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実際の設計選書
ドアプロジェクトに学ぶ
−検証 回転ドア事故−

定価(税込)  3,672円

著者
サイズ A5判
ページ数 256頁
ISBNコード 978-4-526-05706-9
コード C3053
発行月 2006年07月
ジャンル 機械

内容

2004年3月、六本木ヒルズで起こった大型回転ドアによる男児の死亡事故は、正しい設計が行われないとどのようなことが起こるかという問題を改めて示した。すべての設計者にとってきわめて示唆に富む教訓となった。本書は実際に起こった事故を、再現実験を通して冷静かつ仔細に検証することで事故の原因を探り、そこから設計者が設計をするとき、何がその設計の肝であり、なにが付加的な部分なのか、要求事項を睨みながら本質的な部分と非本質的な部分を腑分けする必要性を説く。また、06年6月発生したシンドラー社製のエレベータに関する著者の知見を盛り込む。

畑村洋太郎  著者プロフィール

工学博士
1941年 東京生まれ
1966年 東京大学工学部機械工学科修士課程修了.(株)日立製作所入社,足立工場に配属,ブルトーザの開発設計に従事
1968年 東京大学工学部助手
1983年 東京大学大学院工学系研究教授
2001年 退官,工学院大学教授,畑村創造工学研究所開設
2002年 特定非営利活動法人「失敗学会」を設立
現在 東京大学名誉教授,工学院大学国際基礎工学科教授
(株)畑村創造工学研究所代表
主な著作 「実際の設計」
     「続・実際の設計」
     「続々・実際の設計―失敗のすすめ」
     「実際の設計第4巻―こうして決めた」
     「実際の設計第5巻―こう企画した」
     「TRIZ入門」
     「実際の情報機器技術」
     「設計のナレッジマネジメント」 以上,日刊工業新聞社
     「設計の方法論」 岩波書店
     「失敗学のすすめ」 講談社
     「機械創造学」 丸善
     「直観でわかる数学」 岩波書店
     「続 直観でわかる数学」 岩波書店 など

目次

はじめに

序章 なぜ事故が続くのか
  1.安全は実現したい課題  
  2.危険学の必要性  
  3.原因究明と責任追及の関係  

第1章 なぜドアプロジェクトを立ち上げたか
  1.1 なぜドアプロジェクトを立ち上げたか  
  1.2 ドアプロジェクトを行った趣旨  
  1.3 ドアプロジェクトの概要  
(1)第三者による原因調査および広い分野の専門家の参加の必要性  
(2)ドアプロジェクトに参加したメンバー  
(3)ドアプロジェクトが調べたドア  
(4)ドアプロジェクトの日程と活動内容  
(5)事故を起こした自動回転ドア  

第2章 こうして事故再現実験を実施した
  2.1 実験に対する考え方  
(1)実験データに対する新しい考え方  
(2)全分野を同一の測定基準で測定することの必要性  
(3)実験条件の設定  
(4)現象解明のために行った実験の3段階  
(5)実験に使用したセンサ  
  2.2 ダミー人形の詳細  
(1)ダミー人形が必要な理由  
(2)実験に使用したダミー人形  
  2.3 実験の具体的方法  
(1)力の測定  
(2)実験の遂行  

