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下町ボブスレー 僕らのソリが五輪に挑む
大田区の町工場が夢中になった800日の記録

定価(税込)  1,512円

著者
サイズ 四六判
ページ数 280頁
ISBNコード 978-4-526-07180-5
コード C3034
発行月 2013年12月
ジャンル ビジネス

内容

 産業支援機関担当の一言をきっかけに、大田区の町工場経営者たちがノリで見たことも触ったこともないボブスレー製作に乗り出した。産官学を巻き込んだ一大プロジェクトでついに完成。好記録を残し、世界で闘えるソリに仕上げた。五輪出場に向けて奮闘した町工場の技術の確かさ、チームワークを支える信頼や絆など開発を実現に導く核心に迫る。

奥山 睦  著者プロフィール

(おくやま むつみ)

法政大学大学院政策創造研究科修士課程修了(政策学修士)。武蔵野美術大学実技専修科油絵専攻卒業。

出版物・WEBサイトの企画制作を主とする株式会社ウイル 代表取締役。
東京都大田区の女性経営者異業種交流会「TES」のメンバーの共同出資による、株式会社イーテスを設立。6年間の代表取締役を経て、現・取締役。
静岡大学発ソーシャル・ベンチャー、一般社団法人絆塾理事。

2013年、下町ボブスレーネットワークプロジェクトに参画し、各種イベントの支援、書籍執筆に携わる。

静岡大学大学院工学研究科客員教授。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。公益財団法人日本生産性本部認定キャリア・コンサルタント、メンタルサポーター。


著書に『「折れない」中小企業の作り方』(2012 日刊工業新聞社)、『改訂版 メイド・イン・大田区』(2008 静岡学術出版)、『職人の作り方』(2008 毎日コミュニケーションズ)、『大田区スタイル』(2006 アスキー)、『メイド・イン・大田区』(2005 サイビズ)など。
共著に『キャリア・チェンジ! 』(2013 生産性出版)など多数。

目次

第1章  それは2枚の書類から始まった
たった一人の大田区職員の思いからスタート
童夢カーボンマジックとの出会い
キックオフミーティング開催で課題が明らかに
ランナーの開発に東大大学院の支援を得る
童夢でソリの構造確認を行う
風洞実験で空力特性を確認
「下町ボブスレー」プロジェクトを世間に公表
開発状況報告会で仲間集めに奔走

第2章  わずか10日間で150点の部品が集まる
町工場によるボブスレー製作がいよいよ開始!
〈1号機製作秘話〉
追加の加工要請に応えて自分を磨き、伸ばす 大野精機
モノの移動が非効率でも溶接品は全部面倒を見る! フルハートジャパン
寸法精度の厳しい部品加工にあえて名乗りを上げる エース
ランナーを支える赤いブラケットに世界への飛躍を懸ける 松浦製作所
下町ボブスレー試作第1号機完成へ!

第3章  思いは確信に――長野でレコードを叩き出す!
試走への最終調整
下町ボブスレーがついに氷上デビュー
試走2日目に全日本選手権のタイムを上回る快挙
全日本選手権に向けての改修
初出場の全日本選手権で優勝!
男子チームによるテスト滑走

第4章  男子2人乗り用の2・3号機開発に向けて
日本連盟との包括協力協定締結で動き出す
ソチワールドカップを視察
ノースアメリカカップ出場に向けた1号機の改造
2号機製作説明会に約100社が集まる
初の海外レース参戦!
経験を糧に新たな解を引き出した2号機構造設計
限られた条件の中でベストな空力解析に臨む
ソチオリンピックを見据えた選手発掘へ協力
2・3号機製作発注会で新型ソリの仕様を発表

第5章  2度目の夏、2・3号機製作が始まる
五輪を目指す本丸のソリを仕上げる
〈2・3号機製作秘話〉
基準出しに長年のノウハウが活きるアクスル粗加工 東蒲機器製作所
最後に残った図面を引き受ける対応力で仕上げ加工を担当 大野精機
いきなりの練習用台車作成からアクスル部品の溶接まで 師岡鈑金製作所
普段は経験のない社外図面を読みこなして10部品を製作 大肯精密
新たな加工プログラムをつくる勉強の場として部品加工に挑戦 上田製作所
得意の精密深穴加工でフレーム製作に貢献 協福製作所
連携を支える町工場の横顔
悲願の国産ランナー製作
カルガリー戦に向けた改修
特急の改修に次ぐ改修、新規部品製作を取り仕切る
ボブスレー日本代表候補選手と下町ボブスレー2号機を披露

