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全固体電池入門

定価(税込)  2,160円

編著
著者
著者
サイズ A5判
ページ数 168頁
ISBNコード 978-4-526-07939-9
コード C3054
発行月 2019年02月
ジャンル 電気・電子

内容

昨年のトヨタの発表をきっかけに急激に注目の高まった全固体電池。従来のリチウムイオン電池よりも安全、長寿命、高性能といわれており、期待を集めている。本書は第一線の研究者が全固体電池のエッセンスをコンパクトにまとめた、初めての入門書である。

高田和典  著者プロフィール

(たかだ かずのり)
1986年 大阪大学博士前期課程修了、同年三重大学工学部資源化学科助手
1986年 松下電器産業
1991年 大阪市立大学 博士(工学)
1999年 無機材質研究所
2001年 物質・材料研究機構
2018年 同エネルギー・環境材料研究拠点 拠点長、現在に至る

菅野了次  著者プロフィール

(かんの りょうじ)
1980年 大阪大学修士課程修了、同年三重大学工学部資源化学科助手
1985年 大阪大学 理学博士
1989年 神戸大学 助教授
2001年 東京工業大学 教授、現在に至る

鈴木耕太  著者プロフィール

(すずき こうた)
2010年 東京工業大学 修士課程修了
2010年 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2013年 東京工業大学 博士課程修了 博士(理学)
2013年 東京工業大学 助教
2017年 JSTさきがけ研究員(兼任)、現在に至る

目次

はじめに

第1章 なぜ全固体電池か
1.1 蓄電池を取り巻く現状
1.2 リチウムイオン電池の課題と全固体電池の特徴

第2章 全固体電池開発の歴史
2.1 固体中におけるイオン伝導の発見
2.2 全固体電池の誕生

第3章 固体電解質の種類
3.1 銅イオン、銀イオン伝導性固体電解質
3.1.1 銀イオン超イオン導電体
3.1.2 銅イオン超イオン導電体
3.2 アルカリイオン伝導性固体電解質とその応用
3.2.1 アルカリイオン導電体
3.2.2 全固体型電池
3.3 リチウムイオン伝導性固体電解質
3.3.1 リチウムイオン導電体の歴史
3.3.2 リチウム系固体電解質の分類

第4章 全固体電池の現状
4.1 バルク型電池
4.1.1 銀系、銅系バルク型電池
4.1.2 リチウム-ヨウ素電池
4.1.3 硫化物型全固体電池
4.1.4 硫化物型全固体電池における正極界面
4.1.5 界面研究における計算科学の役割
4.1.6 硫化物型全固体電池の現状
4.1.7 バルク型全固体リチウム電池の展望
4.2 薄膜電池
4.2.1 薄膜電池の歴史
4.2.2 薄膜電池が示す全固体電池の可能性

第5章 全固体電池材料の評価法
5.1 材料合成
5.2 X線回折法
5.3 熱分析
5.4 Raman分光法
5.5 交流インピーダンス法
5.6 サイクリックボルタンメトリー
5.7 充放電試験
5.8 全固体電池内部の解析

第6章 全固体電池の展望

索引

はじめに

 本書を手にする読者の方々は、全固体電池や固体電解質に興味を持っていらっしゃるに違いないが、「固体イオニクス(Solid State Ionics)」という言葉を耳にされた方はそれほど多くはないかもしれない。この言葉は、固体内のイオン移動に関する基礎および応用研究分野を指すもので、電子や正孔が機能を担うものがエレクトロニクスならばイオンが機能を担うものはイオニクスであり、それが固体内で起こることから名づけられたものである。
 固体中をイオンが移動して電気を運ぶという現象は目新しいものに思われるかもしれないが、Funkeの総説(Sci. Technol. Adv. Mater., 14, 043502(2013))によると、固体イオニクスの歴史はファラデーの法則で有名なMichael Faradayにまでさかのぼるべきであるとされている。Faradayが銀の硫化物や鉛のフッ化物を加熱していくと融液状態にいたる前の固体状態においてもイオン伝導を示すことを発見したのは、1834年のことである。これが世界初の超イオン伝導相への相転移の発見であると位置付けられるのは、高温で酸化物イオンの伝導性を示すことが見出された安定化ジルコニアが固体酸化物形燃料電池(solid oxide fuelcell:SOFC)に応用され、ナトリウムイオンが伝導するβ-アルミナを電解質としたナトリウム-硫黄電池が開発されたのちの1976年のことである。
 その間にもたらされた大きな固体イオニクスの進展は、室温付近やさらに室温以下の温度域においても高いイオン伝導度を示す物質が開発されたことであり、“Solid-State Ionics”の名が冠せられた研究論文が発表されたのもこの頃(1971年)である。この論文は、室温で水溶液に匹敵するイオン伝導度を示すRbAg4I5を固体電解質として使用した電気化学セルにおいて、Ag2SeやAg2Te内における銀の拡散定数や不定比性を調べたものである。この電気化学セルの構成は紛れもなく全固体電池であり、固体イオニクスが高温作動型のSOFCやナトリウム-硫黄電池にとどまらず、室温作動型の電池をも包含する学術領域であることを明確に示すものであった。
 この研究論文は日本の研究者の手によるものであり、固体イオニクスの命名者は日本人ということになるわけであるが、全固体電池のもう一方の「電池」の部分に目を向けてみても日本人の貢献は明瞭である。現時点において蓄電池の販売金額の9割以上は鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池の3種類の電池によって占められているが、そのうちのニッケル水素蓄電池とリチウムイオン電池は日本のメーカーが世に送り出したものである。このように全固体電池の「固体」も「電池」も日本が世界をリードしてきた分野であり、全固体電池の研究、特にリチウムイオン電池に代わりうる次世代電池としての全固体電池の研究も日本を中心に発展してきたのも、その帰結としてごく自然な流れである。最近では自動車メーカーを中心とした研究プロジェクトにおいても全固体電池の開発が進められるようになり、このまま実用化に結び付くことを願ってはいるが、一方では海外における研究も活発化し、急追を受ける状態にいたっていることは否めない。
 汎用に足る全固体電池がいまだ実用化されておらず、全固体電池に関する学問も未完成なこの段階で、このような本を上梓することは時期尚早の感は否めない。実際に、本書は全固体電池開発のカギとなる材料である固体電解質においてどのようにすれば高いイオン伝導度を達成することができるか、全固体電池材料はいかにして接合すれば接合界面の抵抗を低いものとすることができるかなど、高い性能を有する全固体電池を実現するための明確な道筋を教えるものとはなってはいない。本書の大半は全固体電池開発の歴史に割かれており、そこに記された全固体電池の性能はすでに古めかしいものとなっている。しかしながら、全固体電池の開発においてこれまで何が行われてきたかを正確に知ることは、次になすべきことを知るための第一歩であり、それを可能とするものは全固体電池開発の先駆的な役割を担ってきた国に暮らすものの特典であろうとの思いで、本書をしたためたようなしだいである。本書を手にする読者の方々が、全固体電池開発における成果をあげられ、それでなくとも古めかしい本書が一刻も早く時代遅れのものとなることを切に希望する。
2019年2月
高田 和典

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