第3章 それぞれのドアでどんなことがわかったか
  3.1 予察実験  
  3.2 回転ドア  
   3.2.1 大形自動回転ドア  
(1)大形自動回転ドア精密定量化実験  
(2)大形自動回転ドアダミー人形実験  
   3.2.2 小形手動回転ドア  
(1)小形手動回転ドアの精密定量化実験  
(2)小形手動回転ドアダミー人形実験  
   3.2.3 回転ドアの実験で得られた知見のまとめ  
(1)発生する力の威力  
(2)ドアについているセンサ  
(3)速度との関係  
  3.3 エレベータドア・スライドドア 
   3.3.1 エレベータドア 
(1)エレベータドアの精密定量化実験  
(2)エレベータドアのダミー人形実験  
   3.3.2 スライドドア  
(1)スライドドアの精密定量化実験  
(2)スライドドアのダミー人形実験  
   3.3.3 エレベータドア・スライドドアで得られた知見のまとめ  
(1)“小さな力”しか出ない  
(2)退避機構  
(3)回転ドアとは違う技術の系譜  
  3.4 シャッタ  
   3.4.1 シャッタ  
(1)シャッタの精密定量化実験  
(2)シャッタのダミー人形実験  
   3.4.2 学校シャッタ  
(1)学校シャッタの精密定量化実験  
(2)学校シャッタのダミー人形実験  
   3.4.3 シャッタ・学校シャッタの実験で得られた知見のまとめ  
(1)“大きな力”しか出ない  
(2)インチキについて  
(3)ダミー人形の訴求力  
  3.5 建物のドア  
   3.5.1 事務所ドア  
(1)鉄製開き戸の精密定量化実験  
(2)アルミニウム製開き戸(Ⅰ)の精密定量化実験  
(3)アルミニウム製開き戸(Ⅱ)の精密定量化実験  
(4)引き違い戸の精密定量化実験  
   3.5.2 骨付肉を使った事務所ドアの視認実験  
   3.5.3 建物ドアの実験で得られた知見のまとめ  
(1)周囲を考えた身の処し方  
(2)大きな力が発生するからくり  
(3)ドアクローザの効果  
(4)風の影響  
  3.6 鉄道のドア  
   3.6.1 JR東日本在来線ドア  
(1)JR東日本在来線ドアの精密定量化実験  
(2)JR東日本在来線ドアのダミー人形実験  
   3.6.2 JR東日本新幹線ドア  
(1)JR東日本新幹線ドアの精密定量化実験  
(2)JR東日本新幹線ドアのダミー人形実験  
   3.6.3 電車ドアの実験で得られた知見のまとめ  
(1)運動エネルギ  
(2)緩衝材  
(3)ベビーカー  
  3.7 自動車ドア  
   3.7.1 自動車ドアの精密定量化実験  
   3.7.2 自動車ドアのダミー人形実験 
   3.7.3 自動車ドアの実験で得られた知見のまとめ  
  3.8 精密定量化実験の結果のまとめ  
(1)精密定量化実験で測定された挟み力の波形の比較  
(2)精密定量化実験で測定された挟み力の最大値  
  3.9 ダミー人形実験の結果  
(1)ダミー人形実験で測定された挟み力の波形の比較  
(2)ダミー人形実験で測定された挟み力の最大値  
(3)ダミー人形実験で測定された頭が挟まれる過程  
(4)ダミー人形実験の意味  

第4章 ドアプロジェクトで得られた知見
  4.1 ドアプロジェクトで得られた知見  
(1)手動と自動  
(2)ドアで大きな力が発生するメカニズム  
(3)10ジュール則 ―発生する力の最大値についての暗黙知  
  4.2 技術の系譜と来歴調査  
(1)大形自動回転ドアの来歴と技術内容の変遷  
(2)回転ドアの変遷 ―中心駆動から外周駆動へ変化  
(3)技術の系譜 ―回転ドアに対する要求の違い  
(4)付加設計  
(5)来歴の重要性 
  4.3 安全なドアの実現のために 
(1)設計要求とその実現 ―正しい要求には必ず解がある 
(2)本質安全と制御安全  
(3)衝撃力を小さくするための工夫  
(4)危なくない回転ドアの数値計算  
(5)危なくない回転ドアへの工夫  
(6)衝突の衝撃力を減らし挟み込みを防ぐ回転ドアの試みの例  
(7)回転ドア撤去後のドラフト対策の考えの例  
(8)軽微な事故が重大事故に繋がっているという認識  

第5章 事故のない設計のために
  5.1 隙間領域の発生 ―隙間領域で事故が起こる  
  5.2 企画の設計者が頭に描かなければならない像  
  5.3 安全を実現するための要件の階層性  
  5.4 企画設計者が考慮すべき範囲  
  5.5 “あり得ることは起こる”という失敗学の知見  
  5.6 実際に起こっていることを皆が知るためのシステム  
  5.7 事故を風化させないための工夫  
  5.8 愚直な努力が大惨事を防いだ  

