.ところが三菱自動車のリコールの影響があまりに大きかったために,国土交通省のリコール対策室も,この報告書を取りまとめるだけで手いっぱいで,とてもその内容を畑村の考えていたようなかたちで公にするところまでは手が回らないということで,本のかたちで発表することは沙汰止みになってしまった.

 一方,それから時間が過ぎ,現在2007年の4月であるが,リコールのような自動車の失敗についてではなく,日本では非常に大きな技術的な失敗が起こった.たとえば2002年以降であっても,宇宙に打ち上げたロケットが落ちてしまったり,人工衛星がうまく動かなかったり,また深海底の調査がうまくいかなくなったりすることが起こった.さらに2004年には,東京の六本木で回転ドアに男の子が挟まれる事故が起こったり,その次の年には福知山線の脱線事故が起こり,またその次の年には羽越線の脱線事故が起こるといったように,大量の交通機関についての事故が相次いだ.

 また2006年にはパロマの給湯器による一連の一酸化炭素中毒死事故が長年に亘って起こり続けていたことが明らかになり,リコールを含め工業製品の取扱いについて社会の考え方が大きく変ってきていることを痛感させられる事件が相継いだ.

 このようなことの全体を見ていると,やはり人が乗ったり動いたりするものをつくるとき,またそれを運用するときに,人が必ず考えておかなければいけないことが考えられていなかったり,きちんと手を尽くしてつくっていなければいけないものがつくられていなかったり,また,考えるべきこと,想定すべきことをきちんと考えた上でその運用をしていなければいけない,そういった事柄をみんなが全体としてきちんと認識し,それを運用していないために,さまざまなかたちの事故が起こっていると考えるようになった.そこでいったんは諦めていた『リコールに学ぶ』という本を,やはり再び何かのかたちで出版することを考えた.

 このリコールの原因調査分析委員会の活動で多くのメーカーや協会などが協力をしてくれた.もちろん国土交通省は依頼主であるから,大いに協力をしてくれた.そしてその調査分析担当者のなかに,本書の著者の一人である内崎巌氏がいた.ずっと昔,彼が東京大学工学部機械工学科の学生のときに筆者の研究室におり,卒業後に竹中工務店に勤めていた間も,筆者とは長くさまざまな共同研究を行なってきた.そして人工物に対する考え方や,それをつくるときに起こる事柄,またそれをどう使うかということについて,30年来さまざまな議論を共にやってきた.そしてその一つが,もう10年前にもなるが,日刊工業新聞社から出した『実際の設計』シリーズでの研究企画についての本『創造的技術者のための研究企画』として出版されている.技術を技術者の狭い範囲からだけ見るのではなく,もっと広い範囲から見て,そしてどうあるべきかを考えていないと,正しく技術を理解することができないという意味では,内崎氏も筆者も同じ考えを持っている.そこで,一旦は諦めていたリコールの本を彼とともにまとめ直すことにした.そのようにしてでき上がったのが本書である.

 この本は,リコールがどんなもので,どんなことが起こっているかを明らかにするだけではなく,そこから何を学び取るか,どのように生かすか,ということに主眼が置かれている.本書はA,B,C,D,Eの各編から成り立つており,A編「リコール論」とE編「リコールを生かす」は小生畑村が執筆した.そしてB編「不具合の原因には何があるか?」,C編「リコールで学んだ知識」,D編「死傷事故が起こってから届けられたリコール」は内崎氏が執筆した.そしてB編からD編までの記述の要所々々に畑村がコメントをするというかたちで,知識の立体化ができるように試みた.

 また,個々の事例の記述に際しては,他分野の読者でも失敗知識を利用しやすい格好に表現することに努めた.失敗情報は隠れたがるという性質を本来的に備えている.そのため,メーカーから公表される情報は起こったことの全体像を理解するには不十分な表現に流されやすい.往々にして,事柄の脈絡にジャンプがあったり,肝心なポイントがぼけていたり,必要な要素に虫食いがあったりする.これを補わなければ,利用する人の思考回路に沿って整理された失敗知識とはいえない.そこで,公表情報に,多くのリコール事例から抽出された知見を加味し,さらに,筆者のものづくり経験や技術的常識に基づく推測や創作を追加して,全体としてどういうことがどのような脈絡で起こったのか,どういう意味があるのか,他産業の人がそこから何を学んだらよいか,が記憶に残るように公表情報を加工した.

 このようにしてでき上がった『リコールに学ぶ』と題する本書が世の中で広く読まれ,リコールの制度自身が正しく理解され,そしてリコールが悪いもの,いけないものという考えや,だめなものがリコールになる,だからその製品はだめだ,というような考えではなく,人が懸命につくり,十分に使い尽くし,そしてそれによって社会が利便を得られるようにするには,リコールという制度そのものが必須であること,またそれを使うことによってのみ技術が進歩するということを,広く皆さんに知ってほしいと願っている.

2007年4月 
畑村洋太郎 

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