第6章  五輪への挑戦権
ボブスレー日本代表男子チーム・北米遠征へ
下町ボブスレー2号機が初滑走
本当のドラマはここからだ!
威信をかけた改修へのシナリオ
未来を切り拓くための布石

はじめに

大田区は「世界に冠たるモノづくりの町」と言われて久しい。2013年現在、約4000社の工場群が集積している。機械金属加工が全体の約8割を占め、精密加工、難加工が要求される部品製作に特化し、短納期に対応している。また、事業所の約8割が従業員9人以下だ。

 しかし、1983年の約9000社をピークに、大田区製造業の事業所数は減少を続けており、現在は当時の半分以下である。事業所数の減少の原因としては、産業構造の変化や経営者の高齢化による廃業や転業のほか、住宅地化の進展や取引先の区外または海外移転に伴い、規模を縮小しているケースが多い。これらの課題に直面しつつ、今後、この地域は活路を切り拓いていかなければならない。
 
そんな決してバラ色とは言えない大田区町工場から、産声を上げたのが、「下町ボブスレーネットワークプロジェクト」である。このプロジェクトの中核をなすのが30代、40代の若手経営者たちだ。そしてこの若手を支えるベテランの「匠」たちがいる。この層の厚さが大田区のモノづくりの強みと言えるのかもしれない。
 
国産初の2人乗り用ボブスレーのソリを製作するという、雲をつかむような話から1年。実際に「つくる」と大田区町工場にゴーサインを出してから、たった10日間で部品が集まり、下町ボブスレー1号機が完成した。そこからわずか3カ月あまりで全日本選手権で実戦デビュー、優勝を飾ったのである。やがて改修を繰り返し2・3号機をつくり上げ、2014年のソチオリンピックを目指すようになる。

 そして今回、私は不思議な縁に導かれて、「下町ボブスレーネットワークプロジェクト」のメンバーと活動をともにしていくことになる。

 2013年1月に、たまたまプロジェクトのメンバーが集まる新年会にご招待を受けた。前作『「折れない」中小企業の作り方』(日刊工業新聞社、2012年)で8ページにわたって、このプロジェクトを紹介したからだった。書籍が発刊されたのは2012年10月だったので、まだ下町ボブスレー1号機すら完成していない頃だ。その新年会の出席が契機となり、いつの間にか「プロジェクトの記録を書く」という話の流れになった。

 それから本書発刊まで約1年。本書はプロジェクトが立ち上がったときから、ソチオリンピックを目指し奮闘を続けてきた800日を綴った記録である。残念ながらソチオリンピック出場には至らなかった。しかし、プロジェクトの疾走感と人知れず繰り広げられてきたドラマの数々は、まぎれもなく本物だ。私はプロジェクトのメンバーに一番近い位置で、ともに行動し見続けてきた。「大田区を元気に、大田区から元気を」という掛け声のもと、プロジェクトメンバーが実に活き活きと日々、下町ボブスレーの製造に関わり、やがてそれは業種や地域を超えてスピルオーバーしていく。

 プロジェクトリーダーの細貝淳一さんは、「見たことも触ったこともない」ボブスレーの製作をまずは「できる」と信じて、プロジェクトを強力に牽引してきた。この「できる」と信じる強い気持ちが、多くの人を惹きつけ、数々の奇跡をもたらしてきた。「志」は人を動かす。不可能を可能に変えていく原動力だ。

 しかし、このプロジェクトのメンバーは特別な人たちではない。日々、モノをつくり、実直に仕事をし、日本の産業の屋台骨を支えてきた市井の町工場の人たちだ。その普通の人たちが「志」を持ち、ともに喜びを分かち合い、互いを認め合い支え合いながら行動していく。その結果、地域からイノベーションを起こすことができる。氷上を疾走するボブスレーのように、全力疾走してこの期間を駆け抜けてきたプロジェクトのメンバーたち。

 ソチオリンピックの切符は残念ながら手中に収めることができなかった。しかし、次の平昌オリンピックに向けて、新たに歩み始めている。その熱い「職人魂」の片鱗を少しでも本書を通して感じていただけたら幸いだ。



奥山 睦

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