終章 技術に対する正しい認識が安全を生む
  1.技術は変わる  
(1)シンドラー事故の推察  
(2)制御系の事故原因  
(3)駆動方法が変わっていく  
  2.技術に対する考え方を変える  
(1)制御安全の見直し  
(2)ユビキタス社会の危うさ  
(3)人間と機械の分担領域で起こる問題  
  3.考え方を変える  
(1)仮想演習  
(2)逆演算  
(3)暗黙知の表出  
(4)個人知と共有知  
(5)出力形の学習  

おわりに  
[ドアプロジェクトからの情報発信一覧]  
 
索引 

カラーグラビア ■ドアプロジェクト
        ■子供のための危険学
        ■シンドラー社製エレベータの検証

はじめに

 本書は,2004年3月に六本木ヒルズの森ビルで起こった大形回転ドアによる男児の死亡事故を契機として,約1年にわたって行ったドアプロジェクトの活動内容とそこで得られた知見をまとめ,設計における重要な観点について述べるものである.ドアプロジェクトとは,通常行われているプロジェクトのように,どこかの機関あるいは企業がスポンサーとなり依頼されたという方式ではなく,失敗学会会長である筆者一個人が始め,自分の意思で集まった人たち“ドアプロジェクトのメンバー”が1つのプロジェクトを1年かけて行いやり遂げた活動である.

 本書の構成は,大きく分けて次のようになっている.
 まず序章では,近年頻発する事故について,事故が起きる原因やその課題,“危険学”による原因究明の必要性を述べる.
 第1章ではドアプロジェクトの概要を示す.広い分野の専門家が集まることの必要性,第三者による原因調査の必要性,またドアプロジェクトがどのようなドアに関して調査をしたか,を記す.さらに活動の記録や外部に対しての情報発信を述べる.
 第2章では,ドア実験の概要として,実験に対する考え方や実際の実験として“予察実験”,“精密定量化実験”,“ダミー人形実験”の3段階に分けて行ったこと,また実験の大きな特徴として,頭が挟まれたときに発生する力を正確に測定するためにダミー人形を新たに作ったことやその構造等について詳細に記す.
 第3章では,回転ドアから自動車ドアまで,さまざまなドアに対する実験を紹介する.それぞれの実験について,実験方法の説明,その結果,波形のおおよその特徴など得られた知見をまとめ,詳しく報告する.
 第4章では,ドアプロジェクトの実験から得られた知見を示す.その主なものは,“あり得ることは起こる”という失敗学の知見,実験をしたことで明らかになった運動エネルギの上限について“10ジュール則”があるということ,失敗学で提唱しているさまざまな現象がドアについてどのように現れているか,を記す.また,回転ドアに何が起きたのかを技術の系譜と来歴調査として記す.大形自動回転ドアがヨーロッパで発明され日本に移入されるあいだに,どのような変化が起きたかを調べ結果を記してある.大事なものは忘れられ,他の要求に応じるものが付け加えられてあの恐ろしい“モンスター”ができあがった来歴を明らかにしていく.さらに設計論的に,典型的な“付加設計”のまずさが起きていることを記してある.そして,安全なドアの実現のために,実験で得られた知見を元にして,さまざまな考察を行う.“本質安全”と“制御安全”の取り違い,衝撃力を小さくするための工夫について記す.次のドアの開発を行う際の解決策の提案も示す.
 第5章は,今までの設計にはどのような問題点があり,設計者が頭の中に描かなければならないものとはどういうものか,また,事故に対する認識を深める動態保存の必要について記す,
 最後に終章として,技術が発展進歩していくに従って,技術者が考え方を変えて安全に取り組む姿勢や思考について述べる.
 以上のような構成内容で,ドアプロジェクトについて解説し,さらに事故を起こさないための設計とは何かを浮き彫りにしていく.

 2006年8月
ドアプロジェクト代表 畑村洋太郎 

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